二番目の……

もえすとろ

二番目の彼

これはとある学園のとある男女の物語り


この学園の中で一番の有名人は誰か?

そんな質問をしたなら百人中百人がこう答える

一宮いちみや 美姫みきであると

この一宮美姫さん、可笑しなくらい完璧超人である

勉学は常にトップ、運動神経は抜群、人当たりもよく人望も集める

容姿端麗、文武両道、実家は超が付くほどのお金持ち

まさに絵にかいたような完璧超人よ

そう、彼女は天才で完璧なのよ


そんな彼女を良く思わない男子生徒などいるわけない

みんなはそう思っていた

私も彼を知る前はそう思ってたの


でもね、何事も例外はあるもの

特例中の特例にして異端の男子

彼の事を皆は陰でと呼ぶわ

二番と呼ばれる彼の名前は常盤ときわ 銀二ぎんじさん

常に試験テストの順位は二番目、運動は努力と気合で上位へ、常に勉強を欠かさず友達は少ない、でもいないわけではないのよ?

容姿は悪くないの……でもね、如何せん目が悪く常に眼鏡をかけているの

あの眼鏡のせいで人によっては冷たい印象を受けるの、でも本人は全く気にしてはいないみたい


そんな彼の野望は天才一宮さんに勝つこと

ただ、それだけの為に学生生活の大半を勉学に費やしているの

そんな二番銀二さんを密かに思う女子は一人しかいないわ、きっとね

努力し挑戦し敗北し、また努力して諦めず挑戦し続ける

そんなひた向きな彼の行動を見守るただ一人の女子

彼女わたしの名前は神田かんだ 三位子みいこ(愛称はミーコ)


ミーコは偶然彼の努力を見てしまったの

ノートにびっしりと書き込まれた数学の公式、現代文の教科書に引かれたマーカー

何度も何度も繰り返し使われた英単語帳、リピートして聞き続ける元素周期表の語呂合わせ

そして、球技大会や体育祭があれば出場する競技の練習を自宅近くの公園でする


彼は妥協を良しとせず、常に努力し続けているわ

そんな彼の事を知って気になったの、だから聞いてみたわ

どうしてそこまでして一番に拘るのかって

そしたらね、彼ったら

「一番になれば二番なんて呼ばれなくなるだろ?」って言うの

彼は皆が自分の事を二番って呼んでるのを知ってたの!

嫌ならそう言えばいいじゃない⁉

「俺は嫌だとは思ってない。ただ……」

ただ?

「銀二という名前が気に入っている。だから一番になって名前で呼ばれるようになる。俺は実力で勝ち取るんだ、俺の名前を」

キュンってしちゃったわ、彼の強い覚悟の眼差しを向けられて私は恋に落ちたの

だって、あんなに鋭くて強くて、でも熱い熱い視線を向けられたら、ね?


それから私は彼の邪魔にならないように話しかける事はしてないの

ホントはお喋りしたいし一緒に遊びに行きたいわ

でも、それは彼の願いを妨げることに他ならない

だから、私は別の方法を考えたわ

私も勉強を頑張ることにしたの!

そうすれば、いつかきっと彼と同じ景色が見えると思ったから

ひたすらに勉強して、定期試験で順位を着実に上げていったわ

とうとう私は校内で三位にまで上り詰めたわ

彼は私の事を覚えてないでしょうけど、それでもやっとここ近くまで来たわ

私は彼に声をかけるの

ミーコ「常盤くん」


銀二「ん?君は……すまない。記憶力には自信があるんだが……」


ミーコ「ううん、あの時は名乗ってなかったし。改めて自己紹介させてね。私は

神田三位子よ。よろしくね」


銀二「神田さんというのか、それで俺に何か用か?」


ミーコ「うん……用っていうか少しだけお話ししたいなって、ダメかな?」


銀二「お話し?まぁ、テストも終わったばっかりだし構わないが……俺とか?」


ミーコ「うん。ずっと常盤くんとお話ししたかったの」


銀二さんは少しの戸惑いの表情を浮かべながら了承してくれたわ

レアな表情を見れて、私とってもツイてるわ

私たちは人のいない屋上へ上がってベンチに腰かける



銀二「それで、神田さん話って」


ミーコ「えっと…私、自慢したくて」

それと応援ね


銀二「ん?自慢?」


ミーコ「うん。私、今回のテストで三位になったんですよ?」


銀二「そうか、おめでとう」


ミーコ「えへへ、ありがと!」


銀二「でも、何で俺に自慢するんだ?他に友達とか」


ミーコ「私は常盤くんに自慢したかったの。数か月前の私の順位、わかりますか?」


銀二「いや、わからないな……掲示板に張り出されるのはいつも上位十人だけだ。その中にはいなかったよな?」


ミーコ「うん。私は大体100位くらいだったかな」


銀二「たった数か月で三位か……本当に凄いな」


ミーコ「えっへん!」


銀二「そうか。次は俺に勝つと」

違うわ


ミーコ「私は努力してここまで来れました。だから常盤くん!次こそは一宮さんに勝ちましょう!」


銀二「!?……そうか。思い出したよ。一番に拘る理由を質問してきた」


ミーコ「うん!あの時はごめんなさい。失礼なこと言って」


銀二「いや、あの時声をかけてくれてありがとう。やっとお礼を言えた」


ミーコ「え?なんで?」


銀二「実はあの時、心が折れそうだったんだ。こんなにも努力して勝てないなら、きっと俺には無理なんじゃないかって」


ミーコ「そう、だったんですね」

ぜんぜん知らなかったわ


銀二「でも、君が神田さんが思い出させてくれたんだ。俺の夢を」

夢……二番じゃなく名前で呼ばれるという本当は簡単に叶うはずの夢


銀二「改めて、ありがとう。まあ、今回もダメだったがな」

良かった、あの日のあの時の銀二さんを助ける事が出来ていたなんて!


ミーコ「次こそ勝ちましょう!」

応援してます


銀二「そうだな。次で最後だしな」

少し寂しそうに告げる銀二さん


そう、次の試験が最後なのよ

次の試験が終われば私たちには受験がある

チャンスは後一度だけ

だから全力で勉強するわ


銀二さんが勝てると良いな


それからは今まで通りに会話なんてしないでお互いに勉強をしたわ

だって、あの一宮美姫完璧超人に勝つんですもの





それから時間はす進み……最後の試験が終わった

しっかりと試験範囲を復習して挑んだ試験は点数的には過去最高の点が取れたと思う

でも、頑張ったけど解けない問題が一問だけあって満点は取れなかったわ

答案の返却が終わる

やっぱり一問だけ解けてない……悔しいわ

解けなかったのは数学の最後の一問、そこは赤ペンで△が書いてあった

どうやら解こうと努力したから△をくれたみたい

銀二さんは解けたのかしら?

先生「みんなに一つ謝らなければならない。今回のテストの最後の一問は試験範囲外だった。だから、未記入の者は2点、解こうと挑んだ者には4点付けることにした」

クラス内が騒がしくなる

先生「静かにしなさい。赤点ラインギリギリの山田くん、あんまり五月蠅くすると減点するぞ」

山田「すいません……」

先生「もちろん試験範囲外でも解けないわけじゃない。既に解き方は教えてあるんだ。でもほとんどの生徒は解けなかった。何故か、時間がかかるからだ。ちゃんと公式を使えれば間に合った、そんな生徒には△を付けてある。さて、それでは試験問題で間違いが多かった問題の復習をするぞ」

それからは全体の中で誤答が多かった問題の解き方を丁寧に教えてくれる

そして、放課後


ミーコ「常盤くん」


銀二「ああ、神田さんか。君もこれから見に行くのか?」

見に行く、もちろん掲示板を見に行くという事


ミーコ「うん。一緒に行きましょう」


銀二「ああ、いいぞ」


ミーコ「あっ!そういえば常盤くんは数学の最後の問題解けましたか?」


銀二「ああ、公式は使わなかったが何とか間に合った」


ミーコ「すごいです!私、全然間に合いませんでした……」

やっぱり銀二さんは凄い!あの問題を解いちゃうなんて


銀二「あの問題は仕方ないさ」

どことなく嬉しそう


ミーコ「もしかして間に合ったって事は満点取れたんですか?」


銀二「うん。今回は全教科満点だ」

これは勝利宣言ね、ついにあの一宮さんに勝つのね

ワクワクしながら掲示板の前に到着する

そこに書かれていたのは……


一位 一宮 美姫

二位 常盤 銀二

三位 神田 三位子


な、なんで?だって満点取ったのに!?

同じ点なら順位も同じはずよ!

こんなのおかしいわ!

銀二「なん、だと……」

銀二さんは信じられないと顔を青くしている

力無くその場を後にする銀二さん

これは……こんなの間違ってるわ!


ミーコ「常盤くん!待って!」


銀二「神田さん……すまない、応援してくれたのに」


ミーコ「……職員室に行って確認しましょう!」


銀二「でも……」


ミーコ「満点取ったのに……こんなのおかしいです……」

自分の事じゃないのに、悔しくて、切なくて、涙が溢れそうになる


銀二「神田さん……そうだな。こうなったら納得できる説明をしてもらおう」


ミーコ「はい」




職員室について、どの先生を呼び出せばいいのか思案する

各試験の担当の先生を全員聞くわけにはいかない


銀二「数学の神谷先生いらっしゃいますか?」

銀二さんは聞くべき先生が分かっていたみたいですぐに数学の先生を呼んでもらう


神谷「ああ、やはり君か」


銀二「きちんと説明をお願いします」

神谷先生は予想していたみたいで、何をとは聞かずに説明を始めた


神谷「今回の試験、最後の問題を解けたのは二人いたんだ」

それは間違いなく一宮さんと銀二さんね


神谷「常盤君、君は公式を使わずにあの問題を時間内に解いた。これはとても凄い事だ。でもな」

でも、何だというの?


神谷「公式を使い、美しく解いた生徒が一人いたんだよ」


銀二「そういう、事ですか……」


ミーコ「どういう言う事ですか⁉だって解けたんですよね?なら同じ点のはずです!」


神谷「それは……」


銀二「神田さん。数学に於いて、式は短く簡略的である程美しいんだ」


神谷「分かってくれるか?」


銀二「ちゃんとした公式を、見せてください」


神谷「これだ」

そう言って出されたのは一枚の答案用紙のコピー

回答者は一宮 美姫

綺麗な字でスラスラと解かれたのが分かる答案


最後の問題はたった3行で答えられていた

銀二「ありがとう、ございました」


銀二さんは何かを納得して職員室を出た

その目には薄っすらと涙が……



その後、進路はバラバラになり会う事ないわ

でも、今でも思い出すのよ

あの時の清々しい表情の彼の事を

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