第11話 落下するスマホ

結局、一日中野村さんのことを考えていた。

夕食を家族と食べていても上の空で、すべての会話がただ流れていくようだった。


野村さんに、何を言おうとしたのか、問い詰めるメッセージを送るわけにもいかないし、「今日はありがとうございました。バレッタ、大切に使います」と送ることしかできなかった。野村さんからは、「ありがとうございます」とかわいらしい猫のスタンプが返ってきて、それ以上は何も音沙汰がない。


もしかしたら、本当に「なんでもない」ことだったのかもしれない。1週間が経った頃にはそう思い始めていた。



そうこうしているうちに、7月。


私は、レポートの課題に追われて、あれこれ考える暇も与えられなくなっていた。慌ただしい毎日は、私の悩みや、気がかりなことを忘れさせてくれた。


空きコマと放課後は、図書館にこもる日々。


そんなとき、唐突にメッセージが届いたのだ。


野村さんからではない。刹那さんからだった。


私は、驚いてスマホを取り落としそうになった。2度と話せないかと思っていた刹那さんが、再び話しかけてくれたことは、信じられないことだった。



「返信、ずっとしないでごめんなさい。それと、勝手にゲームをやめて、ごめんなさい。なつさんのことを、傷つけたわけではないのなら、よかったです」


ごめんなさい、と繰り返し謝る刹那さんの文章を読むだけで、なんだか胸が締め付けられるようだった。


私が「大丈夫です。また、遊びましょう」と返信すると、すぐさま、刹那さんから答えが返ってきた。



「やっぱり、なつさんには失礼なことをしたのだから、直接謝りたいです。リアルで、会えませんか」


メッセージを読んだとたん、頭が真っ白になった。



刹那さんと、リアルで、会う?



あまりの突拍子のなさに動揺して、さきほど取り落としそうになったスマホを、ついに地面に落としてしまった。

幸い下は絨毯だったので、スマホの画面は無事だった。しかし、私の心は無事じゃない。



どうして彼女はそんなことを言い出したんだろう?

会う動機が、野村さんとは正反対の理由だ。

大丈夫だと言ったのに、どうして?


どうして、が延々と頭の中を回っていた。

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女の子だけど、女の子がすきです。 みずの @kaoru-mizuno

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