コイ―2番目に好きな人―バナ

くら智一

2番目に好きな人

「クジを配り終えたところで、第1回【2番目に好きな人】暴露大会はじめるよ~」

「「は~い」」

「……げっ、わたしが一番じゃん」

「あ、美月が一番なんだ。たのしみだね。企画した甲斐があるよ」

「うるさいな。香織のときもきっちり話してもらうから覚悟しなさいよ」

「あははは、約束は守るから安心して話してね」




「1番美月。じゃあ、ぶっちゃけるよ……あたしが1番好きな人はケンちゃんです」

「はいはい、健二君とのノロケ話は聞き飽きたから、本題お願い」

「うーん、それで……ケンちゃんには内緒なんだけど、2番目は……す、すどう君かな」

「「「!」」」

「せ、先輩は周藤君が好きなんですか?」

「だから2番目。意中の相手じゃないから気軽に話せるコイバナなんでしょ?」

「……ご、ごめんなさい」

「こらこら、美月。明日香ちゃんに当たらないの。まだ高校1年生なんだから」

「当たってないでしょ。それで……理由も言うんだよね」

「そういう企画だからね……っとと、すみませーん! アイスレモンティーひとつ追加してくださーい!」

(すごい……また注文した。太っ腹……実に太っ腹だ)

「こらこら、佐奈は目でものを言わない。カロリーを計算しているからミルクは入れないんですぅ~~」

「……り、理由は言わなくてもいい?」

「ダーーメーーっ!」


「……ケンちゃんの話になるんだけどさ。一時期他のクラスの子と仲よさそうにしているときあったじゃない?」

「あった、あった」

(荒れてた、荒れまくってた……苦節3年、ついに高校デビューしたかと思った)

「佐奈、聞こえてんだけど……。そのときね、ケンちゃんと仲の良い周藤君に話を聞いてもらったんだ。すごく熱心に聞いてくれて……なんかケンちゃんへの愚痴を周藤君に聞いてもらってたらスッキリしたの」

「うんうん」

「結局、ケンちゃんとその子とは塾での友達で、わからないところを教えてもらってたんだって……。直接、ケンちゃんに文句言わなくて本当に良かった」

「だから……周藤君は好きにならないまでも気になった?」

「そんなとこ」

「へぇ~、周藤君ねぇ。以外だなぁ。じゃあ次……明日香ちゃん」




「はい、私はですね……吹奏楽部の副部長です」

「いいな、いいな。部活の恋愛って憧れるな~」

(美月……他人の話に移るなり元気になりやがった)

「でも、本当に好きなのは同じトランペットの男の子なんです。私は高校に入ってから始めたものだから、まだ下手くそで……合同練習までに何とか音合わせだけでも一緒にできるようになりたいんですっ」

「恋する乙女は強いね。明日香ちゃん、ガンバっ!」

「香織先輩、ありがとうございます。それで、副部長というのが3年生で先輩たちと同じ学年なんですが、名前を……周藤さんて言うんです」

「「「!」」」

「周藤君、吹奏楽部なのは知っていたけど副部長だったんだ……」

「あたしは聞いたことあったかもしれない。忘れてたけど……」

「……周藤副部長は新人に対して特に熱心に教えてくれるんです。音楽室の鍵も下校ぎりぎりまで開けてくれて、本当に良い人なんですっ!」

「そうそう、良い人なのよ。顔がもう少しイケてれば多分彼女もできたんだろうけれど、ケンちゃんと比べるとね。ケンちゃんはクラスでトップ3に入るから比べちゃいけないんだけど――」

「美月、しばらくケンちゃん禁止。でも意外だな。同じ人を好きになるなんて。これが1番好きな人だったら修羅場になっちゃうよ」

(本人の知らないところで修羅場? ふふっ……)




「じゃあ、次は佐奈だね」

(…………)

「私も佐奈先輩の好きな人、聞きたいです」

「……言わなきゃならんの?」

「それは当たり前でしょ。あたしだってケンちゃんに知られたくない話をしちゃったんだから」

「……まあ、秘密を包み隠さず話すのはやぶさかではないな。名前より先に理由からになるんだけど……」

「いいんじゃない? すごく楽しみ」

「……私がサッカー部の氷川君のこと好きなのはみんな知ってるじゃん。隣のクラスだから向こうは知らないと思うけど。……不思議なのは、なぜみんな知っているか、なんだよね」

「…………」

「うちのクラスで他人の秘密を平気で漏らす人がいるんだよね。笑い話のネタにしてさ。休み時間にケラケラ笑ってんの。そりゃあ、氷川君とわたしが釣り合わないのはわかってるよ。でもさあ、勇気を出してコイバナした内容を笑うのって人としてどうか、と思うんだよ」

「佐奈、ちょっ……」

「最後まで言わせてよ。それでさ、わたしと周藤って家が近所じゃん。男子で話す相手なんて周藤しかいなかったんだよ。それで相談したらさ、秘密を漏らす方が悪い、って同意してくれたんだ」

「…………」

「わたし以上に許せん、って怒るもんだからさ、じっと見てたらなんだか救われたような気持ちになったんだ」

「ちょっと佐奈っ! それ香織のことでしょ。あんた、人の悪口を無関係なやつに吹き込んでんじゃないよっ」

「先輩……どうしよう」




「佐奈、ごめん。私も2番目に好きな人を話したら、そのことをはっきりさせよう」

「香織……」

(…………)

「佐奈も周藤君が好きなこと聞いて驚いた。私も実は周藤君なんだ」

「うちの高校のSNSでさ……わたしの悪口が最近書かれてたの。匿名だから相手が誰だかもわからない。正直、参ってた」

(…………)

「周藤君は機械オンチだから、クラスのSNSなんて今まで見たことないらしいんだけど、教室でスマホ見ながら何人かで相談していたら、自分にも見せろって言ってきたのよ」

(…………)

「絶対やめさせる、って言ってたわ。そしてなぜか書き込みは消えた……周藤君に何かできたとは思わないけど、あのとき怒り出してから変わったのよ」

「あいつ……それで、しつこく止めろと言ってきたのか……」

「だから、今度はわたしが変わる番だと思う。佐奈……ごめんなさい。わたしだって好きな人がいるって笑い話にされたら心から恨むと思う。もう2度としない」

「…………。香織のことだってのは誤解だけど……わかった。あいつ……周藤を困らせるだけだからな。みんなが言うように全くイケてないけど、良いヤツなんだ。だから、香織が良いなら、これからも友達でいよう」

「ありがとう、佐奈」

「……香織も佐奈も人がデキてるね。私もさっきは佐奈を悪く言おうとしけど……結局、香織びいきなだけだったからな」

(先輩たち、ギスギスしすぎ……)

「でもビックリした。5人中4人まで好きな人が周藤君なんてね。2番目に好きな人だから恋ってわけじゃないんだろうけど……だけど最後は違うかな」


 香織の視線が真っ直ぐこちらへ向けられた。

「あなたは2番目が周藤君じゃないでしょ。ふたりでデートしているところ、見たって言う人がいるもの。付き合っているんだから1番が周藤君なんだよね。それなら2番目に好きな人って誰?」

「えっ? 周藤君と付き合っているんだ……ごめん、イケてないとか言っちゃって。でもみんなに好かれているんだから良い人だよ」

「あいつ……人を幸せにするのが好きだって言ってた。だから絶対幸せになれよな」

(周藤先輩の次とか、すごくレベルが低いんじゃ……興味深々)


 好奇の目だが柔らかいまなざしが一斉に集まっていた。

「わたしの2番目に好きな人は…………




(END)

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