第7話
「チッ。コイツだけじゃねえのか」
トロールを始末した後、俺は探知魔法で周囲を探った。
複数の向かっている気配を探知。
どの気配の元も何やら昂っている様子であり、俺に向けて何やら嫌な感情を向けている。
これは……敵意というやつか。
どうでもいい。どうせ死ぬ相手にどう思われようがいい。何も残らないのだから。
「……千里眼」
最近覚えたての魔法を使う。すると遠く離れた敵の顔を見ることが出来た。
見えたのは豚のような醜い顔の化物だった。顔は豚で身体は人間の魔物。よくファンタジーもので見るオークという魔物だ。
トロールより一段階下の魔物だ。すぐに倒せる。……しかし何故だろうか。
何故か奴を見ると無性に腹が立つ。
ムカつく顔だ。ただでさえ汚い顔面を見せられてイライラしているというのに、そのニヤけ面が更に俺を苛立たせる!
壊してやりたい。あの顔面を引っ剥がしてやりたい。二度と笑えないように表情筋をズタズタに引き裂いてやりたい!
同時に蘇る先ほどのトロールへの感情。
あの時はいきなりのことで処理しきれなかったが、それも片付いたことで脳が余計な仕事をしてしまったのだ。
脳が導き出した感情は怒り。それも尋常でない程の。
こんな感情は初めてだ。この世界に生まれてこれほど激しい感情は今まで抱いたことがない。
前世でもなかなかない。ここまでイラついたのはゴキブリが米俵をかみ砕いて中身を全部ダメにした時以来だろうか。
あの時は虫に初めて殺意が沸いた。その時までは事務的に虫を殺していたのに、あれ以来からはゴキブリを見ると狩りをするネコ科動物のように潰したっけな。
そして今、それと同じ感情が俺の中で暴れている!
「あ……AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」
俺の喉から獣のような咆哮が溢れた。
本来竜があるべき怒号。それはその場だけでなく森中に響き渡り、恐怖した鳥や虫たちが一斉に飛び立つ。
「ふざけるなゴミ虫風情が!」
ああ、何故だ?なぜこれほどイラつく?
生物が他の生物を食うのは当たり前だ。そしてコイツは俺よりも強いと思ったから食おうとした。
なんてことはない。ありふれた自然のルールだ。それほど怒るような内容ではない。
しかし何故、ああ何故。これほど俺の癪に障る……!
取り止めなく溢れる怒り。このような雑魚に劣ると思われる瞋恚。この程度の輩が俺の平穏を侵そうとする憤懣。
怒り怒り怒り! ……何故ここまで俺をイラつかせる!?
分からない。分からない。理解出来ない!
一体俺はどうしてしまったのだ? この程度のことでここまで怒るほど俺は心の小さな竜だったのか?
ああ、分からない。何故ここまで俺は苛立っているのだ……!?
「……いいぜ、全部潰してやる!」
にやりと、口元を歪ませる。
ちょうどいい機会だ。この怒りをお前たちにぶつけてスッキリしよう。そうすれば何か分かるかもしれない……。
ニートドラゴンは惰眠を貪りたい @banana333
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