第15話 遠くから力になる男
フーロはイペルギアへと来ていた。
「覇獣の素材で作った装備をできるだけ高く売れ」
それがボスからの命令だったからである。開拓村とイペルギアの往復の毎日であるが、フーロが覇獣の装備品を扱っていることを知っている者はごく少数のみだった。それもできるだけ役人には関わらないような人物を選んでいる。
所持金はこのフロンティアではとうてい手に入らないような巨額なものになってきた。これを持って逃げれば一生遊んで暮らせるだろう。だが、フーロはサイトという人物とゼクスという人物に恩があった。それにやりたい事がある。
皆が村長になってほしいと頼んだのはサイトという少年だった。本当に少年だったのである。彼が開拓村に来たときに、フーロはまだ畑を耕しているだけの人間だった。いつ覇獣に襲われるとも分からない開拓村で日々をびくびくしながら過ごすだけの人間だったのである。
職人として移住してきたサイトに興味が湧かなかった。確かに道具作りをしてくれる便利な人間だったが、それだけだった。
いつしか、フーロはフロンティアから逃げることばかりを考えていた。
「サイトは王都で覇獣の素材を扱う職人だったらしい」
そんな時に聞いたのがこんなうわさである。何故、好き好んでこんな命の危険が付きまとうフロンティアに来たのだろうか。フーロは覇獣に壊滅させられた村なんて指の数では足りないほどに見てきた。
覇追い屋はすぐに命を散らした。フーロがいた村の覇追い屋の中にも死ぬものが出てきた。
サイトはその時死んだシエスタという覇追い屋の墓を作りながら、泣いていなかった。それなりに親しくしていたはずである。だが、他の覇追い屋の仲間たちが泣き崩れる中、泣いていなかった。
それで興味が湧いた。
彼の行動を少し見ていくと、ゼクスとともに行動しているのが分かった。それもそのはずで、サイトはゼクスが連れてきたのだった。それを思い出した。
ならば、彼の目的はなんだ。王都で職人としての将来を期待されながらも、こんなフロンティアに来る目的は。
ある日、ゼクスとアーチャーとサイトは帰ってきた。それもフロンティアの西からである。すぐに西へ双角馬で出かけた三人は、仲間の遺品と覇獣の死骸を積んで戻ってきた。それも二頭である。
覇獣狩り。ゼクスは覇獣狩りだった。サイトはそんなゼクスに協力するためにフロンティアにやってきたのである。
血が湧いた。だが、自分に彼らのような覇追い屋になることはできない。それにフーロには養わなければならない妻子がいた。彼女らを残して死ぬわけにもいかない。
村ではすぐに話し合いが始まった。ゼクスたちが覇獣狩りであるという事は秘密とした。これが外の人間に漏れるとこの村には軍隊がやってくる。
「まずはこの村を豊かにしよう。全てはそれからだ」
そんな中、サイトだけが将来の事を見据えていた。村を豊かにする。そして、国に影響されないフロンティアの奥地に覇獣狩りの村を作るのだと。
気づいた時には手伝えることはないかと聞いていた。そうするとゼクスもサイトも、イペルギアとの行き来をする人間が欲しいと言った。
サイトが作り上げた覇獣の装備は美しかった。フーロはまず、それを売るのではなく、開拓村とイペルギアを行き来する行商人としての地位を作り上げることに専念した。人脈が増えれば、装備品を活用する場も増える。サイトはそれに賛同してくれた。
男として惚れた。それが正しい表現だろう。年下であろうが少年であろうが、その志に惚れた。フーロは酒が入るといつもサイトやゼクスたちと飲みたがった。話し合いたかった。そして彼らもそれに快く答えてくれた。
ならばやる事に迷いはない。フーロは命を賭けて村とイペルギアを往復し、彼らのためにできることを全てやるのである。
今、開拓村は安全だ。それは周囲に生息している覇獣をサイトたちが狩ったからである。サイトは継続して覇獣を狩ることができると証明してみせた。
そんな彼がふと漏らした言葉がある。
「生きるためには
フーロはそれまでサイトの事をよく見てきた。おそらくは付き合いの長いゼクスーチャー以上にサイトに興味を持っていた。だからこそ気づけた。
国に抗い、自分たちの国を作る。サイトが考えているのはそれだ。
フーロの行動は加速した。もともと才能があったのだろう。イペルギアにちょっとした店を構え、それを大きくした。周囲からはフーロは新進気鋭の商人にしか映らないだろう。開拓村出身であるために、ちょっとした物資を故郷ともいえるその村に支援しているだけの商人である。
彼がいたからこそサイトはフロンティアの奥地に村を作ることができたと言っても過言ではない。
フーロはほとんどフロンティアの奥地には行かなかった。だが、誰よりもサイトたちと行動を共にしたいと考えていた男が、イペルギアからサイトたちを守っていた。
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