二番目しか選べない異世界ライフ
達見ゆう
二番目しか選べない異世界ライフ
俺はガラス細工職人の貴博。仕事も軌道に乗り、結婚も決まって正に順風満帆の人生だった。
だった、というのは俺がトラックにはねられて死んでしまったからだ。いや、サキコと関係を清算しようとしたんだ。婚約者の親友と二股を続けたまま結婚なんてヤバいしな。
別れ話をした途端サキコの奴、俺を道路に突飛ばしやがった。
心残りはサキコにプレゼントしようとしていたフクロウのガラス細工だ。結果的に渡さなくて良かったと思うが、バレないかな。まあ、母さんは仕掛けを知らないし、普通に息子の形見として室内に飾るだろう。
やはりサキコは遊び相手で結婚向きじゃなかったな。
そして、この霧がかかったような空間で女神と対面していた。
「貴博よ、そなたは現世で死んでしまったが、異世界に転生してもらいます」
おお、これが噂の異世界転生か。チート能力使って魔王倒してハーレムしてウッハウハの世界へ行ける! 残してきた
「その前にですね、条件があります。あなたは二番目しか選べません」
「はい?二番目しかって?」
「ありとあらゆることに一番目ではなく二番目に選択したことが発動します。例えば宿で頼んだメニューが品切れで第二希望に切り替えとか、一番欲しい剣が買おうとしたら壊れてしまって二番目に選んだ剣を買わざるを得ないとか」
なんだか微妙に不便な条件だ。
「ええ、前世を軽く調べましたが、あなたは二つあるお菓子を選べなくて駄々をこねて両方せしめたり、付き合う女性も選べなくて二股したなど、欲張りな生き方を続けてきましたね。そのバランス調整というか、転生のハンデと言いますか。でもチート能力は授けますし、そのステータスでも現地人に比べればかなり有利に過ごせるはずです」
チートにハーレム、この言葉に魅せられない男はいない。二番目の人生でもあるんだ。一番が選べなくても二番でもそれなりに満足するだろう。
俺はこの条件を飲み、異世界転生した。
確かに二番目ばかりを選ぶ異世界ライフであった。パーティーメンバーを組もうにも一番仲間に欲しかった剣士や魔法使いはタッチの差で他のパーティーと契約されてしまったり、一番ダメージを与える技も使おうとするとよろけたりして使えなかったり、微妙に不便でイライラさせられた。
しかし、それでもやはりチート能力のおかげで無事に魔王との戦いを制し、世界は平和になった。
平和になってしまうと勇者というのはお払い箱だ。退屈と居心地の悪さに辟易していると、再び女神が俺の前に現れた。
「よくぞ魔王を倒しました」
「ああ、二番目しか選べなくて不便だったが、チート能力のおかげだ。しかし、平和になって居心地が悪いったらない。勇者年金で暮らしていけるが、ぬくぬくしていると陰口を叩かれる始末だ」
「どうしますか? このまま現世に戻ることもできますよ。ちょーっと世界線を調整して、意識不明の重体ということにして蘇るという設定になりますが。他の異世界に移ることもできます」
現世に戻る、置いてきてしまった
「い、いや、この異世界に留まるよりは他の異世界に移りたいな」
「あ、はい。じゃあ、この異世界に残留と」
「おい。聞いてるのか? 他の異世界に移りたいと言ったろ?」
「いえ、第二希望しか選択できないと最初に言ったでしょう?」
「な、これもその法則が発動するのかよ?!」
なんてことだ。でも、元の世界に戻って血祭りやサキコのメンヘラに執着されるよりはマシかもしれない。でも、
「まあ、退屈というのなら、現世から誰か転生させることもできますよ」
あ、それはいいかも。まあ、あちらで死なせてしまうことになるが、魔法やドラゴンがいる異世界は結構パラダイスだろう。むしろ、この異世界で好きな女とラブラブ生活もいいかもしれないな。討伐ではない旅に出るのもいいかもしれない。
「え、じゃあ……」
「はい、セカンドのサキコさんですね。もう、めんどくさいから頭の中の優先順位を読んで情報つかみましたわ。すぐに転生させますね」
「え……。おいっ!」
「言ったでしょ? どちらか選べなくて欲張りな生き方した前世の報いだって」
女神はこれ以上はないくらいの笑顔でにっこりと微笑んだ。
二番目しか選べない異世界ライフ 達見ゆう @tatsumi-12
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます