消去法的恋人戦略ー愛しい彼の一番になるたった一つの冴えたやり方ー
虹色
第1話
『消去法的恋人戦略ー彼の一番になるたった一つの冴えたやり方ー』
ーー
恋人になりたい相手、つまりこの本を読んでいる君の好きな人、その人を振り向かせることは、容易である。
君以外の対象の周りの異性を、対象の好意のレベルについて、上から順に消せばいい。
最後に残るのは、抹消者たる君だけだ。
対象が一般人であり、君がその抹消をただの一度も認知されずに実行できれば、確実に意中の人を君のものにすることができるだろう。
消去法は、人類が生み出した叡智である。
君の恋の成功を、私は祈っている!
命短し恋せよ乙女!
ーー
野々村君の周りでは、よく人がいなくなる。
小学生の時は、佐藤さんが事故で、
中学生の時は、斎藤さんが病気で、
高校生の時は、山本さんが自殺で、
大学生の時は、国枝さんが事件で、
いなくなってしまった。
彼女たちに共通するのは二つ。
女の子であること。
野々村君の好きな相手であること。
この二つ。
だから、野々村君は人を好きになることをやめてしまった。
「鈴木さんだけだよ、こんな僕の側にいてくれるのは」
野々村君は、私に笑いかける。
儚げで、壊れそうな笑顔を私に向ける。
その顔が可愛くて、ひどく愛おしい。
野々村君は幼馴染で、幼稚園からの友達だ。
男女間の友情なんてない、とよく言われるけど私たちの場合は別だ。
いや、男女間の友情のことを、もしかしたら恋とか愛とか言うのかもしれないけれど。
私は、野々村君のことが好きだ、
世界で一番彼のことを想っていると思う。
けれど、私は彼の恋人には、彼にとっての『一番』にならない、
なろうとしない。
なりたい、と思った時もあった。
けれど、この『幼馴染』で『親友』という立ち位置が心地良くて、諦めてしまった。
だって、『二番目』とも言うべきこの場所は、彼との時間を『一番』安らかに、『一番』長く共有できる。
テスト勉強を一緒にしたり、
どこかへ一緒に遊びに行ったり、
誰かを好きになったと相談されることも、
この『幼馴染』で『親友』だからできること。
だから、私はこの関係性を崩したくない。
けど、彼のためなら何だってできる。
例えば、誰かを事故に見せかけて抹消することも。
例えば、誰かを病気に見せかけて抹消することも。
例えば、誰かを自殺に見せかけて抹消することも。
例えば、誰かを事件に見せかけて抹消することも。
あくまで例えの話だけれど、私にはできる。
それくらいは、彼のためなら実行できる。
呼吸をするように、
邪魔な小石を蹴飛ばすように、
一切の後悔、罪悪感を持たずにできる。
昔読んだ恋愛指南本の条件を、私は容易にクリアできる。
不幸な偶然が重なり続けて、野々村君の周り四人の女の子が消えてしまったけれど。
その結果、彼は誰かを好きになることをやめてしまったけど。
そんな彼は昔と変わらず、今日も昨日もその前も、私の隣にいる。
「鈴木さんは消えないよね?」
震える声で、野々村君は言う。
そんな彼の頭を、私は優しく撫でた。
「消えないよ。私は野々村君の親友。ずっと側にいるよ」
私の返答に野々村君はごめん、と言った。
そして、
「僕は鈴木さんのことが好きだ」
初めて聞く、彼からの『好き』という言葉。
やっと、一番になれた。
嬉しい、
胸が痛い。
幸せな気持ち、
体が痛い。
神さまありがとう、
呼吸が苦しい。
これが恋の病、というものかもしれない。
意識が、かすむ。
いや、そうではない、これはきっと、
「ありがとう、私も好きだよ、野々村君」
遠のく意識の中、伝えた。
両想い、になれた。
私の人生のクライマックスとしては、最良で最高で、
一番の終わり方。
好きだよ、野々村君。
過去も今も未来もいつだって私は君のことが、
大好き!
ーー
野々村君の周りでは、よく人がいなくなる。
鈴木千佳の場合は、ショック死だった。
消去法的恋人戦略ー愛しい彼の一番になるたった一つの冴えたやり方ー 虹色 @nococox
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