第4話『最近のラノベってホモ関連キャラ絶対いるよね』

 ずんぐりと、熊のような存在感を放つ男が、俺の背後に立っていた。


「他に誰がいるっていうんだ?しかしその格好……ぷぷっ!」

「……ころすぞ」

「あ?」

「なんでもないですよ。なにしてるんですか?」


 この人は歌唱研究部の部長で、新三年生の斎藤源太(21)。

 身長が180センチ近くあり、鍛え上げられたその筋肉によって近寄りにくさこの上ない。ってか確実に入るサークル間違えてる。


「って、部長がここに来たってことは……」

「ああ、今年も歌おうと思ってな!」

「やめて!マジでやめてください!」


 そう、この部長、性格自体はいいのだが、歌が壊滅的に下手である。しかも下手なのに声がでかい。正直耳が壊れる。まじジャ○アンって感じだ。


「なんだ、そんなに嫌がって。俺の歌が聞きたくないとでも?」

「い、いや、そんなこと全然ないあるよ?」


 しかも腕っ節もジャ○アン以上だからタチが悪い。俺にドラえもんがいてくれれば……っ!

 思うんだけどドラえもんの道具で一番危険なのって間違いなくもしもボックスだよね。あ、どうでもいいか。


「お、新入生が来たぞ?」

「いっ!?」


 部長の指差す先には、たくさんの資料の山を持った新入生たちがぞろぞろと歩いて来ていた。今オリエンテーションを終えたであろう、第二波だ。

 その様子を見て、近くにいた他の部活、サークルの勧誘員も沸き立ち出す。


「よし、ここはインパクトある一撃を……」

「や、やめてくれええ!!」


 あんた去年もこれやって新入生にドン引きされてたじゃん。ってかその新入生俺だわ。

 なぜか隣にいた雅也は「か、カッケェ……」と、恍惚とした顔をしていたが、それは本当に一部の話だ。


 普通にやったら新入生はいきなりこの部活を避けるようになってしまうだろう。そんなことになったら……

 あれ、俺そんなに困ることないな。じゃあ、いっか。放っておこう。


「あ、マイク忘れた」

「……は?」

「前は石田と氷川、瞳ちゃんしか入ってくれなかったからな。今回はもっと多くの人に届くようにマイクを持ってくる予定だったのだ」

「いや、そのりくつはおかしい」


 ちなみに瞳ちゃんと言うのは俺と同じ学年の、ピアノが得意な女の子のことである。始めに言っておこう。モブだ。


「じゃ、俺は一度部室に戻るぜ!がはは!!」

「ま、待ってください!」


 俺の制止は意味をなさず、主将は行ってしまった。行かせてしまった。

 失敗した失敗した失敗した。私は失敗した……絶望の未来を、変えられなかった!

 今年は鼓膜だけでは済まされそうにない。脳震盪で誰が倒れることかわからない。

 どうする、どうすればこの状況を打開できる?

 そうこうしているうちに新入生はぞろぞろと校門を通り過ぎていくし……そ、そうだ!

 十分なくらい新入生を勧誘して、部長の歌によるPRは必要ないって言おう。我ながらナイスアイデアだ。これしかない!


「というわけでそこの君、よければ話だけでも聞いていかない?」

「あ、いや、その……」


 とりあえず近くにいた女子生徒の一団に声をかけてみた。しかし、この反応はなんだ?

 俺は普通に声をかけただけだというのに、ゴミを見るかのような目で見られているぞ?


「(ヒソヒソ)ねぇ、あれって……」

「(ヒソヒソ)ぷぷっ、ライオンキング?」

「(クスクス)面白いと思ってるのかなぁ?」


 あ、俺、全身タイツなんだった。変態なんだった。

 こんな簡単なこと、どうして気づかなかったんだろう。あたしって、ほんとばか。


 引きまくってる……というか、嘲笑している女子新入生たちは、足早に俺から離れていった。

 この石田伸一が生きッ恥を晒してしまうとはな!

 それはともかく時間がない!どうにかして人を集め……


「ん?」


 自慢じゃあないが、俺は結構視力が高い。わざわざどうしてそんなことを今告白したかと言うと……


「も、もう来ている……ッ!?」


 マイクを持ち、笑顔で歩いてくるその姿には絶望しか感じない。第10使徒が来た時以来の絶望感だぜ。

 俺にできることはもうない。逃げるんだよォ!

 俺は振り返り、着替えが置いてある部室棟を目指そうと走り出……


「うわっ!」

「ひゃっ……」


 そうとしたその時、人にぶつかってしまった。

 高めの声と低めの身長から女性かと思ったが、スーツが男物だし、何より胸が平らだ。


「あの、すみません、大丈夫ですか?」

「え?ああ、大丈夫……」


 即座に謝り、顔を見る。

 西洋人形みたいに綺麗な金髪と顔立ち。中性的な、とんでもないのイケメンだった。

 髪色と少しだけ西洋風な顔立ちでから、ハーフ、もしくはクオーターなのだと推測できる。


「……ふふっ、というか、なんですかその格好?大丈夫じゃないのはあなたの方じゃ?」

「い、言わないで!格好のことは言わないでっ!」


 そんなこと俺が一番わかっているんだから!結構傷つくんだから!


「じゃ、僕は行きます」

「あ、待って!」


 恥ずかしさのあまり、勢いで彼のことを呼び止めてしまった。


「なんですか?」


 ほら、やっぱり怪訝そうな顔をされてしまったじゃないか。

 だけど、もうさっきの女子から受けた反応で俺の心は鋼と化している。

 エェイエァム・ザ・ボォンド・マイ・ソゥド……よし、詠唱完了。おっとこれだと心が硝子だぞ?


「歌唱研究部、興味ない?」


 完全に勢い任せ。当の彼は呆けた顔をしていたが、そんな顔もなんだか素敵に見えて。

 自身の中に芽生えた知らない感情とホモの予感に、俺は小さく身を震わせるのだった。

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ツンデレ清楚はアイドルしたい! むとう @non_sugar

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