二番目男の受難

静嶺 伊寿実

掌編「二番目男の受難」

 図らずもいつも二番になる男がいた。努力せずに二番になることで、「二番」を意識するようになり、そして男は「二番」を好んだ。


 * * *


 男はバスでいつも前から二番目に座っていた。席の隣には毎日美人が立っていてくれることを、心の中で喜んでいた。ある日降りるために立ち上がるとバスの揺れで、美人とぶつかってしまう。「すみません」「ああ、どうも」と短いが会話ができて男は有頂天になった。降りると財布をスられていた。


 * * *


 男はいつも電車の二両目に乗る。ある日、満員電車で両手を上げたまま揺られていると、近くの妙齢のご婦人に「ちょっと何!?」と痴漢の疑いをかけられた。誤解だと押し問答をしている内に、網棚あみだなの上に置いた男のカバンを誰かが持って降りてしまった。ドアが閉まって電車は発進する。男は仕方なく次の駅で降りることにした。


 * * *


 男は喫茶店で二番目に高いコーヒーを頼んだ。この値段でブルーマウンテンが飲めるのかと、深い味わいを楽しんだ。ゆったりした時間を終え、会計へ向かうとどうやらメニューの値段表記が間違っていたらしい。よく見るとシールで値段が訂正されていた。男が見たメニューはシールが剥がれた後だったのだ。男は「仕方ないよ」と店員に言いながら、引きつった笑い顔で支払った。


* * *


 男はちょうど真ん中がいているトイレの個室で用を足そうとした。しかしどうにも便座内の水位が高いように感じる。流せば水位が下がるかなと、トイレのつまみを上げると水があふれてきた。詰まっているのか。男は用を足すのも忘れて逃げた。


* * *


 男は自動車を運転していた。交差点で信号待ち車列の二番目になった。これは良いことがあるとうきうきして、直進した前の車を尻目に、右折をした。するとパトカーに停められた。この時間帯は右折禁止だったらしい。男が手続きをしている間にも、同じ交差点では後ろから来た車が次々と右折して行った。


 * * *


男はスーパーマーケットの五つのレジの前でどこにしようか迷っていた。手前から二番目のレジは御婦人の会計が終わりそうで、後ろには誰も並んでいなかった。男は嬉しく思い、御婦人のすぐ後ろで、御婦人の会計を待つことにした。だがいくら待っても自分の番が来ない。男の後から他のレジに行った客たちは、続々と会計を済ませている。それでも男は二番がよかったので移動しなかった。結局十分待った。


 * * *


 男はアパレルショップで無人レジに挑戦した。もちろん手前から二番目の機械を選び、商品を機械下部のロッカーのような所に入れ、指示通り会計を進めていった。現金を機械に入れたところで「係員を呼んで下さい」の表示が出た。大きいお金を入れてしまったせいで、釣り札が足りなかったらしい。近くにいる店員を呼んで対処してもらった。さて、あとはおつりとレシートだけだなと待っていると、「係員を呼んで下さい」の表示。 

 今度はレシートロールが無くなったそうだ。男はなすがまま待った。


 * * *


 男は飛行機で2Dの席を選んだ。前から二列目で三人席の真ん中、男にとって最高の席だった。だが、離陸直前になって男のテンションは下がった。左隣は大柄な男で、体が席に収まらないのか足がこちらまで侵食していた。仕方ないので右寄りにするかと、右隣を見ると学生のような若い女性で、変に近づく訳にもいかない。無事離陸し、ベルトサインが消えたところで、男はトイレに行こうと考えた。しかし右の女性は寝てしまい、左の大柄な男はパソコンで作業を始めてしまった。出ようにも出られない。

 男にとってそのフライト時間は極めて厳しい苦行となった。


 * * *


 男はふと気付いた。「二番目ってろくなことが無いな」

 男は二番にこだわらないことにした。



―終―


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二番目男の受難 静嶺 伊寿実 @shizumine_izumi

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