2番目だってかまわない。
凪野海里
2番目だってかまわない。
十二支というのは日本人なら誰もが知っている、神に選ばれた動物たちのことだ。
神は言った。「私が開く宴会にあなたたちを招待しましょう」と。そして、開かれた宴会に来た順に、動物たちに順番を与えていった。
子、丑、寅、卯、辰、巳、午、未、申、酉、戌、亥。
この12匹はそういったかたちで順番を与えられ、そしてこれが十二支のもととなったとか何とかかんとか。
この順番通りに行くのならば、丑はもちろん2番目の動物である。丑は最も早く出発したにも関わらず、背中にいつの間にか乗っていた
そしてここにも、1番を
定期試験の結果が全て返され、その日。学校の廊下に学年順位表が貼り出された。
廊下に貼り出される学年順位表を見ようと、すでにそこには多くの生徒たちが群がっていた。が、彼らは皆。彩照の姿に気づくや、彩照のために素早く道をゆずった。その誰もが羨望や嫉妬の眼差しを彩照へと向けていたが、等の本人はまったく気にしていなかった。今はまず、とりあえず順位だ。
「3学年定期試験 学年順位」と銘打たれた壁を覆い尽くすほどの大きな紙には、100人分の名前が記されていた。生徒数はこれの倍以上いるのだが、とりあえず学校としては100位以内に入った生徒のみ、情報を開示しているのだ。
さて、と彩照は自分の名前を探した。
「彩照ちゃん」
名前を呼ばれて思わず、耳がぴくりと動いてしまう。そちらを見ると、白い雪のような髪をした女子生徒が同じく自分を見ていた。
「どうだった?」
彩照はもう一度学年順位表へと視線を戻す。そこには。
2位 牛込彩照
「……いつも通り、だったよ」
「そっか」
女子生徒は優しく微笑んで、「たっくんは?」と彼女が後ろにいる仲の良い男子生徒に聞くと、彼は「ほっとけ」と口にした。
「補修になったら、また怒られちゃうよ?」
「それはだな。まあ安心しろ! さすがにそこまでにはなってない……はず、だ…………」
うろたえる男子生徒に、女子生徒はくすりと微笑みながら、共にその場を去っていった。
それを見送っていると、突如自分たちのまわりを取り囲んでいた周りの生徒たちが一斉に自分に群がってきた。
「残念だったね、牛込さん」
「彩照くんだったら、きっといつか美織ちゃんに勝てる! 俺、応援してる」
「彩照さんはあんなに頑張ってるからね」
彩照は三度、学年順位表を目にした。
1位
先ほど「彩照ちゃん」と名を呼んできた女子生徒の名前だった。
学園寮に戻る。今日の授業はこれにておしまいだ。1日は当たり前だが24時間あり、それがとても長いことはいつものことだ。彩照はあくびを噛み殺しながら教室をあとにした。
彩照は、女性が見るならば女に見え、男性が見るならば男に見えるという、不思議な人間だった。そのため制服はその日の気分で女子用にも男子用にも自由に変えている。彩照は白と黒の入り交じった髪をもち、それをショートカットにしていた。
「彩照ちゃん!」
校門前で名前を呼ばれたような気がして、彩照は顔をあげた。見れば、そこにいたのは美織だった。天使のような微笑みを浮かべながら、彼女はこちらに向かって手を振ってきている。
彩照の顔がぱっと輝いた。
「美織っ!」
すぐに彼女に向かって走り、追い付いた。
お疲れさま、と微笑む美織に、彩照も精一杯の笑顔を返す。
「お疲れ。それと、学年順位。また1位キープおめでとう!」
言えた。やっと言えた!
そう心のなかでひそかに喜ぶ彩照を前に反して、美織の顔は少しかげった。
「あ、きに、気にしないで! 僕の順位なんて」
「そう?」
「そうだよ、うん! 僕は2番で満足なんだ!」
みんなそう。美織もそうだ。彩照がいつも2番をとるたびに、気遣うような目を向けてくる。
みんな「残念だったね」「次があるよ」と言ってくるが、彩照はただの一度もそれを「残念」と思ったことはないし、「次」に期待していることはなかった。
みんな、勝手ばかり言う。みんな、勝手に同情してくる。
自分は、彩照は、別に2番で全然かまわない。1番は美織でかまわない。だってその2という数字は、自分にだけ与えられた称号。自分だけが1を冠する人間を守るに値する存在なのだと、示してくれるものなのだ。
だから彩照は負けるわけにはいかない。美織以外の、いっさい誰にも。
「今日の寮の夕飯、なんだろね」
美織の手をとり、彩照は微笑んだ。
2番目である自分が、1番である美織を守ることができる。
それは彩照にとって、試験よりも大事なことだった。
2番目だってかまわない。 凪野海里 @nagiumi
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