第38話ゲーム合宿がてらの報告会
日付はさらに一日進んで、西武新宿線沿線の某住宅街。の、夜。
「――って、出来事が昨日あってですね? ちょー怖かったんですよ! でも私、頑張りました!!」
「……今の話からだとむしろ、
お
私の家には超怖い鷹の目少年が根を張っているせいで落ち着いてゲーム攻略(つまり、異世界へ渡るための設計図づくりである)が出来ないので、こうして朝倉さんに頼み込んで、彼女のおうちに泊まらせてもらうことにしたのだった。
「ご飯は?」
と聞かれたが「いいです」と返す。昔から何かに熱中してしまうと食欲が消滅してしまうのだ。拒食症……いわゆる
ちなみに朝倉さんも異世界へ行く日に備えて「復習しなきゃね」と隣で私のゲームをする様子を見てくれているので、今夜は軽くゲーム合宿状態だ。こんなの久しぶりなので、なんだか楽しい。
「ええー、私、そんなに怖くないですよ」
「
異様な子どもに精神攻撃を仕掛けられても落ち着いて行動したあげく、金属ポールをフルスウィングして
「そんなことないですよ、蒔田さんに比べたら私なんてまだまだですよー」
「……比べる対象が間違ってる……」
朝倉さんは頭痛をこらえるようにしばらく頭を押さえていたが、やがてふっと真面目な顔になって再び私に向き直った。
「……で、その子供をSSDと一緒に家に置いたままにして大丈夫だったわけ?」
「ええ、ご飯を食べたり寝たりする必要はない子みたいなので、家の中でボーっとしてるんじゃないですかねえ」
「そうじゃなくて。本当に平気なの? その……SSDを支配下に置かれたりとか」
「それも、大丈夫です」
私はそう言いながら、手元の朝倉さんのノートPCに『設計図』用の情報を入力していく。普段はゲラゲラ笑いながらやっている乙女ゲームだけど、今は完全に作業としてやっている。
「あの子はどうも……根無し草の幽霊みたいな存在で、人間がいないと何もできない存在みたいなんです。
「……なんでそんなことがわかったの?」
「彼が自分でそう言ってました。嘘を言っていたらいけないので、試しにあの子をポールで軽く叩いてみたんですけど、ポールが体をすり抜けちゃいましたね。だからまあ、彼はSSDには手出しできないと思います」
「……狂犬……」
「何か言いました?」
「いいえ、別に何も。……で、その『お話し合い』とやらは無事にできたの?」
「できましたよ。『異世界を安定させたい』というのが彼のメインの希望らしくて、私は『設計図』の定期的な提供を彼に持ちかけました。そしたら、彼は全面的に協力してくれることになったんですよ」
そう言って私は笑って見せたが、朝倉さんはなぜか
「……定期的に? それってどれくらい」
「週一くらいですかね」
「永遠にやるの?」
「少なくとも、私の命が続く限りは」
「……仕事がめちゃくちゃに忙しいのに、そんなことが本当に出来るの……?」
朝倉さんの真剣な言葉に、私は言葉を失ってしまう。だけどすぐに私は軽く首を振って、
「……でも、やるしかありません。だって、蒔田さんの命がかかっているんだもの」
「……そう。あなたはもう、覚悟を決めてしまったのね……」
そう言って、朝倉さんはため息をついた。
「『友達とゲラゲラ笑いながら少し遊んでいただけの乙女ゲー』からも異世界を作っちゃっていたくらいだから、あなたが普通の情報処理能力を持った人間じゃないってことは分かっていたけれど……色んな意味で規格外だったのは蒔田さんだけじゃなくてあなたも、だったのね。
本当……こんな狂犬を手なづけちゃった蒔田さんって、つくづく罪な男だわ」
「朝倉さんてば酷い。さりげなく私に狂犬キャラを定着させないでくださいよ」
「ふん、人を勝手にエリザベ呼ばわりしていたヤツが何言ってるんだか。
……ていうか。あなた、本当に外見詐欺もいいところよね。そんなおっとりした雰囲気で、無害で綺麗なマネキンみたいな見た目をしてるくせに、中身は
「えへへー、分かります?」
「うわやだ、本当にそうなの? 遊んでるなんてサイテー」
朝倉さんが笑いながら私から距離を取るジェスチャーをする。私は苦笑しながら首を振り、
「本当に遊んではいませんって!
男性とお付き合いしたことなんて、今まで一度もありませんもん。高校時代までは超地味なデカ女だったし。
……ただ、頑張ってオシャレするようになってからは、外見に騙されたチャラいのが一杯来るようになってしまいまして」
「ああー、看護師相手だと、研修医とか?」
「そうそう。チャラい大学生とか、チャラい研修医さんにばっかりアプローチされるんです。そんなつもりはなかったんだけど、なんだかいかにも遊んでそうに見えちゃうみたいで。
酷いんですよ、ワケわかんないブランド物の財布をちらつかせて、『欲しかったらホテル行こう』って関係を迫ってきたりするんですから!」
と、当時のことを思い出して怒りながら私が言うと、朝倉さんは何とも言えない表情で頷いた。
「それは……なんというか、漫画みたいな世界ねえ……」
「漫画だけで十分ですよあんなの! ……実際問題、そんな誠実さのかけらもない恋愛なんて、絶対に御免じゃないですか。
日常会話もロクに出来ないような男の人と無理して一緒にいるくらいなら、友達と爆笑しながらオトメゲーやってた方が百億倍マシだ、って……思っちゃうじゃないですか……」
私はそう言いながら目を伏せる。そんな私を見た朝倉さんは、何かを心得たようにニヤリと笑う。
「……なるほど。チャラい男よりはクソ真面目でバールの取り回しが上手いゲーム開発者の方が百億倍好き、ってことなのねえ……」
「……言葉の取り回しに恣意的なものを感じます。違いますよ。
蒔田さんは命の恩人的な意味で大事な人ではあるけれど、恋愛的な意味で好きってわけじゃありませんよ?」
「ふーん、どうだかねえ。
……正直言って今のあなた、恋愛感情抜きでは説明できないくらいの無茶をしているわよ。『設計図』を作るような重労働を、一生引き受けるですって? どうかしているわ」
「う。それは、そうですけど……で、でも、『代償』集めのための人殺し作業までは請け負っていませんよ? それは他をあたるようにあの少年には言いました。彼はうなずいていましたけれども」
「それでも、よ。あなただけがあまりに背負いすぎている……」
朝倉さんは言いづらそうに目を伏せ、いったん言葉を切った。
「……私もね、蒔田さんに死なれるのは寝覚めが悪いし、人の恋路は応援したいから、あなたに協力するけれども……でも、せめて自分の気持ちだけは、はっきりさせておきなさいよね」
「……はい」
それはもちろん、と私は答える。私たちはそのままどちらからともなく無言になって、ゲームのプレイ画面に視線を戻した。
――画面の向こうではあらゆるヒロイン、あらゆるイケメンが、恋し恋されを求めて、延々(えんえん)と試行錯誤を繰り返し続けている。
【本編を読み進めるうえで何の参考にもならない登場人物紹介】
■
思春期以降の女子に多く発症する。自らの身体像が正確に把握できなくなり、体重増加を極端に恐れるようになる。
食事摂取量が極端に減少する反動で、隠れ食いや盗み食い、過食をし、そのたびに
食事を摂取せず体重が減少している場合、電解質異常や低タンパク血症による浮腫などを念頭に入れて看護を行う。
また、神経性食欲不振症は摂食制限型と過食・排出型があるため、過食のエピソードがあるかどうかを確認していく必要がある。
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