隣の女

usagi

第1話 隣の女

隣の女と目が合った。


俺たちはベッドに横たわり、殺風景な部屋の中で、清潔な枕、シーツ、布団にくるまり、じっと真上を見上げていた。


だだっ広い部屋には、俺たちでなく複数が眠っているようだった。

まだ、目が明るさに慣れていないせいか、目が痛かった。


ずっと、洞穴のような真っ暗な場所に閉じ込められていたから仕方ないか、と俺は思った。


また隣の女と目が合った。

しかし、俺には「笑いかける」という方法がわからなかった。

じっと、暗い世界で自分とだけ向き合って生きてきたから。人に対してどう接すればよいのかもよくわからなかった。


とりあえず勇気を出して、話しかけてみた。

「おまえと俺が隣同士なのは運命かもしれない。」

女はじっと俺の目を見つめてきた。


「こうして殺風景な部屋に大勢がじっとベッドに横たわっている。そしてお前は俺の隣にいた。目を開けるとお前がいたんだ。俺はお前のことをずっと覚えておくことにする。」


女は小さくうなづいた。

「なあ、愛と恋の違いってわかるか。」

「落ちるものか、そうでないか。与えるものか、そうでないか。」

「英語にすると、恋=in love、 愛=loveという違いになる。つまり、俺はお前に恋をしたんだと思う。」

隣の女は3回まばたきをした。


俺は彼女の目をじっと見つめた。


すると、ついに彼女はしくしくと泣き出してしまった。俺の愛が伝わったから感動したのだろうか。


「ふふふ。私たちの赤ちゃん。」

「周りと比べても特別にかわいいねー。」

「生まれたばかりなのに、隣の女の子をじっと見つめて、何かを話しかけてるみたい。」


「あ、ほら、早速隣の子を泣かしちゃったみたい。」

「女泣かせの才能はパパゆずりかな?」


「おいおい!」

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隣の女 usagi @unop7035

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