第17話 生きるためにやること
ルードの家族がやってくるらしい。サイトはその情報を手に入れてからなにやら落ち着きがなかった。
「はっはーん、ついにセリアがやってくるというわけだな」
「ゼクス様、この話題になると本当にうれしそうですね」
「アーチャー、お前だってサイトをからかう気だろう」
「そりゃ、もちろん。こんな楽しいことは他にないですから」
ルードとニダの夫婦にはセリアという娘がいる。このセリアはサイトと同年代の女性だった。
ゼクシアに住む人数がかなり増えたのだ。それまでは手の空いている者で順番に料理当番を回していたのであるが、それも限界が近かった。そのために食堂を建てて料理人を連れて来ようという案が出たのである。開拓村に料理しかせずに生計をたてていた者はいなかったが、ルードという料理の得意な男が名乗り出た。その娘がセリアであり、サイトが開拓村に連れてこられたばかりの時期に食事の世話を行っていたのである。
他にも家族を連れてゼクシアへやってくるものが増えている。
サイトがボスになったとはいえ、まだ少年と青年の間みたいな年齢である。年寄りたちの恰好の話題になっているのは間違いなかった。
覇追い屋は基本的に妻帯しない。それは覇追い屋という職業の生存率が著しく低いというのが原因であった。ほとんどの者が子供の顔をみることなく命を散らしていく。だが、ゼクスはそれでは駄目だと考えていた。しかし、自分が妻を娶るというのを想像できない。仕方なく、他の覇追い屋にそれとなく伝えてみても皆同じような反応を返してくるだけだった。
交替でたまにはイペルギアの歓楽街へ羽を伸ばしに行かさなければならないと考えるが、まだこの話題はサイトには早い気がしていた。相談できないままに日々は過ぎていた。
***
サイトが想定していたゼクシアの許容人数というのは開拓村の全ての人間を収容しても余りあるものだった。ゼクスたちは数百人を収容すればそれでもかなり大きいと思っていたようであるが、数千人を想定しているという。
「ここは、フロンティアの玄関になるんだ」
「玄関だと?」
さらに西へ、サイトはそう考えている。作るのは一つの村ではない。そしてゼクシアは東からやってくる者たちを選別する役割を持っているという。
王都だけでも、貧困街を追い出される人数というのは膨大なものだった。仕事と金がなければ生きていく場所がないのである。職人街にも物乞いに近い者たちは数多く住んでおり、それらのほとんどが立ち退きを強いられて西へと向かうことになっていた。サイトは彼らがいつの間にか消えていたという事実から、目をそらして生きてきていたことを自覚している。そして、ここではそんな事を行うつもりはなかった。
フロンティアへたどり着く者はまだ幸運な方である。途中で力尽きる者もいれば、定住しようとした村で餓死する者も多い。彼らをどうやって助けるかと考えると、国の影響力の外で護るしかない。
「ゼクス、丘全体を使って、できれば覇獣対策に城壁に近いものを作り上げたい」
「サイト、それをするにはどれだけの人数がいると思っているんだ」
「だから、数千人が住める場所にするんだ」
住むと言っても簡単ではなかった。まだ数十人しかいないゼクシアに新たな人々がやってくるとしても役割を考えなければならない。
畑もそこまで大きなものができているわけでもなかった。それに人数が増えれば増えるほどに問題も山積みとなってくるだろう。
「医者に学校に、店もいくつか作らなけりゃならないだろう。職人たちは俺がまとめるとしても」
「そんな技量を持っている人間はそもそもフロンティアに来ない」
「ああ、だから自分たちで育てなきゃな」
すでにフーロとの手紙のやり取りは問題なくできるようになっている。イペルギアで様々な情報を手に入れるフーロには、フロンティア奥地で手に入る貴重な品を売ってもらっていた。代わりに、開拓村へと人を派遣する。そのほとんどは国に住むところがなくなった人たちだった。
開拓村で受け入れられた者たちをそのままゼクシアへと輸送するのだ。それによって開拓村は常に一定数の人数のみが居住するようになり、新参者のいない村に住んでいる人間は信用のおける者だけに保っておく。ゼクシアへと送られた者は双角馬の馬車でもなければイペルギアまで帰ることは不可能だった。
人を選別するのがフーロの役割である。ゆっくり話したことのないこの協力者は、頻繁にサイトと手紙のやり取りをした。サイトはあまり自分の考えを手紙にはかかなかったが、フーロは熱い想いを書き込んだ手紙を毎回輸送担当に託した。
「人は増える。フーロが送ってくれる」
「おい、いつの間にそんな事をやってたんだ」
「そろそろ俺一人じゃ回らなくなってくるな」
道具を作りながらもサイトは人をまとめるという事を優先させてきた。人を動かすには金がいるとサイトに教えたのはフーロである。ゼクスはそこらへんを理解するのに時間がかかった。
「おいおい、俺はもう年寄り扱いかよ」
「ふざけんな、まだまだ働いてもらうぞ」
ルードの食堂が完成した頃、ゼクシアに住む人数は百を超えていた。全ての人間が毎日を忙しなく生きている。
生きるために、必死だった。
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