Tokyo Freak show

悪戯ウサギ

プロローグ

テーブルタウンTokyo。この都市がそう呼ばれ始めたのは戦後間もなくの頃。

1962年に起こった「収束戦争」の戦時中に敵国が東京に当時の新型の原子力爆弾を投下し、巨大な穴を開けた。戦後復興に伴い、東京に出来た穴の上に新たな都市を作り、無数の柱で穴から地面を支える事により、都市を復興させた。その都市構造がまるでテーブルの様な事からテーブルタウンと呼ばれる様になった。

「Tokyoの夜には気をつけろ。深夜12時を回ったら決して外には出ては行けないよ。何故なら夜ノ徒が現れるからね。夜ノ徒に言葉は通じない。夜ノ徒に常識は通じない。顔をマスクで覆い、うめき声の様な言葉を喋る。肌は変色しており、時には人を容赦なく殺す。そんな化け物が深夜12時を回ったら現れる。そして彼らは日の出と共にどこかへ消え行くんだ。Tokyoの夜には気をつけるんだよ。良いね?夜ノ徒に気をつけるんだよ。」

小さい頃から親や先生に言い聞かされた台詞「夜ノ徒には気をつけろ」。午後11時59分になると街中に防空警報の様なサイレンと共に「こちらはTokyo都庁。まもなく深夜12時になります。人間の皆様は外出をお控え下さい。」と、サイレンを鳴らす程だ。しかし、そんな事もお構いなく女子高生の時 為一(トキ イイツ)は狭い学生寮の自室で外出の支度をしていた。グレーのパーカーを着て、フードを深くかぶる。顔を派手な蛍光ピンク色のガスマスクで覆い、紺色のダボダボ作業ズボン。腰やリュックには大量のスプレー缶をこしらえて12時を回ったら街へ出て行った。

12時を回った街の雰囲気は異様な空気に包まれている。右を見ても左を見ても顔をマスクで覆い。青やピンク、赤等の変色した肌の化け物だらけ。為一はヘッドホンをし、ロックを爆音で流してその場をやり過ごす。ネオンに照らし出された夜の街に、無駄なプライドの様に高くそびえ立つビルの数々。為一はそのビルの中から一つのビルを標的にした。その建物は最近不動産の事業で儲かっている「伯備不動」のビルだ。地上から大きくそびえ立ったそのビルに侵入し、非常階段から為一は屋上に駆け昇っていく。屋上に着くと為一の目の前には嫌なほど目立つ大きなテナント募集の看板。彼女はマスクの下から舌を舐め、大きく深呼吸をした。

「よし、始めるか。」

小さな声でそう呟くと、リュックサックの中から大量のスプレー缶を取り出した。まずはテナント募集の文字をスプレーで真っ白に塗り替える。看板を白いキャンバスに塗り替えると次に彼女はパーカーのポケットから一枚の絵葉書を取り出した。そこには背広を着た見世物小屋のライオンに首輪を繋がれ、芸を披露する複数の様々な色彩で表現された人間のイラストが描かれていた。彼女はその絵を見ながら看板に同じ絵を描き始めた。赤、水色、オレンジ、様々な色で看板を染め上げてゆく。そのイラストが完成する頃には、すでに日が明けようとしている時間帯だった。彼女は満足げに描き上げたそのイラストを見上げ、ニヤリとマスク越しに笑いそそくさと荷物をまとめてその場から去っていった。

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