次の従業員

今村広樹

本編

 ニューラグーン市内の市街地からパーマストン・パークの真ん中らへんに、ムングの聖地である『ドライアード』という森深い小さなオアシスにある町の近くにある同名の小さな霊峰がある。

 ムングとは、帝国と共和国に跨がる遊牧民が暮らす地方のことを言う。

双方から迫害をうけた彼らは、武力から非暴力のいわゆるハンストまで、さまざまな抵抗を続けていた。

 さて、物語はこのドライアードな森に、二人の男がくることから始まる。


「ここが、ドライアードですか、綺麗だなあ」

と、二人組の若い方が物珍しげに、辺りを見渡している。

「ああ、そうだ。こんなところだが、ニューラグーン市の他の地域と同じようにデリケートなところだから、いつもみたいに暴れるなよ、たかし

と、年上の方が、そう釘をさす。

「はあい、ロムさん」

「それでいい」

「ところで、なんでこんなところ来たんでしたけ?」

「いやいや、忘れるなよ、イケナイお薬の工場があるってタレコミがあったろう?」

「ああ、そうでしたね」

と、二人が漫才をしてるうちに、件の工場についた。

 そこには、ムング族の少女が一人しかいなかった。

 崇が、その少女に話しかける。

「ねえお嬢ちゃん、俺らは警察なんだけどさ、責任者はどこだい?」

「知らない」

「他に人はいるのかい?」

と、重ねて尋ねると、少女はコクンと首を縦に振る。

「じゃあ、その人を呼んできてもらえるかな?」

という訳で、少女は同じムング族で初老の男を連れてくる。

「ああ、なんだにゃ?」

「ここがクスリの工場だと聞いてね、あんたらはここでなにしてる?」

「ああ、住むところを探してここにたどり着いたんにゃ。住み込みで働けるんにゃってな」

「それで、工場の連中はどこに?」

「さあ、わしらが来たころにゃ、もういなかったよ」

と、崇と男の質疑応答を聞いていただけのロムが、口を挟む。

「それで、今はこの工場でなにしてるんだ?」

「精肉とかまあ色々にゃ」


 ひととおりムング族の父娘らしい二人と話した崇とロムは、今日はそのまま帰ることにした。

「ご協力、ありがとうございました!」

「ああ、元気でにゃ!」

 工場から離れてしばらくして、ロムは軽く首を振ってこうつぶやいた。

「どうやら、全て終わったみたいだな」

「ええ、どういうことです?」

「言葉通りだよ、もう今回の案件は俺たちの手から離れてるってことさ」

「?????」

 ワケわかんないよ、という顔をしている崇に、ロムは説明する。

「あの工場の奴らは、人身売買もやってたって話だったよな」

「ええ」

「つまりだ、あの父娘の娘の方が拐われたのを、父親の方が助けた。そして、その後始末をやっている時に、ちょうど俺たちが来たって訳だよ。偶然たまたまとは言え、犯罪現場を俺たちは見てたってことだ」

「なら、なんで気づいていたのに、捕まえなかったんですか?」

「工場の連中の自業自得だし、とっくに、証拠も消されてるから証明できないわな」

「はあ」

「ふふ、それにしてもか……」


さて、件の工場は後に伝統工芸の工房になって、工場の二番目の主になった父娘は、今もそこにいるそうな。

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次の従業員 今村広樹 @yono

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