最終話

 レオナの死から数ヶ月後。

 準備したのは、二人のためにもう一度作り上げた受精キットと、干からびたレオナの遺体。

 わたしは人気のネット放送をジャックすると、演説を始めた。

 内容はいたって簡単。

 わたしが一八年前に、不老不死技術を開発した研究者から生まれたコドモであること。

 そうした特権階級には、出生が特例で許可されていること。

 去勢をした同性間、また、単為生殖に伴う危険性はあるが、自分のゲノムのみからでも子孫を残すことができること。

 その手法をネット上に拡散したこと。

——そして。

 政府が言うようにこの国のリソースが限られているとするならば、一人殺せば、一人分の人間が生きていける余地が生まれるということ。

 最後に、現にわたしがこうして、レオナという身寄りが無い人物を殺し、今身籠っているコドモの分の居場所を作りましたよと、遺体と自らの腹をこれ見よがしに見せつければ完成だ。

 放送を終えると、今でも秘密裏にヒトが生まれているという事実がネット上で拡散され、民衆の不満が爆発した。

 同性の人なんて好きでもないのに、同性愛プロパガンダに苦しめられていた人々。

 どうせコドモを産めないのだからと、援助目当てに去勢した人々。

 こうなったら、権力者がどうするか見ものだ。選択肢は、市民を弾圧するか、出生禁止法を廃止するか。どのみちわたしたちの勝ち。

 レオナは常に、社会に翻弄されていた。

 そんなレオナは、コドモを産むことによって、社会に風穴を空けようとしていたではないか。

 結果はご覧のありさまだ。

 各地で暴動が起きた。特に新宿は、社会への怒りを理論武装した暴徒で溢れかえった。

 ネット中継で、デモ隊のリーダーらしき人物が掲げたものは、父の生首のようだ。肉の塊になった父を見ても、何の感情も湧かなかった。

 そこに何の不思議さもなかった。人間が人間を殺しているだけ。それまで生物が何万年何億年繰り返してきたように、また生と死を繰り返す螺旋に囚われ直すのだ。

 そして、みんな苦しみを味わえば良い。

 人間はすばらしい。

 自由意志バンザイ。

 その自由意志が、とても脆いものであったとしても。


 人の意志を操作することによる支配は、人の意志によって終わるんだ。


——ドアを叩く音が聞こえる。誰かに場所が特定されたらしい。

 ドアをこじ開けた男が部屋に入ってきた。わたしの腹を殴りつけ、ベッドへと押し倒す。鼻息を荒げてのしかかり、服を剥ぎ取る。

 誰かと思ったら、ケイタだった。驚く気力もないまま、首を絞められる。忙しない様子でスボンを脱ぐとわたしの股に一物をあてがい、そのまま何度も無造作に出し入れしてくる。いつになく男らしいケイタに感心する。やればできるじゃない。


 息ができずに意識が朦朧としてきた。わたしの上で運動を繰り返す物が、だんだんとレオナに重なって見えてくる。淀む意識の中でレオナがほほ笑む。


 そうだ。

 あれから、あのとき一緒に夫婦になる誓いをした日から、レオナとわたしは、二人で一人だったのだ。この世界に対する、純粋な悪意として。


 ほら、レオナはこんなに興奮して、うれしそう。

 きっと、この混沌に満ちた世界を喜んでくれているんだ。


 もうすぐいくよ、と、口をパクパク動かし、声にならない声を出す。その様が我ながら滑稽で口元が歪む。

 わたしの苦しむ姿に興奮したのか、レオナが激しく動く。

 あれ、おかしいな。ここにいるのはレオナのはずなのに。

 なんで「ずっとお前をこうしてやりたかったんだ」とか「お前と腹の中のコドモ、二人殺したんだから二人も産めるぜ」とか笑う男の声が聞こえてくるんだろう。


 でも、もうどうでもいいや——


 わたしとつながったものがよりいっそうせわしなく動き出し、一瞬痙攣したように震えてわたしの中で果てると、同時にわたしの意識も果てた。

                                     了

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禁じられた出生 折出柏三 @kamitsu_shiki

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