第11話:現場出張と縄張り争い
その後、ビルの設計や大きな仕事をかかえて忙しい日々を送る様になり、一級
建築士の免許を取ってから地方の現場へ出張する機会が増えてきた。東北、新潟、
関東と出張の日々が続き、吉川部長の家に伺う機会がなかった。
春になり暖かくなり始めた1979年4月3週目に入り九州、四国エリアは設
計3部の管轄であったが設計上の問題で上手くいかないと言うので、吉川部長に
見て欲しいと電話がかかってきたそうだ。伊藤史郎が3泊4日の出張で、最初に、
長崎の現場に飛び、設計3部の担当者の設計図をみて、不具合の箇所を聞いて、
もう一度、現場に行ってみると設計図の書き方に問題があり現場の人間もその設
計図の問題点を理解できなかった様だった。その製図を描いた担当者が、そんな
こと位わかるだろうがと現場担当者にくってかかった。その場に居合わせた史郎
が担当の鬼頭三郎という設計担当者が悪いと言い、誰が見てもわかる様な設計図
を書けない1級建築士は、その資格がないと一刀両断に切って捨てた。
今まで、設計部の方が現場よりも偉いという自負があった様で設計3部の設計
担当者の顔が蒼白になったと言う話が広まり、更に悪い事に叱った男の方が5歳
年上でエリート意識の強い男だったから始末が悪く九州のその現場の方々は大喜
びだったが史郎が会社に戻ると廊下を通るたびに上司や先輩から、ちらちら見ら
れる様になった。それに対して吉川部長が出張から戻ってきた史郎に事の顛末を
聞き、数日後、設計3部の唐沢部長が吉川部長の所に来て設計グループの異端児
の伊藤史郎はいるかと来たので我が設計1部には異端児はいないと言い放った。
とにかく伊藤史郎を呼んでくれと言うので史郎を呼んだ。唐沢部長が、お前か、
うちの鬼頭に恥をかかせたのはと言ったので、いえ設計図の書き方のまずいとこ
ろを指摘しただけですと言うと、誰が見てもわかる設計図でなければ意味がない
と言っただけですとクールに答えた。
更に吉川部長が唐沢部長に自分の部署で困ったからと言って管轄外の設計1部
に調査依頼しておいて、無礼とは、ちょっと恥ずかしくないですかと言った。
設計1部では自分の部署の事は全て自分の所で解決し、他部署に、お願いした
事はないと言った。唐沢部長が、設計2部と3部は仲が良く、わからない所や、
問題がある時は今までも助け合っていると言うと吉川部長が、それが第一おかし
い、自分達に甘いんじゃないですかと言ってしまった。ちょっと険悪な雰囲気に
なったので史郎が言い方が後輩のくせに生意気だったとしたら話し方の悪かった
事は謝りますと言い、しかし、それ以外は自分の仕事を後回しにして設計3部の
ために、この1週間費やしたんですよと言い、感謝されても怒られる筋合いはな
いと思うのですが、いかがでしょうかと言った。
お前ら頭おかしいのとちゃうか設計の担当者が現場に奴に笑われたんだぞと言
うと設計も現場も上下はない。良い事は良い、悪い事は悪いですと史郎が言った。
唐沢が、お前どこ出たんだというと、東大の設計ですと答えると、一級建築士
の免許を持ってるからと言ってつけ上がるんじゃねーぞと言い、吉川さんも吉川
さんだ自由に育てるのは良いが口の利き方や社内のルールをよく教えておけと言
い、このままじゃ済まないと思えよと口汚く罵って部屋を出て行った。吉川部長
が彼はたち悪いし関西出身の西川専務に子分になって取り入ってやりたい放題の
事をしている男だと言い、史郎が以前、会社のくだらない仕事とか矛盾とか出世
街道のことを批判していたがこういう事かと思い知らされた。
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