第2話『友人キャラなきラブコメなどない』
樋口さんを横目で見ながら、俺は雅也に言われた通り先頭車両の方へ。
まだ朝で、しかもここが割と田舎だからだろうか。
ベンチには誰も座っておらず、カバンを隣の席に置いて腰掛けられた。
腕時計を見ると、9時18分を示していた。雅也の指定した電車は次だ。
そう、俺がいつも乗っている電車はたとえ通勤ラッシュ時でも15分に一本しか来ない超ロースペック電車なのだ。
ちなみにドアはボタン開閉式。寒い時ドア付近にいたらちゃんと閉めようね。秒速5センチ◯ートルみたいにおじさんが睨んでくるよ。あれ、マジだからね。
「ふぁああ」
しかし暇だ。欠伸が出る。樋口さんは後から来た別のJKと談笑している。なんだこの寂しさは。空気読まないで会話に混じって変な空気にしてやろうか?
……やめとこう。嫌われたくない。
スマホを取り出して、真っ黒な画面に映る自分の顔を見る。うーん、相変わらず悪くはないご尊顔だ。
スペックとしては簡単に言えば平凡、もしくはそれより少し上くらいだろう(意地)。
身長は175センチ、体重は60キロと割と細身。髪は黒のショートヘアで、適当なアニメのモブキャラにいそうな感じだ。
しかし、いまだに彼女ができたことがない。告白したことはあるが百発百外。自慢じゃあないが全て振られている。あ、どうでもいいね。ごめんね。
「音楽でも聞きますか」
暇なんでとりあえずポケットに入れていたイヤホンを取り出し、装着。このイヤホンはうん万円したが、去年まではバイトをしていたのでなんとか買えたのだ。
うん、これで聴く音はやっぱり素晴らしいな。よくいるよね、イヤホンに尋常じゃないこだわりを持つ人。
「山橋麗奈、か」
ふと思い出したその名をつぶやく。ドーム公演するくらいだから、結構いい曲出していたりするのだろうか。
一度気になりだすと調べずにはいられない。ようつべで名前を打ち込み、公式PVを見つけだす。
「……へぇ」
とりあえず再生数が一番多いものから聴いてみた。うん、確かにうまい。というか、アイドルじゃなくてもこの歌だけでやっていけるんじゃないかと思うほどだ。
他の曲も聴いてみる。うん、どれもかなりの完成度。人気が出るのもわかるな。
曲調は基本的にアップテンポで、まぁある意味アイドルらしいと言えるものばかり。歌詞も秋○康が作ってそうな、アイドルらしく可愛らしいものばかりだった。
しかし、惜しいな。個人的にはバラードの方が彼女の歌声には合っていると思うのだが、一曲もないらしい。
頭空っぽなドルオタの皆様はバラードなんか望んでいない、と言われてしまえばそれまでなのだが、もう少し大人しい曲も歌っていいんじゃないのか?(ドルオタの人本当に申し訳ありませんでした)
まぁいいか。今度聴く機会があるかどうかすら微妙だし。
可愛いからなんでもいいんだ。巨乳だし……いや本当に巨乳だな。本当に俺と同年代の日本人なのか?パンパンだぞ。あれ触ったらえぐい感触がしそうだ。好きなようにこねくり回したい……(直球)
ってかさ、アイドルってやっぱほらさ、枕営業とかあ、あるのかな?やべープロデューサーになりたくなってきたぜ。
男というものはプロデューサーさんっ!って呼ばれたい生き物なのだ。くそ、バンダ○ナムコめ。ひどい刷り込みだ。俺の変態性で塗り替えてやるぜ。
「次の歌番組に出たかったら…わかるよな?(ゲス顔)」「ひ、ひどいっ!」「ほらほらここがええのんか〜?」「い、嫌なのに、感じちゃううううううう!!!!」
こんな感じで、エロ同人みたいに!
エロ同人みたいに!!!!(童貞全開)
『発車します。ご注意ください』
「うわあっ!」
いつの間にか電車が来ていたらしい。
カバンを抱え、ボタン式の扉を開けて中に滑り込む。
「はぁっ……はぁっ……」
「朝から元気だな、伸一」
「ああ、今日はギンギンだぜ……」
「うわっ、本当に元気だな。なんで勃ってんだよ!?」
電車の中には、爽やかな笑顔を携えた小顔のイケメンが立っていた。
こいつの名前はさっき紹介した通り、氷川雅也。茶髪パーマのチャラい俺の友達だ。
「なぁ、今日はなんの日か知ってるか!?」
「もちろんオリエンテーションの日だ。当たり前だろ?」
「ちっがうわ!いや、違いはしないか……いや、でも違うわ!」
「二回も言わなくていい」
「前も言っただろ?今日は我らが歌唱研究部の新歓会決行日だって」
ああ、言われてみればそんなことを言っていた記憶がないこともないけど。
「へぇ、そぉ、がんばってねぇ」
「なんだそのやる気のない返事。お前もやるんだぞ?」
「え、いやだけど」
「即答!?お前幽霊部員なんだから、こんな時くらい役に立ってくれよ。人手足りないんだって。それにどうせ暇だろ?」
「それが人にものを頼む時の態度か……」
歌唱研究会というのは、俺が入学時入るサークルもなく直帰系大学生への道を歩もうとしたのに、雅也が無理やり引きずり込んできたサークルのことだ。部員は総勢10名弱。ぶっちゃけかなり小規模だ。
ちなみに雅也が言うように俺はほとんど活動に参加したことがない。部活とか、チームとか、そう言うのはもういいと思ったのだ。
「はぁ……」
雅也はおもむろにため息をつき、窓から移り変わる外の景色を見つめた。
「まだ引きずってんのか?」
「っ……」
急に真面目なトーンになってくる。けど、その態度がどうしようもなく俺を惨めにさせていることに、彼は気づかない。
黙った俺を見て、雅也は優しげに微笑み肩を叩いてきた。
「で、どうなんだ?やっぱりダメか?」
「わかった、やるよ。やればいいんだろ」
「さっすが親友!」
「調子いいこと言いやがって」
「伸一くぅん!」
「キモいキモい離れろおい!!」
いつもと違う雅也は消え、いつもの雅也が帰って来た。
キャラ付けくらいしっかりしてくれ。お前みたいなやつは対応に困るんだよ。
と、言いつつ考えつつ、もう何年も一緒にいるんだから、人生って不思議だと思ったり思わなかったりする。
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