第3話『大学2年で童貞って普通だよね?』

 電車を乗り継ぎ、冬美大学駅前で降りてからバスで15分。

いや、バス乗っても15分かかるってその駅全然大学前じゃないじゃん……


そんなツッコミを入れつつたどり着く冬美大学こそ、俺と雅也が通う大学だ。

規模も偏差値もそこそこ。東京都内のよくある私立大学だ。


 校門前、敷地内と様々なところに植えられた桜の木からひらひらと花びらが舞い、その桃色が夕焼けの朱と混じり絶妙なコントラストを生む。ああ、なんて綺麗なんだ。

と、言いたいところだが、この景色も無駄に高い学費から捻出されていると考えると憤りを感じなくもない。もっと使うべきところあるだろ……


というか、私立大学ってなんなん?

働いてる学校法人の社員(?)は公務員以下のクソみたいな業務しかしてないのに相当な給料もらってるんだぜ?

そんな仕事なら窓口24時間営業にしろやコンビニエンスさ大事にしろよ。お前らのために金払っとるんちゃうねん。


ま、払ってるのは僕の親の金なんですけどね。(にやけ)


「ねぇ、見てあのライオン。なんか笑ってるわ」

「ああ?うわっ!気持ち悪りぃ……」


あれ、もしかして俺の話してる?僕、またなんかやっちゃいましたかねぇ?


「って、雅也。なんだ俺のこの姿は」

「なんだって見てわからないのか?ライオンさんだ」

「そんなの見ればわかるわ」

「可愛くない?」

「そんなもん求めてないわ……」


新学期。

オリエンテーションなどを終えた新入生たちが校舎を出たが最後、無数の先輩たちに取り囲まれ、サークル勧誘を受ける。

そんな新生活、新環境に心躍らせる新入生の中、圧倒的な存在感で周囲に学生を近づけさせない変態がいた。


 そう、俺!


 茶色の全身タイツにフサフサの飾り。

キモい。ふふ、あんな蔑んだ目で見られたのはいつぶりだろうか。涙が出そうだ。いや、出てるね。


劇団○季のスタッフでもないのにライオンのコスプレ。と言うか劇団○季のスタッフもうちょっとまともなの着てる。何が一番やばいって、俺のむぅおっこりが激烈にアピールされてしまっているところがやばすぎる。

己の"漢"が、自己主張をやめないぜ!


「ほら、叫んでみろよ、心配ないさああああああああ!!!!」

「そうかよし、お前今から体育館裏来い」


 実はこのセリフ、大西◯イオンのオリジナルネタではなく、本編でちゃんと言っているらしい。いや、マジどうでもいいなこのネタ。


「いやぁしっかし退屈なオリエンテーションだったなぁ」

「話を逸らすな」

「そういえばオリエンテーションの時聞いたんだけど、俺らの一個下の学年に一人芸能人が入ったらしいぞ」

「はぁ……芸能人とかそう言うのに俺が興味ないの知ってるだろ?」

「ま、知ってるけどさ」


 そんなことより雅也が普通に私服なのは納得がいかない。なんか着て欲しい。

 というか何より、今すぐ脱ぎたい。


「あ、伸一、俺ちょっと琴美ちゃんと会う約束あるからさ!」

「はぁ!?誰だよその女俺知らねぇぞ!」

「いやその発言はどうなんだよっていうのはともかく、一年生の女の子!一緒に誰か友達連れて来てくれるらしいからさ!」

「またそれか……この前の子はどうしたんだよ」

「ふ、フラれた……」

「あ……w」

「おい、貴様今笑ったな!?ぶっ殺してやる!」

「ぶっ殺すって言葉は、終わったときに言う言葉だぜ?」


拳を華麗に躱し、奇妙なポーズを決めてみせる。

 そう。確かに雅也はそこそこイケメンなのだが、女を取っ替え引っ替えする正統派イケメンキャラには程遠い。


なぜなら見ての通り、中身があまりに残念すぎて付き合ってもすぐフラれてしまうのだ。

 まぁ、僕に彼女いた経験なんてほぼないんですけどね。


「この童貞野郎が!!」

「残念。君も仲間だ」


 二人揃ってチェリー同盟。いちご同盟は名作なのに、なぜこの同盟はこんなに残念なのだろう。

 けど、こいつは彼女が一時的にでもできるだけ俺よりはマシだろう。だって俺の場合、そもそも彼女ができないんだから。

ほんと、何が悪いのだろう?一人暮らしで生活能力も高いはずだし、勉強も運動もそこそこのはずなんだけどなぁ……(愉悦)


「おっと、時間だ。この借りは必ず返すからな伸一!」

「え、なにこれ?」


 雅也は俺に一枚のパネルを押し付けてきた。

 そこには


『冬美大学歌唱研究部、本日新歓会!連絡はこちら→@○○○×××』


 と、書かれている。うん、まぁ、そういうことか。


「それ持って、通りかかる人に声かけていってくれ!後は頼むな!」

「ちょ、待てよ!」

 それだけ言い残し、雅也はどこかへ行ってしまった。このオチは想定できてたけど、ひどい……

 一人残された子どもライオン。

まるで千尋の谷に突き落とされたような気分だ。強くなる気配もないしただの虐待だよ。


「よ、石田、久しぶりだな」


 すると、俺に声をかけてくる一人の男子大学生。


「主将……?」

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