複雑な滋味

主人公マリをはじめ、出てくる人物の誰もが報われない恋をしている。
タイトル「おだまり」は、マリの本名であり、
想いを吐露しそうになるマリの、自分に対する叱咤の声でもある。

しかし、実らぬ恋、言えば終わりの恋、という
恋愛モノの王道をゆきながらも、
本書は、どこかふざけていて、なのに真面目で、
皮肉でへんてこで、
そして次第に呼吸が浅くなっていくように切なくて、
複雑な滋味をもつ小説である。

殊に、他者からは「美人」の評価を得、
それを客観的に受け止めているマリが、
自身の女性性にうまく折り合いがつけられない様の描写は見事である。
中年男性の集う焼き鳥屋でしかデートできないマリに対する
いとしさと切なさと心強さを(あ、年がバレる)、
噛みながら一気に読んだ。

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おだまり