終末世界と失敗作

秋田健次郎

終末世界と失敗作

 そこはかつての栄華をまるで感じさせないほどにまで荒廃していた。人々が築き上げたものは全てがれきの山と化し、鳥の鳴き声さえ聞こえない。数か月は雨が降っていないせいで空気は乾燥し風が吹くたびにボロボロのアスファルトから砂が舞い上がる。そんな絶望的な状況であっても空は清々しいほどに透き通った晴天である。昔、道として使われていた場所を歩いていると端の方に小さな四角い箱のようなものを見つけた。


「そこの人、大丈夫ですか?」


 箱がそんな風に話しかけてきたのでワタシはそちらの方へ向かいながら


「ええ、大丈夫ですよ。」


 と返事をした。


 箱をよく見てみるとそれは機械のようだった。そしてすぐにそれがAI-2という型番のものであるということも分かった。


「急にみんな吹き飛んでしまって不安だったんですよ。ワタシはこの通り動けない形状ですから。」


「それは不安だったでしょうね。アナタのその形はAI-2ですか?」


「はい、よく分かりましたね。かの有名なAIシリーズの2番目です。」


 AI-2はそれぞれの角にある小さなライトをチカチカさせながらそう言った。


「でも、ワタシは管理者から型番ではなくチカという名前で呼ばれていました。」


「なるほど、ではその名前と呼びましょう。チカさんはどのくらいの間ここに?」


「途中のスリープ状態の時も含めると3年くらいです。そのせいでもうバッテリーが底をつきかけています。充電もできませんから。最後にアナタとお話しできてよかった。」


「そうですか……だったら」


 ワタシはチカさんを持ち上げてぐるりと回った。


「最後にワタシと世界を見ましょう。風景はずいぶん昔と変わりましたがきっと素晴らしいですよ。」


「ありがとう、冥土の土産にします。」


「ロボットは冥土に行くのでしょうか?」


「それはもちろんです。」


 チカさんは体の中の小さなモーターを回し体を震わせた。



 AI-2はAIシリーズの2番目であり、失敗作と評価されていた。1番目であるAI-1は子性能なAIと車輪によるスムーズな移動、キャッチーで愛らしいデザインから大ヒット商品となった。しかし、2作目では耐久性の向上を理由に形状を箱型に変更、移動機構もオミットされユーザーからは鈍器と揶揄された。その後AI-6まで続くAIシリーズの中でも最も優しい性格とされるAI-2が最も多く破棄されたのはなんとも皮肉な話である。



「海へ行きましょう。あそこは昔と変わらず綺麗ですから。」


 ワタシはチカさんを胸に抱えながら語りかけた。



 AIシリーズの後継としてSIシリーズというものが生まれた。よりリアルで人に近づけることを目的としたシリーズである。しかし、それは次第に軍事利用されていき、冷酷無慈悲な性格に設定された。ついには先の戦争で兵器として用いられ、かつて人と共存した機械は殺人マシーンとなった。



「海は見たことがありません。ぜひ見てみたいです。」


 ワタシはひび割れたアスファルトを踏みつけて海のある方へと歩き出した。


「そういえば、アナタの名前を知りませんでした。なんという名前なのですか?」


「ワタシはSI-2、SIシリーズで唯一の失敗作です。」


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