第6話

 ブレス。ドラゴンの定番技であり、作品によっては必殺技のような扱いだ。

 非常に高威力で危険度の高い大技として扱われることが多く、大抵はどの作品でも危険視されている。

 神話などでもよく危険視され、いかにブレスを封じるかというのがドラゴン攻略の要でもある。

 中には毒などの厄介な追加効果のあるブレスも非常に多く、むしろ昔の神話ではこっちが多い。


 火竜である俺の場合は炎や熱戦。拡散させることで周囲を飲み込むような火炎、収束させることで対象を貫く熱線となる。これらを使いこなすことで戦闘はより優位になる。

 まあ、俺は一度も戦ったことないけどな。


 俺のブレスはただ火を吐くだけでも凄まじい威力を発揮する。

 この間練習場でふざけて炎を吐くと、危うく練習場が全焼しかけた。その時は慌てて水魔法を使って消火したが、あの時ほど魔法を使えてよかったと思ったことはない。


 それからも俺はブレスの制御を続けた。

 弱体化や負荷を拘束具のように魔法をかけ、その上でブレスの阻害を行う。これでようやく練習が出来るようになった。


 後で調べたのだが、火竜であってもここまで威力があうのは成竜ぐらいらしい。俺みたいな幼竜ではこんな威力はありえず、せいぜい小さい岩を破壊出来る程度らしい。

 では何故俺のブレスのみ強いのか。その原因は今までの訓練にある。


 ブレスの威力はその竜の魔力と身体に比例する。魔力が強く、肉体が頑強な竜はそれほど強いブレスを繰り出せる。

 俺は鍛えすぎた結果、俺のブレスの威力は凄まじいことになってしまったのだ。

 だが、俺は今までブレスの練習を行っていなかった。ブレスの威力を肌で感じ、それだけで納得してしまったのだ。


 魔法や飛行の訓練、肉体の鍛錬は倒れるほどやっても耐えられたが、ブレスにはあまり興味がないためサボっていた。そのツケが返ってきたのだ。


 そして現代、俺は三重に魔法をかけてブレスの練習をしている。


「ファイア!」


 ブレスを吐く。何の制限もないならこの場一体を火の海に変える業火。しかしそれは炎ではなくライター程度の炎だった。


「……拘束が強すぎるな」


 弱体化を解除して再び炎を吐く。すると消防車の放水シーンみたいな威力で炎が出た。……大体こんなものか。


「ドラゴンブレス・スプラッシュ」


 炎を拡散して放つ。すると視界いっぱいに炎が広がった。

 なるほど、これなら煙幕代わりにも使えるな。


「ドラゴンブレス・ストライク」


 今度は収束。集中した炎と熱が熱線となって岩を貫いた。

 これは便利だ。もし振り回すことが出来れば剣や槍みたいに敵を薙ぎ払うことが出来るかもしれない。


 なんだ、やってみればけっこう楽しいじゃないか。何故今まで俺はサボっていたのだろうか。

 他にもやってみれば面白いことがあるのかもしれない。俺はブレスの訓練を続けた。


「これで今日もぐっすり眠れ……!」


 突如感じた気配。拘束魔法を解除して気配の元に振り向く。

 そこには巨人がいた。緑色の肌をした醜い面の化け物。そいつは俺をにやにやと見下している。

「……」


 俺は慌てることなく構える。ドラゴンがいるのだ。キメラだのエルフだのトロールだのいてもおかしくない。


「……何だ貴様は」


 とりあえず話しかけてみる。初めて遭遇した生物だ。もしかすれば俺の知識にあるトロールと違って友好的な可能性も存在している。

 しかし返事は帰ってこない。


「リュウ…。チイサイ。コレ、タベレル。オレ、クウ」


 片事で壊れたロボのように話すトロール。……それで、あいつはさっき何て言ったんだっけ?

 食う?何を?……もしかして俺を?


 なら俺の敵だな。



 そうと決まれば即行動。俺はブレスを浴びせてやった。

 一切の手加減なく放つ炎。それは体積を上回り、ゴウゴウと音を立てながらトロールに襲い掛かる。


 これが俺の力。自身で掛けた封印から解放された、本来の威力だ。

 たかが十m二十m程度の相手など簡単に燃やし尽くしてやるぜ!


「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」


 野太く汚い叫び声を出すトロール。炎は一瞬でトロールを包み込み、火だるまと化した。


 もがくトロール。火を消そうと地面を転がるもその程度で消えるほど俺の軟ではない。むしろ露わになった痛覚神経を傷つけ、更なる醜態を晒すことになった。


 汚い。臭い、不快だ。

 外見も醜ければ最期の声も汚いな。焼ける汚臭は言わずもがな、それに抗おうともがく様も汚い。


 不愉快だ。俺が殺そうとしているのに何故さっさと死なない?


 鬱陶しい、さっさとこの世から消えてくれ。



 その不快感を表現するかのように火の玉を吐く。

 イメージとしては唾を吐く感覚だ。その程度の威力で俺はトロールに止めを刺した。


「……脆いな」


 トロール。たしか一体でも村一つを全滅させ、中には町の城壁を破壊し、駆け付けた騎士隊を全滅させたとも聞いている。……それがこの程度だ。

 先ほどの炎は俺からすれば小手調べ程度の威力。あれだけで殺せるつもりだったが、まさか本当にこれだけで死んでしまうとは。

 呆気ない。本当に呆気ない。この程度の雑魚に全滅するレベルならこの世界の人間も大した脅威にはならないな。




 成竜になると幼竜の頃より何十何百倍も強くなれるという。ならばその頃になると世界最強にでもなってるのかもな。……まあ無事に生きていればの話だが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る