第1章 浮気と謎解き

埼玉県某市。雑居ビルが立ち並ぶ街並みの中に、春日部探偵事務所はある。春日部一郎は先日受けた不倫調査の報告書をまとめていた。




「相手は21歳の大学生。会社からの帰りに2人で手をつないでホテルに向かっている。・・・・・相手は、男。K大学ラグビー部主将のムキムキマッチョ。・・・う~ん。まさか、旦那がゲイだったなんて、奥さんなんて思うんだろ。」




「いちろー君、おはよー!!」


朝霞美里が制服姿で、いつものように元気な顔で入ってくる。




「おはよー!って、もう夕方だぞ。」


「じゃあ、なんて言えばいいの?おつかれー!?」


「それだと、バイト先みたいだしなぁ。こんにちは!かな?」


「それもなんか変じゃない?」


「・・・・確かに。」




彼女は朝霞美里。通称あさかちゃん。彼女は新座市にある、名門付属高校の3年生だ。刑事志望で、なにか将来の足しにならないかとよくここへ遊びに来る。彼女は、いつものように勝手に冷蔵庫からオレンジジュースを取り出すと、ソファに座りごくごく飲み始めた。




「ところで、なにか面白い依頼あった?」


「いつものように不倫調査くらいしかないよ」


「え~!つまんな~い!殺人事件の調査とかないの!?」


「僕に言われても困る。それに、あったとしても警察の仕事だよ。」


「不倫調査なんて何が楽しいの?」


「楽しいからやってるんじゃないよ!仕事だよ!・・・・・まあ、不倫してる本人は楽しいのかもしれんけど。」


「・・・はぁ~あ。」




つかの間の沈黙が訪れたあと、1階から2階への階段をバタバタ上るやかましい音が聞こえてきた。・・・やれやれ。またアイツか。勢いよくドアが開かれると、そこにはリヴェラーノ&リヴェラーノのスーツに身を包んだ、短髪の男が立っている。




「は~はっはっは!!!いちろ~きゅ~ん!!お久しぶりぶりじゃ~ん!?」


彼は、小学校の時の同級生で刑事の“入間任三郎”。東大法学部を首席で入学+卒業して、刑事になってからも成績はトップクラスという、絵にかいたような嫌味な男だ。




「おやおやぁ~!?そこにいる、可愛らしい女の子は、あさかちゃん!?マジかよぉぉぉ!!居るってわかってたら、バラの花を100本買ってきたのに!ボキの中で燃える情熱のように、真っ赤なバラをね!」




「入間さん、久しぶり~。・・でも、あたし花束よりもお菓子の方がいいな。」


「てか、お前何しに来たんだよ?仕事してんだから帰れよ。」


「ちょっとぉぉ!!親友に向かってその言い方はないでしょぉぉぉ!ヒドくないですかっ!ヒドくないですくわぁっ!!」


「うるさいよ!ホント、何しに来たんだよ?」


「まあまあ。入間さん一先ず、オレンジジュースでも飲みなよ。」


「さすが、あさかちゃん。ここにいる貧乏探偵と違って優しいねぇぇ~!」


「・・・そのオレンジジュース、僕のだぞ。」




入間はオレンジジュースを飲み終えると、鞄から資料を取り出した。


「実はね~、今日殺人事件があってねぇ、それを調べに来たんだ」


「え!殺人事件!」


「で、なんで家に来たんだ?」


「実は被害者なんだけど、君、この男に見覚えないかい?」




渡された顔写真を見てみる。・・・この男、確かにそうだ。


「僕が不倫調査で調べてた男だ。」


「やっぱね。不倫してたって聞いたから、君なら知ってると思ったんだ。君、この辺の浮気事情に詳しいし。」


「いや、別に詳しくないよ!確かに、浮気調査の依頼は多いけど・・・。」


「とにかく、詳しく話を聞かせてくれないか?」




僕は、紙パックのオレンジジュースを飲もうとした。空だった。

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