第1章 浮気と謎解き その2
被害者の名前は、毛呂山諸也(もろやまもろなり)。都内の中小企業「火ノ車産業」に勤める28歳サラリーマン。妻の茂代子(もよこ)とは互いに大ファンであるラグビーチーム”富士見フェニックスズ”の試合会場で出会い、結婚。休みの日は二人でよくラグビーの試合を観戦しに行くほど仲が良かったそうだ。
いちろーは、資料を手にしながら目の前に座っている入間に向かって説明する。
「仲が良かったのに、なんで奥さんは浮気調査なんて君に依頼したんだい?」
「ああ。主人が風呂に入ってるときに、テーブルに置いてあったラインが鳴って、それを偶然見たらしい」
そこには、こんな内容が書いてあったそうだ。
『今週、ホテルで2人で会えないかな?そこで、お互いのを見せ合いっこしよう♡』
「相手の男子大学生の名前は、鳩山優紀(はとやまゆうき)。ライン上の名前は”優紀”になってたそうだから、奥さんが女と勘違いしたのも無理はない」
「でもさ、相手が男であれ、ホテルでそんなすごいことしてたんでしょ?奥さん、そっちの方がショックなんじゃない?」
みさとちゃんが微妙な表情をして言う。女子高生にしてみれば、なかなかハードな話を聞いたことになるだろう。
「確かにね。もし、ボキが奥さんの立場だったら、その男子大学生をスクラムして取り囲んで、ペナルティキックを100発お見舞しても気が済まないだろうね」
「無理にラグビーで例えなくていいよ!意味わからんし。で、ラインを見て不審に思った奥さんは3日前に浮気調査を依頼しに来た。そして、昨日被害者は会社帰りに駅で鳩山と合流。2人で手をつなぎながらホテルに入っていった。・・・僕が知ってるのは以上だ」
「・・・ふ~ん。な~るへそ。ほえ~」
入間がテキトーな相槌を打ちながら聞いている。こいつの昔からの癖で、こういう時は相手の話に興味がない時だ。
「入間さん、さっき殺人事件って言ったよね?その話、詳しく聞かせて!」
あさかちゃんが生き生きした目で入間を見つめる。”殺人”というキーワードにこんなにワクワクする高校生は、あさかちゃんか工藤新一くらいだろう。
「あ~、そうそう!それがね、被害者は奇妙な形で死んだそうなんだ」
「奇妙な形?」
「変死体で発見された、ってこと!?」
あさかちゃんがメモを片手に食いつく。
「いや、そうじゃなくて。被害者は、ゲイバーの前でキャッチをしていた従業員に抱き着いて、そのまま息を引き取ったそうだ」
「え・・・・・・・・・!!!」
「な・・・・・なんじゃそりゃ・・・・・」
「しかも、被害者はその時、右手に黒いビニール袋を持ってたらしい。それで、その中身なんだけど・・・。”男性器”の形そっくりのキノコがぎゅうぎゅうに詰まってたそうだ」
「え・・・・・・!!!」
「な・・・・・!!マジか・・・!!被害者は、そういう人だったなんて・・・・」
「まだまだこの国じゃあ、同性愛者はマイノリティだからねぇ。誰からも理解されず、隠し通してきた鬱憤がその日、一気に爆発したのかもしれない」
「・・・・男子大学生と熱い時間を過ごした事が引き金となって・・・・・か」
「・・・・う~ん。・・・そうだ!死因は何だったの?」
「まだ詳しい結果が出てないから正確なことは言えないんだけど、”毒”による中毒死であることは確かなようだ」
「毒・・・・?」
「ああ。被害者は、毒が原因で死んだ。そして、被害者は自殺する理由も、毒を入手するようなつては無かった。・・・つまり」
「何者かによって、毒殺されたってことか・・・・・」
「毒殺・・・・・!!!」
あさかちゃんは、この火曜サスペンスのような状況がよほど嬉しいのか、さっきから目がキラキラしている。
「でねぇ、これからそのゲイバーを調査しに行くところなんだけど、君たちも来るかい?」
「え・・・?僕たちも一緒に調査していいのか?」
「おいおい、何を言ってるんだ?警視庁のエリートコースをひた走るボキがいいって言えば、みんな快くOKしてくれるよ♢」
「はいっ!はい!はい!はい!私たちも行くよ!・・・ねっ、いちろー君?」
「・・・そういうことなら。・・・・まあ、いいか?」
僕たちは、新宿2丁目にあるというそのゲイバーへと向かった。
謎を解いて埼玉 @piroriro
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