オールイン

結局ユウキと俺は、そもそも大きな勘違いをしていて


そんな勘違いの上に積み重ねた日々が

瓦解せずに体裁を保っているのは奇跡のようで




…端的に言えば

仲直りしましたって所だろうか?


その後、大見得切っちゃった俺と、散々泣きまくったユウキは

お互い何だか気まずくて無言だったが


ユウキのお腹空いたから

ハンバーガーが食べたいという

鶴の一声のもと二人レジに並んでいる


「ユウキは何食べんの?」


「…この前のと一緒でいい」


前に食べたのは

照り焼きだっただろうか?


「りょーかい」


二人で並んでトレイを持って

空いている席に座り、手を合わせる


「いただきます」


二人揃って食事も

後三日だと思う暇すらなく

俺はハンバーガーを前に考え込む


ユウキの欲した願い

それは最初の時のように

あまりにも曖昧に聞こえて


その時は彼女を知らなかった故の

安請け合いだった


そして今回は

彼女がただの女の子と知ったが故の

諦めきれない意地で


それでも、俺は今と同じように

ずっと彼女の

その願いに向き合っていた筈なのに

その答えを出せないでいて


…正しく言えば

それに踏み切れないでいる


彼女の願いは多分、明確で簡単で

シンデレラのように王子様と結ばれる


だからこそ、俺には難しく


ぐるぐると思考は同じところを回り

前に進もうとせずに


そんな事をずっと考えて気がついたらユウキが俺を覗き込んでいる


「何考えてるのかな?」

困ったような笑い顔で俺を見るユウキ


別にそんな心配するような事じゃない

いつも通りの事を考えてるだけだ


「いや、ろくなこと考えてないよ」

俺も笑って、そうユウキに返す


ユウキはそれに安心したのか

いたずらっぽく笑って


「じゃあ言ってみて?」


…まぁ特に聞かれて困るもんでもない

「世界平和とか、世界経済の行く先とかそんなん」


「…ほんとチアキは嘘ばっかだね?」


そう彼女は笑うけれど嘘な訳ではない


ただ俺の言う世界が

ものすごく小さい範囲の話ってだけで


世界経済の行く末を見通すことで

頑張れば20億ぐらい稼げるんじゃないかなって思ったまでで


間違っても、面と向かって

ユウキの事をずっと考えてたなんて言えないだけの、いつも通りの俺だ



それが過大解釈は言わずもがな

それでも勘違いしたのは向こうだと

訴訟も辞さない構えである


…まぁ、勝訴の自信は無い


行き詰まった俺は

違う視点のアプローチも必要だろうと

持っているスマホで「幸せ」と検索してみる


そこには

運がいいとか、幸福とか書いてあって


……幸せって運なの?

つまり人生は運ゲーって事?


諦めきれず幸福と検索すると


満ち足りて、楽しいこと、幸せ 

なんて文字が並んでいて


俺はため息を付くしかない


前半二つは生憎持ち合わせが無くって

最後は堂々巡りときたもんで



結局のところ分かったのは

俺が考えることも

世の中の定義も大差なくて


結局、それはよく分からず


分の悪いギャンブルをするしか無いっていう再確認だけで


道理で、人生攻略バイブルとかいう本が執筆されない訳だと思った


絶対最後に、この先は自分の目で確かめようとか書いてあるやつだろ、ソレ


俺はスマホを放り投げ

諦めてハンバーガーに口を付けた



ーー「寒っ…」

食べ終わってショッピングモールの

外に出てしまえば、そこは極寒で


パーカー姿の俺は、このままだと

ユウキよりも先に死んでしまう


…マジで上着持ってくればよかった


帰り道に歩きながら

ユウキは思い出したように俺に聞く


「どうやって私を見つけたの?」


あぁ、それ聞いちゃうんだ?


俺たちは赤い糸で繋がってるから

何処にいても分かる、とか


そんな事を言えたら

格好いいのかも知れないけど


多分、俺が笑いながら言ったら

間違いなくヤバイ


完全にGPSかなんか

埋め込んでるようにしか聞こえない


答えはわざわざユウキに話すほど

劇的な事ではなくて


思い当たった所を

片っ端から走って回るという

泥臭くて、頭悪い方法で


…その挙げ句に

居場所を知ってた人が居たなんて


そんな物語にするには

あまりにもつまらない話だから

いつか暇なときにでも思い返すとして

詳細は控えよう


「ガラスの靴すら落ちてないから」

「必死こいて探し回って見つかった」

「…それだけ」


ユウキは少し笑って

それから意を決したように聞く


「…チアキは後悔しない?」

「私のお願いに付き合う事に」


「どんなに頑張っても、私は死んで」

「これ以上何もあげられないよ?」


ーー俺に問うそれは

多分、お互いの最終確認で


「後悔しないかなんて、そんな事分からないけど」


「ユウキは残りの二日、俺と過ごしていいの?」


そう逆に聞き返してみた


ユウキは俺を見て一言だけ

「…いいよ?」


そんな諦めているのか

期待しているのかも分からない

声音で返事を返されて

言葉にすればもう引き返せない


「私が死ぬまでよろしくね?」


ユウキはそう笑って俺を見て


…もう引き返せないというのなら

神はサイコロを振らないと言うのなら


俺がそれをしなければならない


持てるすべてをBETする

破滅に向かうギャンブルを始めよう


息を吸い込み

ユウキを見据えて俺は言う


「明日デートしようか?」


ユウキは足を止めて

目を見開いて固まってしまい


俺にとって

永遠とも思える時間が流れる


「…いいよ?」


その声を聞いたときに

やっと握り続けていた拳は緩んで


「何処へ行くの?」



…残念ながらプランしかない

もう、ずっと前から決めていたから


「それは明日のお楽しみってことで」


ユウキはその返答にニコニコしながら

「分かった、期待してるね?」


しれっと上がったハードルから

目を逸らし、恥ずかしさを誤魔化すように、俺は先を急いで


いつか辞書で引いたハッピーエンド

その言葉を思い返す


「物語の最後が都合よくめでたく終わること」


そこには嘘をついてはいけないとも

人を騙してはいけないとも書いてはいなかった。


だから不幸なユウキにも

そして不幸な俺でも


都合よく、めでたく

この関係を終わらせられる筈だと

自分に言い聞かせ


不確かで、曖昧に揺らぎそうになる

そんな物を根拠にして


また俺は、間違えようと決めた


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