第10話:ダイヤの原石磨きとプラベートバンクへ

 全部、研磨するのに、どの位の時間がかるかと、聞くと、10個全てだと、3ヶ月程度かかると言った。しかし持って帰るのは、危険だと言い、多分どこかの税関に引っかかるから、我が社に預けておきませんかと言った。


 すると、彼の名刺を渡してくれた。ゴータムの研磨場のペーター所長さんだった。そこで、管理をお願したいというと何枚もの書類を書いてもらいますと言われ、個人情報の全てを書いて、持ち主、依頼人の書類にサインを書き、逆にゴータム社長の預かり印を押した書面を渡してくれた。


 この預かり証は、ゴータムとレフで一部ずつ保管する事になっている。もちろん依頼書も同じで両者が持つことになっているので絶対に紛失しない下さいねと念を押された。マリアは長い間、心の中につかえていた物が、取れた様な、例えようもない程の安堵感に包まれた。


 レフも父イワンとの約束を果たした様な爽快な気持ちになった。その晩も、同じホテルに帰り、ワインで乾杯した。イワンとの思い出や、その後の辛い時代を回想し涙を流した。 マリアは、ここ迄、来る事ができ本当に良かったと思った。


 レフは、数ヶ月後、研磨されたダイヤモンドをどうするか、まだまだ、難問が残されていて完全に霧が晴れたとは決して言えない状態だった。その後、ヤルタに戻って、その話を妻のアリサと話してみると約束した。


 翌朝、朝食をとりチェックアウトして、キエフ行きの飛行機で午後2時にキエフ到着、その後、列車でヤルタへ夜8時過ぎに家に着いた、その晩は、ゆっくりと休み翌朝ベルギーで買ってきた、チョコレート土産をアリサの両親と自分の家族に渡した。


 数ヶ月後、レフがアリサにダイヤの話とヤルタを出てヨーロッパの暖かい国へ移住したいと言う話をした。アリサもソ連の重苦しく監視されている様な感じは嫌いだった様で、すぐ賛成してくれた。翌週、アリサが、父エゴールにマリアとベロニカの体調が良くない事。


 それに加え、ソ連の寒さが、嫌いで、もっと暖かい、南ヨーロッパに移住したいという話を打ち明けた。最初は、驚いていたが、そう言う気持ちもわかると言い、レフとアリサが、決めた事なら、反対しないと言い、気持ち良く、送り出すと言ってくれた。


 1986年10月、ゴータム社からレフ電話が入り、宝石の研磨が終了したと言う知らせが入ったのでヤルタを出る日となった。出発の日、長い間世話になった、アリサの両親、エゴールとダリアにお礼を言った。


 すると、エゴールが、こちらこそ、レフのお陰でレストラン事業で大儲けさせてもらい感謝していますと言ってくれた。マリアに、お体を大切にと、ハグしてキスし別れた。その際に、エゴールがマリアに厚い封筒に入った多額の現金とエゴールの大きな車を餞別として渡してくれた。


 アリサには、自分の思う通り自由に、生きて欲しいと告げた。1986年10月にレフとマキシムが運転する車に荷物を積み、レフ達はヤルタの地を後にした。ヤルタを出て、ウクライナ、ポーランドのヴロツワフでホテルに一泊して体調を整えた。


 その後、ポーランドの18号線をひたすら走り、最後の難関、オルシナ郊外のドイツ国境を通り抜ける事ができた。その後、ハノーファーでホテルに1泊して、デュッセルドルフを経由して、アーヘン郊外のドイツとベルギーの国境を越えてブリュッセルに入った。


 ブリュッセルのホテルに宿泊し祝杯をあげた。翌日、ゴーダム社に電話を入れて面会の約束を取り出かけた。ゴーダム社の応接室で研磨の終わったダイヤモンドも見せてもらうと神々しい光をはなち素晴らしいものに仕上がっていた。


 その中の3つの大きなダイヤモンドを見せてくれた。見終わった後、担当者が、あなたたちが、これを持っていては危険だと言った。こんな大きな高額のダイヤモンドは必ず出所を調査され、アフリカ、ロシア産であったら大変な事になります。


 個人で保管するのは危険すぎると真面目な顔で言った。レフが大きなダイヤモンドの買い取り価格を聞くと全部で7百万ドルと言った。しかし市中の個人の銀行口座に振り込むと税務所から金の出所を聞かれるから絶対、やめた方が良いと言った。

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