二番じゃ駄目なんですか?

snowdrop

Q

「チーム対抗、ガチンコ早押しクイズ―っ」


 出題者から元気よく、タイトルコールが発表される。

 出場者八名は、互いの健闘を祈って拍手をしあった。


「予選をもとに二チームに別れてもらっています。クイズの説明をします。各チームのうち、一人だけが早押しボタンについている状態です。二問連続で正解すると、次の選手にバトンタッチできます。先に四人目が二問連続正解できたチームが優勝となります。自分が誤答するか、相手が正解したとき、連続正解が途切れます。誤答した場合は、相手は問題文を最後まで聞いてから答えられますので気をつけてください」


 ウサギさんチームとカメさんチームの一人目が、互いのテーブルの上に置かれ早押しボタンに指をかける。


「問題。日本で一番高い山は富士山ですが」


 出題者が問題を読み上げている途中、両者一斉に早押しボタンを押した。

 ピンポーンと甲高い音がなる。

 早押しに勝ったのは、カメさんチームの眼鏡を掛けた少年。

 早押し機のランプが赤く点灯している。


「北岳」

 当然のような顔つきで答える。


「正解」

 ピコピコーンと高音が鳴り響いた。 


「いまの問題は、『日本で一番高い山は富士山ですが、二番目に高い山はなんでしょうか』でした。いま正解しましたので、リーチとなります。次も正解すれば、二番目の人とバトンタッチできます」


 それぞれのスタイルで早押し機のボタンに指をかけ、身構える。


「問題。世界一高い山はエベレストですが」


 ピポピポーン!

 またもや両者、一斉に早押しボタンを押した。

 今回押し勝ったのは、ウサギさんチームの小柄な少年だ。


「K2」

 彼もまた、平然と答えた。


「正解です」


 ピコピコーンと音がなった。


「いまの問題は、『世界一高い山はエベレストですが、二番目に高い山はなんでしょうか』でした。これでカメさんチームの連続正解が断たれました。今度ウサギさんチームが正解しますと、二番目の人にバトンタッチできます」


 レクリエーションルームを貸し切り、クイズサークルの部員がガチの早押しクイズをしている。

 部員の面々は、数多のクイズ大会に出場経験のある強者が集まっていた。


「問題。世界で一番小さい国はバチカン市国ですが」


 ピポピポーン!

 またまた両者、一斉に早押しボタンを押した。

 押し勝ったのは、ウサギさんチームの少年。


「モナコ公国」

「正解です」


 ピコピコーンと音がなり、笑顔で答えるVサインを決めた。


「『世界で一番小さい国はバチカン市国ですが、二番目に小さい国はどこでしょうか』という問題でした。連続正解しましたので、ウサギさんチームは二番目の人とバトンタッチしてください」


 ウサギさんチームの二番目の少年は、片膝をつき、前のめりになりながら早押しボタンに指をかける。


「問題。世界最大の一枚岩はオーストラリア大陸にあるバリングラですが」


 ピンポーン!

 さきに早押しボタンを押したのはカメさんチームの眼鏡の少年。


「ウルル」


 ピコピコーンと音がなり、固めた右拳を上げた。


「正解です。『世界最大の一枚岩はオーストラリア大陸にあるバリングラですが、二番目に大きな一枚岩はなんでしょうか』でした。カメさんチームはリーチになりました」


 両者、早押しボタンに指をかける。


「問題。世界で一番長い川は」


 ピンポーン!

 ウサギさんチームの少年がボタンを押した。


「アマゾン川」

 少年はまばたきをしながら、合否を待つ。


「正解です」


 ピコピコーンと音と共に、おおおっ、と周りから声と拍手が起こった。


「これはどういう問題だと読みましたか」

「世界で一番長い川はナイル川ですが、二番目に長い川はどこでしょうか、でアマゾン川だと読みました。これまでの問題の答えは共通して、どれも二番目のものだったので、今回も二番目のものを問うた問題だと思って押しました」

「そのとおりです」


 出題者の声に笑いが混ざっている。


「ここで、今回のクイズのテーマを発表します。今回のチーム対抗戦は『二番じゃ駄目なんですか?』クイズです。世界一にはなれなかったけれども、二番でも充分すごいものを出題していきます。なので早押しと知識が問われます」


 出場者の八人は、誰も驚いてはいない。

 そうだろうな、という気がしていたからだ。


「ウサギさんチームはこれでリーチです。では次の問題」


 二人は早押しボタンに指をかけて身構える。


「世界で一番面積が大きな湖」


 ピンポーンと先に音が鳴ったのは、またしてもウサギさんチームの少年。


「スペリオル湖」

「正解」

「よっしゃーっ」


 ピコピコーンと鳴り響く中、拳を突き上げて、後ろに並び立つウサギさんチームの子と拳をぶつけ合った。


「ちなみにこれはどういう問題を予想しましたか」


 出題者の問いかけに、こんなの簡単だという顔で少年が答える。


「世界で一番面積が大きな湖はカスピ海ですが、二番目はどこでしょうか、で答えはスペリオル湖。ちなみに三番目はビクトリア湖」


 これぞ知識とはしゃぎながら、三番目の子に場所を変わった。


「それでは次の問題。日本で一番面積が広い湖は」


 ピンポーンと音がなる。

 今度はカメさんチームの眼鏡の少年が早押しを制した。


「サロマ湖」

「残念」


 ブブブー、と不正解のブザーの音が鳴り響いた。


「解答権がウサギさんチームだけになります。日本で一番面積が広い湖は琵琶湖ですが、二番目に広い湖といえばどこでしょうか」


 ウサギさんチームの茶髪の少年が早押しボタンを押した。

 ピンポーンと音がなったあと、不安げに答えを口にした。


「えっと、霞ヶ浦」 

「正解です」


 ピコピコーンという音とともに、笑顔になる。


「ウサギさんチーム、リーチです。では、次の問題」


 両者、早押しボタンに指をかける。


「初代アメリカ大統領は」


 ピンポーン!

 ウサギさんチームの茶髪少年が連続して早押しに競り勝った。


「ジョン・アダムズ」


 ピコピコーン!


「正解。問題は初代アメリカ大統領はワシントンですが、二番目は? 答えはジョン・アダムズでした。このままウサギさんチームの独走で終わるのか」


 ウサギさんチームは四番目のアンカーの子と入れ替わった。


「問題。日本の初代内閣総理」


 ピポピポーン!

 カメさんチームのメガネの少年が早押しに押し勝った。


「黒田清隆」

 答え終えて、少年は人差し指でメガネフレームのブリッジを押し上げる。

 ピコピコーンと正解の音が響いた。


「日本の初代内閣総理大臣は伊藤博文ですが、二番目は? という問題でした。カメさんチーム、これでリーチです」 


 両者とも、早押しボタンに人差し指をのせる。


「問題。徳川」


 ピポピポーン。

 同時に押したが、早かったのはカメさんチーム。


「秀忠」

「正解です」


 ピコピコ―ンと軽快な音が響く。


「ちなみに、この問題はどう読みましたか」

「徳川初代将軍は家康ですが二代目はだれでしょうか、という問題だと予想しました」


 メガネの少年は、三番目の子に場所を明け渡した。


「では問題。初代ローマ皇帝」 


 ピポピポーン。

 早押しに勝ったのはカメさんチームの背の高い少年だった。


「えっと、二番目だからティベリウスか」

 ピコピコーン、という音が正解者を称える。


「正解です。では次の問題」


 両者、早押しボタンに人差し指を乗せる。


「新選組一番隊長は」


 ピンポーン、と音がなる。

 早押しボタンを押したのはカメさんチーム。

 ウサギさんチームのアンカーは首を傾げていた。


「二番隊長は永倉新八」

 答えると、ピコピコーンと軽快な音が鳴り響いた。

 カメさんチームのみんなはハイタッチをしあって喜んだ。


「両チームのアンカー対決になりました。果たしてどちらが勝つのか。問題です」


 出題者が問題を読み上げる。

 両者、早押しボタンに人差し指をのせて耳を澄ます。


「源氏物」


 ピポピポ―ン、と音が鳴り響く。

 早押しに勝ったのは、ウサギさんチーム。


「おっと、まだ三文字しか読んでいないのに答えられるのか」

「二番目だから、えっと……空蟬」


 ブブブー、と不正解のブザーが鳴った。


「おっと残念。解答権はカメさんチームとなります。問題を読みます。源氏物語の巻名、最初は桐壺ですが二番目はなんでしょうか」


 ピン、ポーン。

 カメさんチームのアンカーがゆっくり早押しボタンを押した。


「箒木かな」

「正解です」


 ピコピコーンと甲高い音が鳴った。


「これでカメさんチームがリーチです。次で最後になってしまうのか。問題」


 両者、真剣な表情で早押しボタンに指を乗せる。


「WHO・世界保健機関の調査によると、二〇一八年に発表した統計によれば、日本に次いで、世界で二番目に男女合わせた平均寿命が長い国は?」


 どちらもすぐに早押しボタンを押さなかった。

 考え込むウサギさんチームのアンカーを一瞥してから、カメさんチームのアンカーが早押しボタンを押した。

 ピンポーン、と音がなる。


「スイス?」

「正解」


 ピコピコピコーン、と激しく正解したときの音が鳴り響いた。


「なぜ疑問系で答えたのですか」

「ちょっと自信がなかったからです。数年前の順位はおぼえていて、そのときの二位がスイスだった。あれから順位が変化してるかと思ってて、一位が日本、と変わってなかったから、二位も変わってないかもと」

「なるほど」


 とにかく勝ったぞ、とカメさんチームは両手を上げて喜びだした。

 ウサギさんチームのアンカーは、スイスだったのか、と押せなかったことにうなだれている。


「結果発表ーっ。第一回チーム対抗早押し『二番じゃ駄目なんですか?』クイズの勝利チームは、二位に終わった、ウサギさんチームです!」

「はあ?」


 はしゃいでいたカメさんチームの面々は、なにそれ、と驚いた顔をしていた。


「今回のクイズのテーマは『二番じゃ駄目ですか』です。二番でも充分すごいものばかりだったと思います。よって、今回のクイズ大会は二番目のチームが勝者です!」

「まじか! クイズに負けて勝負に勝ったぞ!」


 やったぜ、と両手を掲げてみせるウサギさんチーム。

 とはいえ、なんとも釈然としない。

 両チームとも、苦笑いして健闘を称え合った。

 

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