フクロウが夜をお知らせします

ちかえ

フクロウが夜をお知らせします

 とある国に傲慢な領主がいました。


 彼は自分の権力を見せつけるために大きな城を作る事にしました。

 でも実際に作るのはもちろん領主ではありません。彼の領にいる領民達です。


 領民達は朝早くから、夜になるぎりぎりの時間まで奴隷のように酷使されていました。毎日、毎日、重い石材を運び、城を建てる日々は地獄でした。おまけにサボると領主の家来による鞭が飛んで来るのです。


 何故、夜までなのかというと、この国の王様がとてもいい人で、夜中まで仕事をさせてはいけないというおふれを出していたからです。


 とは言えども意地悪な領主は、昼間にその分たっぷりと働かせるのでした。


 そんな酷使されていた領民達の楽しみは、夜、交代でフクロウに餌をやって交流をする事でした。


 フクロウは領民達にとってはとても大事な存在だったのです。


 この国では、就寝のお知らせをフクロウの鳴き声で判断するのです。それなのに、 意地悪な領主は仕事終了の時間をフクロウの鳴き声が聞こえてからと決めていたのです。


「フクロウの鳴き声は夜の合図だ。俺は間違っていない」


 これが領主の口癖でした。それに領主の息子は心を痛めていましたが、彼らの仕事だという事で、大きな声で文句は言えないのでした。でなければ領主は領民に何も与えず飢えさせるのでしょうから。


 なので、フクロウの鳴き声というのは、領民達にとって一日の辛い仕事が終わる合図。何よりも大切なものでした。


 だからこそ、彼らは、そのフクロウに、自分たちの報酬として渡されたなけなしの食べ物を分け与え、大切に扱っていたのです。


 ただ、そんな事情をフクロウは知りません。ただただ優しくしてくれるこの人間達が嬉しくて懐いていただけなのでした。それでも彼らが大変な目にあっているのは分かっていたので、小さな心を痛めていたのでした。


 フクロウに出来ることと言えば、いつも鳴いているのより早く鳴き、領民達の仕事を早く終わらせてあげる事だけでした。


 でも、それだけの事でも領民達には嬉しいので、もっとフクロウに優しくします。

 そうしてフクロウと領民達の友情が育まれていったのでした。


 ある日の事です。


 疲れのためか、とある少年が足を滑らせ、運んでいた石材の下敷きになってしまったのです。


 幸い、命に別状はありませんでしたが、足にひどい怪我をしてしまいました。これでは働くのは無理です。


 でも、そんな事は領主やその家来には関係ありません。


 もし、領主の息子がいれば少しは違ったでしょう。でも、不幸な事に、その日、息子は王様に呼び出されて領を留守にしていたのです。


 彼は痛い足を引きずって働かなければいけませんでした。仲間達は彼を心配して楽な仕事の方に回してくれようとしていましたが、足が痛いのにはかわりありません。おまけに少しでも休むと鞭が飛んで来るのですから。


 彼が我慢して働いていたその時でした。


 急に空が暗くなって来たのです。


 領民も、領主の家来もびっくりして空を見上げました。まだ夜にはほど遠い時間です。

 誰も知らなかったのですが、その日は皆既日食だったのです。


「な、何をやっている! まだ昼だ! 動け!」


 我に返った家来が領民に命令します。領民達は暗くなっていく空に恐怖を感じながらも動き始めました。もちろん、怪我をした少年も。


 フクロウはその様子を悲しそうに見ていました。暗いのに夜ではないのです。彼らを助けてあげる事など出来ません。

 フクロウは夜に鳴くと決まっているのですから。


 そこまで考えた所で、フクロウの頭に浮かんだのはいつも夜に笑顔を見せてくれる領民達の姿でした。


 嘘でもいい。自分が動かなければきっと後悔する。フクロウはそう思ったのです。


 フクロウは声を振り絞って鳴き始めました。

 ホーーッ! ホーーーーーッ! と。


 これに反応したのは他ならぬ近くにいる別のフクロウ達でした。


 フクロウの言葉は人間には分かりませんが、フクロウ同士には分かるのです。


 だからフクロウ達は分かったのです。彼が「みんな一緒に鳴いてくれ! 今は夜だと叫んでくれ!」と言っているのを。そして、その切羽詰まっている空気を。


 これは一大事だ!


 ホーホー。

 ホー! ホー!

 ホーッ! ホーッ!

 ホーーーーーッ! ホーーーーーッ!! ホーーーーーッ!!!


 フクロウ達の鳴き声はどこまでも響き、いつの間にか国中のフクロウ達が鳴き始めていたのです。


 フクロウの鳴き声は夜の合図、領主の家来もしぶしぶ今日の仕事を終わりにさせるより他はありませんでした。


 この異常事態に、王様は領主の息子を急ぎ帰路へ向かわせました。自分の家来達も遣わせて、何があったのかも調べるように命令しました。


 日食が終わった後も、件のフクロウだけはずっと鳴き続けて、いや、泣き続けていました。


 そうして、領主の行いが王様に知れる事になったのです。


 全てを知った王様は領主を怒りました。その責任から、彼は領主の地位を解かれ、息子が代替わりする事になりました。


 領民の努力が無駄になってしまうので、もうかなり出来てしまっている城の建設を止める事は出来ませんでしたが、彼らの仕事はかなり楽になりました。ゆっくりでいい、と新しい領主が言ってくれたのです。


 暮らしが楽になっても彼らはフクロウの事は忘れていません。この領の人間は優しいフクロウの事を忘れることはないでしょう。


 今回の事をきっかけとして、領の旗のシンボルにフクロウが加えられるようになったのですから。


 その旗は何百年経っても、フクロウの伝承と共に代々の領主に語り継がれていったのです。

 領民を酷使しないという戒めをもって。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

フクロウが夜をお知らせします ちかえ @ChikaeK

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ