二番目の故郷

逃ゲ水

ただの与太話

 初めに言っておくと、これはあくまで与太話だ。真剣な顔をして聞くもんじゃないし、もちろんメモを取る必要なんてない。そう、肩の力を抜いてくれて構わないし、半分寝ながら聞いてくれたのでも構いやしない。


 まず、あれだ。今時は花粉症で苦しんでる人も多いと思うけど、花粉って何でできてるか分かるかい?いろんな答えがあり得ると思うけど、ここでは細胞が正解とさせてもらおう。そう、細胞だ。細胞が、風に乗ってふわふわ漂ってるってわけだ。僕たちの体を構成するのと同じような細胞が、だ。

 もちろん、空気中にある細胞は何も花粉だけじゃない。空気感染って聞いたことあるだろう?あれも空気中に存在する細菌だのウィルスだののせいだ。つまり、空気中には実はいろいろな細胞や、あるいは核酸を内包したものが紛れ込んでいるというわけだ。

 それで、空気中とは言ったけど、一体どこまでの空気にそういう細胞は含まれているんだろうか。

 一般に、飛行機が飛ぶ高さは上空1万メートル。つまり10キロメートルだ。じゃあ細胞の存在する上限は10キロより高いか低いかというと、実は全然高い。僕たちの生活する対流圏、その上の成層圏、さらにその上の中間圏と呼ばれる大気の層においても、微生物は確認されている。その中間圏は高度50キロメートルから80キロメートルまでで、少なく見積もっても飛行機の5倍の高さまで微生物たちは飛び上がっているというわけだ。


 さて、ちょっと話は変わるけど、クマムシっていう名前は聞いたことあるだろうか。最強生物だとか言われることもあるアレだ。まあ最強ってのはいろいろと誇張が含まれているけど、休眠状態では150度の高温から絶対零度よりほんの少しだけ高いマイナス273度の超低温、さらには真空状態や強力な紫外線や放射線にも耐えられるというすごい生物だ。ちなみに、このクマムシがすごい耐性を持っているのは休眠状態だけの話で、普通に動いてるクマムシを熱湯に突っ込んだりしたら普通に死ぬらしいんだけどね。

 それで、このクマムシの能力を見て、気付くことはないだろうか。真空、低温、紫外線に放射線。そう、宇宙空間だ。実際、人工衛星と一緒に打ち上げたクマムシを使って宇宙空間に休眠状態のクマムシを晒すという実験も行われたそうだが、大半のクマムシは見事に生き延びたとか。

 ついでに付け加えておくと、休眠状態でこうした厳しい環境に耐えられるのは何もクマムシだけの専売特許じゃない。一部のコケの胞子や節足動物の卵なんかも休眠状態にさせるとこうした耐性を発揮したりする。


 そろそろ、本題に入ろうか。宇宙の誕生は135億年前。太陽系、つまり地球の誕生は46億年前。他の恒星の年齢なんかを鑑みても、地球がこの宇宙で一番目に生命を生み出した星だと考えるのは、少々無理があるんじゃないだろうか。

 上空50キロメートルに検出できるほどの微生物がいるのならば、それより遥か上空まで飛び出して行ってしまった微生物もほんの少しは存在するかもしれない。飛び出して行ってしまった中に、宇宙空間を生きたまま渡ることのできる生物もいるかもしれない。

 そして、地球を飛び出しうる生命が存在するということは、別の惑星でも同じことは起きているかもしれない。

 さて、ここは、我々の何番目の故郷なんだろうか。


 ……なんてね、そんなに真剣な顔で聞くような話じゃないさ。これは単なる与太話なんだから。

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