ハッピーエンド、その間違いについて
結局、なにか喚き散らして
男達は逃げてしまった
ユウキは何も言わず
そんな男達を見送って
虚ろな目のまま
俺の横を通り過ぎようとする
慌てて俺はユウキの手を掴む
「…何処行くんだよ?」
そんな俺に
ユウキは目を合わせず冷たく言い放つ
「ここじゃない何処かだよ?」
その返答に怯みそうになるが
喋ってくれたことに少し安心して
そして、幸いな事にユウキは
クリスマスに予定は無いらしい
「…なんかご飯食べない?」
彼女が虚空を見据えてるとき
ずっと何を話そうと考えていた
どうやって言おうと悩んでいた
でも、ユウキを見れば
自然と言葉は出てきてしまって
というか俺も朝からユウキを探して駆けずり回ってたせいで何も食べてない
…給水だけはしたから飲まず食わずって言えないのが残念ではあるが
「…お腹空いたからさ」
目を合わせようとしない
ユウキに問いかけて
彼女は何かを堪えるように吐き捨てる
「じゃあ貴方が…」
「私を殺してくれるの?」
「嫌だね」
俺は即答する
「てかさ、俺言ったじゃん?」
「なにかして欲しいなら、ちゃんと目を見て」
「名前を呼んでお願いしろって?」
キャラでも無い、俺様キャラとか
マジ痛々しいにもほどがあるが
その言葉に
ユウキはゆっくりとこちらを向き
俺の目を見て、俺の名前を呼ぶ
「…ねぇちあき?」
「…何だよ、ユウキ」
「私を……」
彼女の目から涙がこぼれ落ち
そのままボロボロと泣き出し震える声で伝えようする。
「ころしてちょうだい?」
もう驚きはしない、それでも
それが彼女の望みなら
俺は喜んで彼女を殺そうと思う
二階に併設されたホームセンターでありとあらゆる工具を買い込んで彼女を殺そう
屋上から突き落としてもいい
練炭で、首吊りで、車で轢いて、密室トリックを駆使して
どんな要望にだって答えてやる
捕まったって
たとえ死刑になったってどうでもいい
そんなふうに言い切れるけれどーー
そんなものは望むまでも無く
やって来ると俺は知っているから
俺じゃない誰かが
性悪で底意地の悪い神様ってやつが
出来るって、そう知っているから
だから俺はこう言うのだ。
「却下」
彼女は目を見開いて
「なんで?」
「だって、ユウキ笑ってないから」
「ちゃんと前言ったと思うけど?」
俺は笑って、いつか言った
俺たちだけが知る言葉をなぞるように
「それにさ、そんなものはユウキに必要ってだけで」
「不幸なユウキでも、いつか貰える当たり前だからさ」
「…だから、違うもん選べよ?」
くだらなくて、つまらなくて
それで俺だけにしかあげられない
他の誰にも貰いたくない
ユウキが自分で言っていたそれを
…そんな特別を俺は欲してて
それを聞いたユウキは子供のように泣きながら、縋るように俺に抱きついて
「ねぇ…チアキ?」
ーー確かめるように、怖がるように
「それならせめて、私に…」
それでも顔を上げ、俺の目を見て
泣きながら笑って
「わたしにハッピーエンドをちょうだい?」
そう、俺は初めから間違えていた
彼女が欲してたのは
ハッピーエンドなんて
ルビを振ったのは、俺だったから
初めから食い違って
何もかも間違えていて
それでも彼女は願いを口にした
本当かどうかは分からなくて
嘘なのかもしれないけど
ーー彼女もその先をなぞるように
「私は何もあげられないけど」
…そんな事どうでも良かった
だって俺があげた物だって
他人から見たらゴミみたいで
下らなくて、ろくでもなくて
高価な物じゃないけれど
それでもユウキは特別と笑ってくれた
弱くてみっともない
俺を認めてくれるとそう言った。
だから彼女が
自分で価値のないと言うそれを
心をくれるというのなら十分だった
「そんな安っぽくて、くだらない物でいいなら」
それか強がりだと知っている
三億円あっても
手に入らないことも分かってるけれど
それでも俺は笑うのだ
「俺がプレゼントしてやるよ」
ちゃんと俺の目を見て名前を読んで
ユウキは欲した
王子様でも神様でもなく
他の誰でもなく俺に願った
…笑えてたかと言うと微妙だったが
嬉しいときにも涙は出るなんて
それすら誤魔化して
世界を救うのも、悪の組織と戦うのも、異世界転生も、ハーレムも
ーーお姫様と踊るのも
取り敢えず
他のかっこいい主人公に任せるとして
神の祝福も、勇者の血筋も、封印された右目も
何一つ持ち合わせてないけれど
そんな皆さんより
ありとあらゆる物が欠落してて
嘘つきで格好良くなくて
ーーそれでも強い俺は
せめてユウキだけは
幸せに出来るように、足掻いてやるよ
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