押忍!! 誰でも入れる説得塾!

ちびまるフォイ

口は剣より強し。

「……なに、してるんだ?」


「見たらわかるでしょ。ここから飛び降りてやろうと思ってるのよ。

 私をいじめた奴らが明日登校したときに私のグロい死体を見て

 もう二度と消えない心のトラウマを作ってやるんだからっ」


「やめろ! そんなことしてなんになるんだ!」

「あんたに何がわかるのよ!!」


「俺の父親はこの学校の掃除の用務員の仕事をしてるんだよ!

 掃除が大変になるだろ!!」



 ・

 ・

 ・


「……と、まあ、このように。

 主人公という都合上みなさんの周りにはさまざまなヒロインがやってきては

 あなたにさまざまな問いかけを極限状態で強いってきます」


「はぁ」


「しかし、今見ていただいたVTRのように変なことを言ったり、

 まして言葉に詰まったりしてしまっては最悪の状況になりかねません。

 ということで、ここでしっかり勉強して備えましょう」


「口がうまくなるってことよりも、

 自分の気持ちを素直に伝えたほうがいいんじゃないですかね。

 用意された言葉は人の心を打たないような……」


「だまらっしゃい!」


講師はムチをしならせ教壇をぴしゃりと叩いた。


「そんなことは試験を受けてから言いなさい!」

「試験?」


その瞬間、受講生の体は闇へと引きずり込まれた。

たどり着いたのはどこかの一室だった。壁を向いて座るヒロインがいる。


「あの……ここはいったい……」


「私のことは放っておいて。もう私はけして戦わない」


受講生はなんとなくこの流れでこれが試験であることを悟った。


「ど、どうしてそんなに戦いたくないんだ?」


そこで、まずは相手の悩みを聞き出し、心に寄り添うようにと考えた。


「だって……私、知らなかったんだもの。

 兄を殺した憎い相手が……私の親友だったなんて!」


「それは……気の毒に……」


「でも、親友はいつでも私を殺せたのに、そうしなかった。

 きっと親友だって私を殺したくなんてないのよ!」


「そうか……」


「だから、私はもう戦わない。過去に囚われて親友を手に掛けるなんてできない!」


「え、いや、それは……戦おうよ。ねぇ?

 なんていうか、あるじゃん、話の流れとかも。

 それに倒さないと君の親友はもっともっと人を殺すかもしれないでしょ? ね?」


「人の気も知らないで!!」


ヒロインがビンタしたところでシミュレーションは終了した。

ドヤ顔の講師が仁王立ちしている。


「……ね?」


「その"ね?"はなんですか……」


「急に重めな話をぶちかまされて説得するなんてできないんですよ。

 今日び、強引な正論を振りかざしてパンチで解決なんて流行りません。

 それに、議論慣れしてない日本人ならできるはずもないんですよ」


「じゃあどういえばよかったんですか!?

 強引に唇でも塞げばよかったんですか!」


「お前の顔でやったらそれは痴漢だバカ野郎」


「もう一度チャレンジさせてください!

 これでも俺は世界を救うために立ち上がった主人公なんです!

 こんなところで引き下がっては友情努力勝利の方程式に結びつかない!」


「友達いないのに、どうやって友じょ――」

「はい転送!!」


主人公は再度チャレンジした。

今度の舞台ではヒロインが足元で何かを抱えるようにしてひざまづいている。


「どうして……どうして……」


「えと、どうかしたのか?」


「見てよ、この子。こんなに小さくて、私よりもずっと年下なのよ。

 私、こんな子供が戦ってるなんて知らなかった」


「それは……しょうがないよ……知らなかったんだし」


「私達が戦う意味ってなんなの!?

 こんな子供を私達の手で殺してしまって、本当に正義なの!?

 本当は私達のほうがずっと悪なんじゃないの!?」


ヒロインは泣きながら主人公の胸に飛び込んで泣きじゃくった。

主人公の頭はあらゆる説得ワードが駆け巡っていく。


「答えて! 私達は、何と戦わなくちゃいけないの!?」





「いったん、その答えは持ち帰っていい?」


主人公はひっぱたかれてまた醒めた。

元の部屋に戻ってからずんとうなだれた。


「難しい……」


「でしょう? いい加減に自分の実力を認めてください。

 自分の足らないところを認めることも強さですよ」


「わかりました……! 教えてください!

 誰をも説得できる確かな言葉の力を!!」


「その意気やよし!!!」


かくして主人公は激しい勉学に明け暮れた。

卒業する頃にはもう入学時の面影など無いほどに変わっていた。

やがて誰をも説得できるようにと生まれ変わった。


そして、ついに迎えた最終決戦。


「よく来たな。しかし、この戦いは正義と言えるのか。

 我の恐怖なくして世界は反映するのか。

 恐怖を知らず苦労を知らぬ人間どもは家畜に劣る。

 貴様と我、はたして世界の悪はどちらかな!?」


「そうかもしれない。しかし発展だけが人間じゃない!

 平和の中にあるささやかな幸せを求める人だっている!」


「そうして他の生物を虐げ、殺し、操作する。

 所詮人間は自分が常に支配する側でいたいだけではないのか!」


「そうだ!」


「……そこまでして守る価値がどこにある!

 命を賭けて戦う価値がどこにある!!」


「知らん!!!」


「じゃあなんで貴様はここまで来たんだっ!!」


「それは……転生させた神に聞けぇぇぇぇ!!!!」


主人公は斬りかかった。







「あの、この塾でなら誰をも説得できる方法が学べると聞きました。

 議論が通じない相手でも、役に立ちますかね?」


その後、今度は魔王が塾に訪れた。

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