7ページ目 ヒストリア天武祭


あれから3ヶ月、スピカと一緒に学校生活を過ごしていた時のある日の事だった。

サカイ先生が授業の終わりに、生徒を見渡して教壇に立つ。

そのまま、一枚の紙を取り出して、黒板に張った。


そこに書かれていたのが。


「ヒストリア天武祭?」

「シャルくんは知らないのかな?」


隣席のニーアが話しかける。


「ああ、此処に来るのは初めてだからな」

「んふふー、では、私が教えて上げましょう!」


そう言って、何処からともなく眼鏡を取り出す、ニーア。

若干、賢く見えるのが、またシュールに感じる。


「ヒストリア天武祭というのはですね。簡単に説明しますと、腕自慢大会みたいなものです!」

「腕自慢大会か・・・」


シャルは昔、レイルとまだ敵対していた時の事を思いだす。

その度に何処かで、互いに力を競い合った時のことが懐かしく感じる。



「(また、アイツと戦いたいな・・・)」


そう言って、隣のニーアを見る。

急に見つめられたのが、恥ずかしかったのかニーアは顔が赤くなる。


「ど、どうしたの?シャルくん?」

「あ、いや、昔の友人に似ててな」

「あはは!昔って、まだそんな年じゃないのに、シャルくんはたまにおじさんみたいなこと言うんだね」

「お、おじさん・・・」


ニーアの言葉が胸に突き刺さる。

その一言で一気に方が重くなる。


「(前世では20代後半まで、生きてたけど・・・おじさんじゃないよな?そうじゃないと、信じたい)」


すると、先生が黒板をノックするように叩き、皆を注目させる。


「というわけで、お前たちにとっては初めての天武祭だ。基本的には1対1の個人競技になる。優勝とか問わずにこの大会で実力を示すことが出来るなら、学校に通いながらになるが、冒険者になる資格を与えられることが出来る。他にも卒業後ならヒストリア精鋭騎士団の所属、王宮専属の近衛騎士団の推薦が可能だ。そして優勝者には、賞金100万ゼニーが送られる。」


生徒たちは一斉に歓声をあげる。賞金100万や騎士団の所属。どれも待遇がよさそうな言葉がズラズラと出てくる。

しかし、シャルはそんなのには興味がなく、冒険者の資格という言葉に反応する。

本来の自分の目的がこの大会にあったのだ。


「冒険者・・・」

「シャルくんは冒険者になりたいの?」


シャルの呟きに反応するニーアはすかさず聞いてくる。


「ああ、俺は冒険者になる為に来たんだ」

「へー!そうなんだね!じゃあ、尚更気合を入れないと駄目だね!この大会は各国の王様たちとギルドマスター、騎士団長が見に来るんだよ!だから、皆はこの時期には気合が入ってるんだよー」

「ほお・・・」


最近、クラスメイトの皆がピリピリしているのはそう言う事なのか、各国から王族やギルドマスターとか来るとなると、自分の良い所を見せたくなるのは当然な事だ。


「とりあえず、参加したい奴は俺の所まで来い、以上だ」


そう言って、いつも通りにサカイ先生はトボトボと歩いて出ていく。

クラスメイトたちも授業が終わったと言って、教室から出ていく。

ある程度、人がいなくなるとスピカはシャルに駆け寄ってくる。


「シャル!冒険者の資格のチャンスが!」

「ああ、そうだな」


そう言って、スピカは嬉しそうに話す。

若干、視線が痛いが、それよりもスピカの嬉しそうな姿につい自分も微笑んでしまう。

しかし、それは一瞬のことだった。


「っけ、冒険者がどこがいいんだか」


クラスメイトの一人が吐き捨てるように言う。

入学当初に先生に突っかかってきた、大柄な剣士の生徒だった。

たしか・・・


シャルは男の名前を思い出そうとして、考えた結果。


「ゴリラ・バナナダイスキさんでしたっけ・・・」

「ちげえよ!?ゴイラ・バナード・イスラだよ!?この野郎!!」

「ああ、そうだった、ごめんごめん」


ゴリラと名乗る男は、シャルを小馬鹿にしたかのように言う。


「騎士団の方が約束された未来と安定があるのに、それ比べて、冒険者は危険な事ばかりだし、何なら命を投げ捨てるもんだぜ、なぜわざわざ死にに行くのか俺には分からんな」


そういうと、隣にいたスピカはゴリラに今でも攻撃しそうにしていたが、目でやめるように合図を送る。

不満げだったが、この場一帯を吹き飛ぶ未来を避けることは出来た。

すると、ニーアが。


「ゴリラくん!そんなこと言っちゃだめだよ!」

「そうだよ、バナナダイスキ、別に俺が何になろうと勝手じゃないか」

「てめえら!俺を怒らせてるのか!?ゴイラだといってるだろうが!!」


ゴリラは顔が真っ赤になり、今でも殴りかかってきそうだ。

それを見た、スピカは後ろでうずくまって身体を震えていた。

どうやら、ニーアが天然なのか、そのおかげで機嫌は少し良くなったようだ。


「シャル!てめえ、馬鹿にしやがって!表に出やがれ!」

「そんな傲慢な・・・そもそも、ゴリラが最初に突っかかって来たじゃないか、俺が喧嘩を売ったわけでもないのに」

「だから、ゴリラじゃねぇっていってんだろ!?この野郎!!」


そう言って、ゴイラは背中に背負っていた剣を取り出し構える。

沸点がこうも低すぎると、誰かとパーティーを組むときに、悪影響を及ぼしかねない。

そう考えていると、叫びながら攻撃しようとした。


「大賢者様に好かれているからって、調子に乗るんじゃねえぞ!」

「結局、逆恨みかよ・・・」


そう言って、攻撃しようとした瞬間に、シャルと目が合う。

目が合った瞬間、正面ギリギリで攻撃が止まる。

一歩間違えれば、大惨事になりかねなかったが、シャルはそれが分かってたかのように涼しい顔をする。


「う、うごけない・・!?な・・ぜだ!!」

「シャルくん、何したの?」


動けないゴイラを見て、ニーアは何が起こったのか分からなかったようだ。

ゴイラは必死に動こうとしているが、それともビクともしなかった。


「ああ、ちょっとな」

「ちょっとってなんだよ!早く何とかしやがれ・・・!」

「ったく・・・本当にゴリタは傲慢だなあ」

「もっと名前の面影なくなってるじゃねえか!?」


シャルは攻撃が当たらない位置に動く。

そのままゴイラの視線を外すと、勢いよく空振って転がり、壁に激突する。


「シャル!てめぇ!何しやがった!」

「わかった、わかった!そんな興奮しないでくれ、ちゃんと説明するから剣を納めてくれないか?そんな状態で、剣を向けられても説明できないじゃないか」

「・・・わかった」


ゴイラは少し不満げな顔だったか、説明すると言えば剣を納めてくれた。

ニーアはその光景に少しホッとし、スピカは未だに「ゴリラが転がった・・・ククク」と良いなら隠れて笑っていた。スピカ・・・悪化させないでくれ・・・。


「んで、何したんだよ」

「神経を麻痺させた」

「は?どうやってだよ!」

「俺と目が合っただろ?あの時だよ。麻痺させるというよりも、無意識に恐怖を与えたといったほうが良いかな?」


これはシャルの架空技能の『蛇ノ眼≪アング・フルガ・オクル≫』。

前提条件として、シャルと目が合うのが必須だ。

相手の眼に向けて、微調整された殺意に魔力を乗せて放つことによって、眼の神経から殺意を通らせる。

その結果、神経は無意識に恐怖して硬直させ、相手の動きを止めることが出来る。

ただし、どちらかが目を逸らせば、その時点で効果は無くなる。


その事をゴイラに説明すると。


「なんだよ!そんなのシーフの技じゃねえぞ!」


と言う。

そりゃあ、本来は殺人鬼だし・・・とは言えない。

だから、適当に誤魔化すことにした。


「まあ、"昔"色々あったんだよ」


隣でスピカは頷く。

嘘は言ってない、前世で覚えた技を使っただけである。


「というわけだ。もういいだろう?それにそろそろやめにしないと、お前の命が危ないことになるぞ」

「あ?なんでだ?」


シャルは後ろに立っていた、スピカを指した。

すると、苛立っているのか、彼女の身体から赤い魔力が徐々に滲み出てきている。

それを見たのゴイラは流石にやばいと思ったのか、後退して教室から出ようとする。


「く、くそ!!この仕返しは天武祭で返してやるからな!覚えとけよ!」


そう言って、教室から逃げていく。


「まったく、自分から絡みに来たというのに、我が"ほんのちょっと"だけ魔力を出しただけでビビりおって、情けない男だな。シャルぐらいに骨があるやつに来てほしいものだ」


スピカは邪魔がいなくなったと確認すると腕を組んでくる。

若干、柔らかいものが当たっているが気づかない振りをしておく、なんせ何時もの事だからだ。


「スピカちゃんは本当にシャルくんの事が好きなんだねー」

「うむ、我とシャルは似たな者同士だからな!」

「似た者同士?どういうこと?」


とニーアが聞いてくる。

めんどくさくなりそうだから、違う話題して、気を逸らすことにした。


「しかし、天武祭か・・・」

「そうだ!シャルは出るのか!」


スピカは天武祭の言葉に食いついてくる。

そう、むしろ天武祭に参加しない理由とがない、これ以上にない近道だった。

机の中から一冊の本を取り出し見つめる。


「シャルくん、その本は何?」

「ああ・・・これは、友人から貰った日記帳だよ」

「へー!結構分厚いね、何に使うの?」


そう言って、興味津々に聞いてくるニーア。

その姿が、再びエルの面影を重なりわせてしまう。

シャルはつい微笑んでしまう。スピカはそんなシャルの姿を静かに見守っていた。


「本当に似てるな・・・」

「え?なにが?」

「いや、なんでもない。その友人との約束でこの日記帳に世界を旅して、その景色を書くことが目的なんだ」

「へえ!とても素敵だね。きっと、シャルくんが書いてくれたなら、喜んでくれるよ!」


ニーアの笑顔は純粋だった。

それは裏表も何もない、何も知らない、ただただ綺麗な笑顔だ。

何人のも人の顔を見てきたシャルにとっては、眩しすぎたのだ。


「ああ、そうだな、そうだといいな」


そう、ぼーっとしてると、スピカが割り込む。


「シャルは結局でるのか?天武祭とやらに」

「ああ、出るつもりだよ」

「そうか!そうだよな!うんうん!」


その話を聞いた、スピカは嬉しそうにする。

なにか、企んでいるのか?いや、元魔王だし、企むのが必然だろう。


「んで?何を企んでいるのか?」

「企むも何も、シャルが出るなら、我も出るに決まっているだろう」

「え!スピカちゃんも出るの!」

「当たり前じゃろ?シャルが冒険者になるんだから、我もなるに決まっておる!」


スピカは胸を張り、言い切る。


「それに本気のシャルと戦ってみたいのだ!」

「ああ、なるほどね」


彼女の本来の目的はそこにあったようだ。

思えば、今の姿の魔王と本気で戦ったことはなかった。

まあ、旅仲間だからでもあって、余程の修業バカか腕試しのやつしか戦わないだろう。


「そういや、シャルくんとスピカちゃんって、結局の所はどっちつよいの?」

「「スピカだ(シャルよ)」」


お互いの回答がすれ違う。

すると、スピカが反論する。


「何を言っておる!実力ならシャルの方が上でしょ!!」

「バカ言うな、大賢者に勝てるわけないだろ、そもそも合成魔法を使っている時点で規格外だよ」

「え、合成魔法も使えるんですか!?」


かくして、互いがどっちが強いかという話が、2時間も続いたが、結論はどっちもどっちで収まる。



「ったく・・・馬鹿にしやがって!」


ゴイラは寮に戻る道中、寄り道をして、川を眺めていた。

今日の出来事を思い出すだけで、腹が立ち、川に向けて石をぶん投げる。


「くそ・・・!冒険者が何が良いんだ!どうせどいつもこいつすぐに死ぬくせに・・・!」


ゴイラは懐から、一つの短剣を取り出す。


「なんで、死んじまうんだよ・・・父さんの馬鹿野郎・・・」


涙を拭き立ち上がる。

帰ろうとして、後ろを振り向くと、黒いローブを着た男が立っていた。

そんな異様な雰囲気をだしていたのか、ゴイラは背中に付けていた剣を抜こうとする。

ローブの男は逃げ出す事もなく、そのまま、話し続ける。


「やあ、そこの君、力が欲しくないかね?」


最初の一言がそれだった。

だが、ゴイラはそんなの無視して、何処かへ行こうとする。

あまりのも胡散臭かったから。


「君のお父さんみたいになりたいのかい?」

「・・・!?」


振り返ると黒ローブの男はいなかった。

前を見ると、いつの間にかそこに立っていた。


「い、何時の間に・・・!」

「君はお父さんみたいになりたいのかい?」

「う、うるせえ!お前には関係ないだろ!」


剣を抜き、そのまま素早く斬ろうとする。

しかし、その剣撃は片手で止められる。


「やだな、力を貸そうって言ってるだけじゃないか」

「っぐ・・・なんだこの化け物は!」


そして、剣を掴んだ手から、”闇”が出てくる。

その闇は次第にゴイラを握るように取り込んでいく


「くそ!なんだこれは!」

「さあ、ちょっとした、プレゼントだよ」


ゴイラは抗えない力で意識が途絶えた。

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元殺人鬼は自由を求め、転生して冒険者へ 出無川 でむこ @usadayon1124

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