第16話 ゼクシア
「発見者の名前をとってゼクシアにしよう。何があっても皆を守り続けるいい名前だろう」
探索班が出ている時の事だった。誰かが、新しい村に名前が欲しいと言ったのである。開拓村にすら名前はなかった。だからこそサイトは考えていた名前を言った。
「いい名前です!」
「だろう?」
放っておくと自分の名前を付けられてしまうのではないと思ってサイトは当事者がいない時を見計らって先制攻撃をしかけたというわけである。
帰ってきたゼクスが怒ったのも当然ではあったが、その頃には住民のほとんどに「ゼクシア」という名前が浸透してしまっていた。
「ふざけんなよ」
「ふざけてねえよ。皆嬉しそうじゃねえか」
すでに手遅れであるためにサイトはゼクスの相手をしなかった。
手にあるのはこのゼクシアの開発計画が書かれた紙である。紙というと贅沢品になるが、フーロからの支援物資にはこういった物も含まれていた。
「なあ」
それに何やら書き込んでいると、ゼクスが急に真面目な顔になった。
「やっぱり、お前が戦う相手ってのは覇獣じゃねえんだな」
「……覇獣とも戦うさ」
書き込まれた物見櫓の向きは東を向いていた。
***
「大楯が欲しいと」
「それも、地面に突き刺さるやつです」
一角尾獣以外にもこの地方には大型の獣がいるらしい。中でも牛のような立派な角を持ち、遠くからでも突進を繰り返すような獣を発見して帰ってきた時にマルスが言った。
スパイクシールドという奴だろうか。その獣の突進を防ぐために大楯の下側に取り付けられている杭を地面に差し込み、何があっても防ぐという盾である。
「そんな事をして、お前の身体は大丈夫なのか?」
「分からないです。でも、あの突進をなんとかしないと、あの獣は狩れません」
何故、必ず狩らなければならないのかという疑問は放っておくとして、本当に大丈夫かどうかを他の探索班の人間に聞かなければならないとサイトは思った。
「作るのは可能だけどよ」
素材はそれなりにある。鉄鉱石を使用して大型の盾の材料を作り出すための炉もできたばかりだった。それに鉄だけではなくて覇獣や一角尾獣の骨や皮も使えるかもしれない。
職人として、その設計図が頭の中に浮かんでは来る。問題はない。だが、本当の意味での問題はそれを使ってもその獣の突進を止められないほどの力だったらマルスが死ぬという事を意味していた。
自分の装備のために仲間が危険にさらされるのだ。これを本当に理解できている人間がここにはいないとサイトは思っている。所詮は他人事であるし、それはお互い様だろう。探索班の事を完全に理解できているわけでもない。
ゼクシアの開発は順調に進んでいた。
物見櫓も建設され、毎日覇獣が目撃できないか見張りを立てている。
畑らしきものも丘を下った所に作ることができ、近くの小川から水路も引く事が出来た。小規模ながらも村としての体裁は整ってきている。物資はフーロが送り続けていた。それは一年間程度であれば何もしなくても過ごすことができそうなほどだった。
余力ができたために探索班の移動範囲が広がったのだ。新たな獣を発見するのは当然といえば当然の事だった。
「大きさはマルスの三倍はある」
「ゼクスさん、俺なら大丈夫ですよ」
「いくらお前の身体が頑丈だと言ってもな」
ゼクスに話を聞くと、やはり大楯を持ったところでマルスが無傷でいる保証はないという事だった。だが、その獣の素材が欲しいというのも正直なところだ。特に角と皮は重宝するだろう。肉も美味いかもしれない。
「罠を使うってのはどうだ?」
「ああ、もちろんそれを考えている。四本足だし、高低差には弱いから落とし穴が最適ではないかとアーチャーと話合っていたところだ」
「でも!」
マルスはそれでも食い下がってきた。
「罠を避けられた時に皆を護る物が必要です。あの突進からはそう簡単には逃げられそうもないから」
それは一理ある。サイトは杭付きの大楯に関して前向きに検討を始めることにした。
「見つけた時は高台に登っていたし、遠目だったから安全だったんだ。確かにマルスの言う通りかもしれない」
「ところで、どのくらいの重さまでなら持って運べるんだ?」
盾は大きく重くなるほどに頑丈になる。それは当たり前の事だったが、持ち運びができなければ意味がない。
「ええっと?」
「まあ、いい。試作品を作ってみよう。それまでは、その……牛? その獣に近づくなよ」
「ああ、分かってる」
「それに名づけをよろしくな」
またしても面倒な仕事をゼクスに振ってサイトは工房として使っている小屋へと向かった。本格的な工房が出来上がろうとしている。ここを拠点に、この村を大きくしていくのが当面の目標だった。
石炭と鉄鉱石がそれなりに運び込まれている。輸送は問題となる箇所が多かったが、なんとか力を合わせて克服していた。今度、フーロが新たな双角馬と馬車を購入し送ってくれるそうだ。
工房からは物見櫓に設置されたバリスタが見えていた。
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