第4話 避けては通れぬ道
まずは村をつくる場所を探す前に、ここで生きていかねばならない。ベースキャンプに開拓村から持ち込んだ穀物というのも永遠にあるわけではなく、他にも採取や狩猟で食料が手に入らなければどうしようもなかった。それでも数週間ならば余裕をもって生きていける。サイトと覇追い屋は総勢八名だけだった。双角馬の馬車は二台四頭である。
「水は大丈夫そうだな」
「近くに沢がある。森も多いから燃料にも困る事はないだろうがな」
マルスの見つけた場所というだけあって、最低限に生活するには何一つ不自由しそうにはなかった。だが、これではサイトの思った村は出来上がらない。
「穀物を作る畑がどうしても必要だ。そうでなければ狩猟民族にでもなるか?」
狩りが得意なゼクスなどはいいだろうがサイトを始めとして狩りなんてやったことのない者も多い。覇追い屋の中には現地で食料を調達する者も多いのであるが、全員が得意というわけでもなかった。そしてサイトが考える先にある者には覇追い屋以外の人間が多く含まれる。
ベースキャンプの西というのはほとんどが森林地帯であった。小川が流れていることも多いこの森は、原生林と言っていい。人の手が全く入ったことのないそこにはさまざまな動物が生息しているのであるが、ここの生態系の頂点というのはもちろん覇獣であった。
大型の動物がいないのではないかと言われればそうでもない。草食と思われる動物もいれば、あきらかな肉食動物も生息している。次々と報告に挙がる情報を整理しながらサイトたちはただただ驚くことしかできなかった。
「覇獣だけではないという事か」
「アーチャー、当たり前だろう」
「サイト、大人になると柔軟な思考というのが苦手になってくるんだよ」
どこが柔軟なのだろうかとサイトはあきれたが、その様々な動物の目撃情報であったりゼクスが狩ってきた動物を解体するのを見て、サイトよりもアーチャーたち年配の人間の方が興奮しているのである。逆に冷静になったサイトはここでの生活を考えつつも、覇獣以外の脅威というのも視野に入れなければならないと思った。
井戸を掘るかどうかでゼクスたちが悩んでいる。それはここに定住することになるなら必須の事でもあったが、ちかくに沢があるこの状況で本当に必要なのだろうか。サイトはここは村をつくるのには適していないと言った。だが、中継地点としては優秀であるというのは誰もが認めることだった。
「掘ろう。それで、今回は一旦、帰ろうじゃないか」
サイトは決めた。自分たちは何の準備もできていなかったと認めることを。数日滞在して、双角馬の馬車はもと来た道を戻る。
***
ベースキャンプとしてはこれ以上のものはないというものが出来上がった。開拓村へと帰った覇追い屋たちはそれぞれの住居に戻る。だが、ベースキャンプへの行き来での数週間の間にも開拓村には移民が増えていた。明らかにこのままでは人口が飽和する。
「急がなければいけないのは分かっているんだけどな」
「女子供が住める環境じゃねえってのは分かる。こんなものは急いでもどうしようもねえってのは身に染みてるさ。お前が悪いわけじゃねえ」
ゼクスとサイトは村の作業場である事に関して話し合っていた。
「それで、どうなんだ?」
「ああ、もしかしたらだけど、いけるかもしれない」
サイトが持っていたのは一本の鉈だった。その作りはそこまで凝ったものではない。試作品といっても良かったが、その切れ味は今まで持ったどの道具よりも鋭い。ほんのりと緑がかった色をしたその刀身をゼクスは受け取ったのちに振り下ろした。振り下ろした先にあったのは覇獣の皮だった。
「これは、すげえな」
「だろ? マルスの手柄だ」
何をやっても一太刀では分断されることのなかった覇獣の皮に、鉈の切れ込みが入っていた。材料はマルスの持ってきた鉱石である。今まで、どの鋼であっても覇獣の皮をこうも易々と切り裂くことはできなかった。斧の形状であったとしても、刀身がダメになってしまうことがほとんどであったのである。ましてや戦闘に使うなどということはできるはずもなかった。
「近接武器として使うという発想はあまりできないと思うんだが」
「いや、効果があるかもしれない得物があるのとないのでは心の持ちようが違う」
サイトが最初に考えたのはバリスタの矢じりである。もちろん、それには使用うつもりだった。明らかな殺傷能力の向上というのは、生存に直結する。
対してゼクスはこれで斧や鉈を作ってほしいと言った。覇獣に目の前に出た場合に、なす術なく殺されるだけというのはどうしても納得いかないものがあるのだと。少しであるが生き残り覇獣に傷を負わせられる可能性というのが重要なのだと、ゼクスはそう言った。それは狩られるものと狩るものから、対等に戦う者へとの昇華を意味しているのだろう。
「ただ、これ以上の耐久力を持たせるとかを考えると俺だけではなんともできないと思う」
「じゃあ、誰だったらできるんだよ」
「そりゃ、親方なら……」
サイトもゼクスも、できることなら避けたいという思いが、おもいっきり顔に出ていた。
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