「また会いに来たよ」
佐賀瀬 智
生命の環
あなたは海の向こうの国からやって来て、わたしを夢中にさせたの。
一瞬で恋に落ちたわ。
あなたはとても甘く、わたしの乾いた唇を濡らし喉を潤し、体中を震わせたの。
そして歓喜の時間はあっという間に過去になり、あなたはわたしのカラダを通り抜けて行ったわ。
わたしはあなたの種を地の奥の深いところに埋めたの。大切に、大切に、そっと、そっと埋めたの。
やがてそれはひどく弱々しくこの世に出て来て、風に倒れそうになったり、日照りに枯れそうになったり、病気でダメになりそうになったりしたけど、
春夏秋冬、春夏秋冬、春夏秋冬……
どのくらいの季節が巡ったかな、それは大きく腕を広げはじめたのよ。
ある年の春、花が咲いたの。
そして
そして、
ついに、あなたがまたやって来たのよ。
頬をほんのりと紅く染めてあなたが言うの。
また会いに来たよ
また会いに来たよ
ボクはわかっていたよ。またこうして君に会えることを。君がボクのかけらを地に埋めたときから。
また会いに来たよ。
ボクは知っているよ。君がボクにしてくれたこと。嵐の夜に風から守ってくれたこと、凍りつく雪の日には温めてくれたこと。悪い奴らから守ってくれたこと。じりじりと日照りの夏には水をいっぱいくれたよね。
また会いに来たよ。
教えてあげる。
会うってことは偶然じゃないんだよ。ましてや、また再び会うことなんて。
君はボクのためにしてくれたことがある。そしてボクも君のために、一生懸命生きたんだ。
この言葉を言うために。
「また会いに来たよ」
おわり
「また会いに来たよ」 佐賀瀬 智 @tomo-s
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