6ページ目 勇者ニルヴァナフと仲間達
入学式が終わって、一緒にスピカとニーアと帰っていると、ニーアとは別の寮の為、途中で別れる。
すると、ニーアは何かに驚いている。
「あれ?スピカちゃん、女子寮はこっちだよ?」
「うむ?我はシャルと一緒の部屋だから、こっちで問題ないぞ?」
「っえ!?シャルくんと一緒の部屋なの!?」
別に驚くことはないだろう、今まで一緒に旅したわけだし、何を心配してるか分からないが、何かやらかすつもりはない。
そう考えていると、スピカは何かを察したのか、悪い顔をしてニーアと話す。
「おや?別にシャルとは2年間ずっと一緒に寝ているぞ?もちろん、外でもな」
「そ、外でも・・・!!」
そう言って、何故かニーアは興奮気味だったが、俺はあえて突っ込まないことにした。
早く帰りたいのか、スピカ腕を引っ張る。
「ほら、スピカ行くぞ」
「あー!シャルも大胆だの!!そんな大胆にされると、ちょっとだけときめいちゃうじゃないか」
「何言ってんだ、お腹空いたんだ、お前のごはんが食べたいんだ。早く帰るぞ」
そう言うと、ニーアは口を押えて、なにか驚いた表情する。
何か、あらぬ誤解を受けたような気がする。
そして、なぜスピカはそこで顔を赤くするんだ、やめろ。
「あ、う、うん!ご、ごはんだな!ご、ごめん!」
「ニーアも付き合わせて悪いね。それじゃ、また明日」
ぼーっとしている、ニーアを置いて行き、スピカと一緒に寮へと戻る。
なにか致命的なミスを犯したような気がするが、きっと気のせいだろう。
────【寮】
寮に戻ると、なにやら騒がしい。
共学寮の門の前に人が群がるように人がいた。
「なんだか、騒がしいな」
「そうね」
そう言って、スピカが声を掛けると『大賢者様だ!皆、通せ!』と叫ぶ。
さっきまで、群がっていた人たちが、一瞬にして未知が出来ている。
「スピカ、お前って、有名なんだな」
「好きでなってるわけじゃないわよ」
そう言って、少し機嫌が悪そうにする。
あまり目立つのが好きじゃないのだろう。
しかし、大賢者になっている以上は嫌でも目立つだろう、なんせ、勇者パーティーのライラよりも強いことになるのだから。
空いた道を歩くと、寮の前に何人かいる。
そのうちの一人がスピカに気づくと立ち上がって、近づいてくる。
高身長の燃えるようなオレンジ髪の蒼い瞳、背中には剣を担いである。シャルはその剣はどこか見たことある気がした。
そう、一人で思い出そうとすると、オレンジ髪の男がスピカに話しかける。
「こんにちは、スピカさん、いや、初めましてですね」
「む?だれだ?それに何故、我の名前を知っているのだ?」
「ハハハ、何を言ってるんですか。大賢者の貴方を知らない筈がないじゃないですか」
そう言って、爽やかな顔をする。
しかし、シャルはその笑顔の裏には、何か冷たい物を感じる。
すると、後から女性二人組が男にべたつくように近づいてくる。
「勇者さまぁ、このような人を誘うんですかぁ?」
「そうよー、別に私達だけでも良いじゃないの?」
「ハハハ、良いじゃないか。アニス、レベッカ」
「勇者?勇者って事は、まさか・・・」
そう三人で話を勝手に進める。
スピカはしびれを切らしたのか、話を戻そうとする。
「んで、何よ、我はシャルの為にご飯を作らなきゃいけないんだから、どいてくれない?」
その一言、後ろの視線(殺意)が背中に突き刺さる。
スピカには後で、説教しなければならないな。
男は「あ、そうだね」と言って、自己紹介をする。
後ろの女性たちはスピカの態度に気に食わなかったのか、睨みつけるが、スピカをそんなの気にしなかった。
「僕の名前は、レオン=ニルヴァナフ、職業は勇者をやってるのさ」
そう言って、腕を裾を捲ると、職業 勇者と書かれていた。
そして、シャルはレオンが背負ってる剣の事を思い出す。
「(そうだ、あれはレイルの聖剣じゃないか・・・しかし、何故、勇者の家系でもないやつが、聖剣を持っているんだ?)」
一人で再び考え込む。
その間、スピカが話を進める。
「んで、その勇者が、我に何の用だ?」
「ああ、単刀直入に言う」
そう言って、勇者は笑顔で言う。
その笑顔は普通の女性なら、思わず"見惚れて"しまうだろう。
「僕のパーティーで一緒に活動しないか?」
そう、勇者はスピカを自分のパーティーへのお誘いだった。
よほど、自信満々なのか余裕そうな態度で接してくる。
しかし、スピカはというと・・・。
「は?嫌なんだが?」
「え?」
レオンの顔は、予想外だ!という顔でスピカを見つめる。
スピカはシャルの手を握って、その場で立ち去ろうとしていると、後ろの女性二人が止めようとして、話しかける。
「ちょっと!勇者様がさそってるのよ!」
「そうですよぉー、貴方も入ったらいいじゃないですかぁ」
そう言って、スピカを引き留めようとする。
「断る、我は既に心に決めたやつがいるから、勇者など興味がない、他をあたりなさい」
その一言で、さらに勇者に精神的なダメージを与える。
二人は自分たちの勇者様を傷つけたと思い、さらに攻撃的になる。
「まったく、その弱そうな男が何処がいいのかしら?」
「そうですよねぇー、すごく弱そうだし、絶対に守られてばっかりで情けなさそうなやつじゃないかなぁ?」
「なに?」
守られてるのは否定はしない。
実際に一緒に旅をして、ひょんな事で救われてる。
スピカは二人の発言に流石に我慢できなかったのか、徐々に魔力量が上がっている。
「ほう・・・どうやら、命は惜しくないようだな」
スピカの琥珀の眼が鋭く光り、振り向いて二人を睨む。
睨まれた瞬間、二人は一瞬だけ硬直する。
いや、実際には動けなかったと言ったほうが良いだろう。
よく見ていると、二人の額からは冷や汗を掻いていた。
それはスピカに対する恐怖であろうか、それとも強がっているのか。
「では、勝負をしようか」
「勝負?私達に?」
「まさか、一人でですかぁー?」
スピカは頷く。
「ああ、そうだよ。もしも、二人で私に勝てたら、潔く私がお主らのパーティーに入ろう」
「お、おい、スピカ・・・」
「シャルよ、大丈夫だ、安心してくれ」
「いや、そうじゃくてだな・・・」
俺が何かを言う前に、スピカが動き出す。
そして二人に向けて、人差し指を曲げて挑発をする。
「さあ、来るがよい。お主らの実力を見極めて上げる」
「ほざくが良いわ!『俊足』!」
先に動き出したのは、黒髪の少女のアニスだった。
少女は剣を持って、風のように速さで駆け抜ける。
しかし、スピカの視界に捉える。
「ほう、中々良い速さだ」
「ふん!余裕があるのは、今のうちよ!」
そう言って、後ろから回り込み、剣を風に乗せるように振る。
しかし、それを見切っているかのように、右に小さく避ける。
「どうした?外しているぞ?」
「こ、この!」
アニスは追撃をするが、ことごとく避けられる。
スピカが避けていると、後ろから声が聞こえる。
「ほーら、早くはやくしなー、『アイス・ブリザード』!」
そう言って、もう一人の水色髪の少女のレベッカは氷柱を凍えるような風に乗せて攻撃する。
流石に無数の氷柱を攻撃を避けきる事が出来ずに、攻撃が当たる。その際に、制服が破けて血が滲むようにでてくる。
それでも、スピカは眼は冷静で、氷の魔法よりもその目は凍てついていた。
「ふむ、なるほど」
「なに余裕そうにしてるのよ!剣技・一閃!」
すると、鞘に納めて構え集中する。
その間、吹雪と氷柱が、攻撃をさせまいと二人の間に氷柱が突き刺さり邪魔をする。
スピカはその様子を眺めていた。
シャルはアニスの構えは見た事はあった。
「(あの構えは・・・サムライの技、バットウの構えだった筈、何故、あの少女が!?)」
「フフ、驚いただろう?」
「いつのまに・・・」
いつの間にか、隣にレオンが立っていた。
さっきまで、心が折れてて四つん這いになってたのに。
「フフ、彼女のお父さんは、確かヒノクニの出身なんだ。表上は剣士だが、彼女はサムライの技も使えるんだよ」
「なるほど・・・」
レオンの話を聞いて、納得する。
じゃあ、サムライの技は父親譲りという事が分かった。
「だけど、彼女の攻撃はムラがあるな」
「そうなのかい?僕から見たら、ちゃんと受け継いでると思うんだけど」
「見てればわかる・・・」
吹雪の中から、何かが光る。
その瞬間、吹雪が止んだ、いや・・・吹雪を斬ったんだ。
氷柱のズルズルと音がなり、そのまま綺麗な表面が出てくる。
そう、氷柱だけは綺麗に切れていたのだ。
「・・・んなっ!」
「確かに、速い、速いけど・・・目では追えるわね」
吹雪から出てきてのは、抜刀したアニスと親指と人差し指で剣を挟んで受け止めるスピカの姿だった。
「なっ・・・彼女の抜刀は一年生の中では最速のはずなのに!?」
「だから、ムラがあるんだって」
アニスはあくまでも女性だ。
構え方が男性よりになっているせいか、本来の出せるスピードが遅くなってしまってるんだ。
そして、そのままスピカは呟く。
「じゃあ、次は我の番だね」
「っぐ・・・!放せ!」
そのまま、アニスは必死に剣を抜こうとするが、びくともしなかった。
スピカはその状態で、二人に語り掛けるかのように話す。
「じゃあ、特別に氷魔法の本当の使い方を教えて上げる」
そう言って、もう片手でクルクル回しながら、詠唱し始める。
その間、一秒で発動する。
「んじゃ、これ以上は我の前に現れてこないでね、『氷黒の渦に囚われた女王≪アブソリュート・ヴォル・ヴィンクラ・レジーナ≫』」
その瞬間、スピカの周りから、黒い氷が渦になるように、徐々に広がっていく。アニスとレベッカの足を凍らせて、拘束する。
「きゃあ!?」
「う、うごけない!?」
「そりゃあ、そうよ、拘束闇魔法と範囲氷魔法を合わせた、合成魔法なんだから、簡単に抜けだしたら困るわ」
スピカは簡単に言っているが、合成魔法はそんな簡単にできるものではないのだ。
下手したら、属性と魔力が体の反発しあって、激しい痛みと苦痛を起こす。
最悪、身体が爆発して死に至る事もある。
それを平然とこなすのも大賢者だからこそできる芸当かもしれないし、前世が魔王だからというのもあるだろう。
「合成魔法なんて・・・そんな簡単にできる筈がない!?しかも、ほぼ詠唱していないじゃない!」
「っく・・・氷が徐々に迫ってくる・・・」
次第に氷が蝕むように、二人を包んでいく。
そして、スピカは手で止めるように、魔法の動きが止まる。
二人は頭だけ、剥き出しになり動けなくなる。
「はい、おわり。っさ、シャル一緒に戻りましょ」
「お、おい!このままにするのか!?」
「え?当り前じゃない?貴方は我のシャルを馬鹿にしたのよ?明日の朝までずっとそこに入るか、他の人に助けてもらって、それじゃ」
そういって、スピカはシャルの方に向かう。
その際、後ろから叫び声が聞こえるが、知らんふりをする。
「お、おつかれ」
「さあ、シャル!私もお腹空いたわ!今日は何が食べたい?」
そう二人で睦まじく会話していると、隣でレオンが拍手をする。
「流石、大賢者のスピカさん!ますます仲間にしたくなったよ!」
そう言うと、スピカは今でも魔法を放ちそうな勢いだったが、シャルは発動しようとした手を握り、発動を止める。
「シャ、シャル・・・こいつ」
「まあ、抑えて抑えて・・・レオンさん」
シャルはレオンの前に立つ
「なんだい?」
「申し訳ないけど、諦めてくれ」
シャルはレオンの眼を見る。
それは切実な思いを伝える為に、真っすぐ見つめる
「スピカは俺にとっての家族なんだ、だから仲間にさせるつもりはない」
「ほお・・・では、それでも無理やり仲間を入れようとすればどうする?」
「その時は・・・」
シャルは目をつぶる。そして、しばらくしてゆっくりと目を開ける。開けた目は、赤く鈍く光る。
「勇者といえども"殺す"」
「うっ・・・!?」
シャルは本気の"殺意"を身体に叩きこむようにをレオンに向ける。
その瞬間、口を抑えて何かを吐き出しそうにするが、辛うじて抑える。呼吸が次第に乱れ行く。
「・・・っう!君は一体何者なんだ!?」
「・・・ただのシーフだよ」
「嘘だ!シーフ如きに、そこまでの事ができるはずがない!?」
レオンは酷く興奮する。
しかし、シャルはどうでも良く、スピカの手を握り、寮の中に入ろうとする。
「ま、待て!話はまだ・・・」
「どうでもいい、それよりも二人を助け出して来たらどうだ?」
そう言って、指摘をすると、レオンは我に返る。
そのまま、二人の方へと向かいに行く、その際にレオンは言った。
「いつか、スピカさんを絶対に仲間にしてやる・・・
覚えておくんだな!シャルくん!」
そのまま、走って行く姿を見る事もなく、二人は寮に戻ろうとした。
「さあ、スピカ戻ろうか」
「ええ、今日は何が良い?」
「そうだな・・・」
シャルは悩んでいると、ふとスピカの顔を見る。
それで思い出したのが・・・。
「久しぶりに、スピカのビーフシチューを食べたいな」
「分かったわ、腕を振るうわ」
そう言って、お互いに優しい笑みを浮かべて部屋に戻るのであった。
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