第1話『テンプレこそ至高なんだよね』
「あ、あわ、あわわわわわわ」
「違うんだ」
春。まだ少しだけ寒さが残らないでもない、そんな夜。
俺は、女の子のおっぱいを……揉んでいた。
***
目が覚めると、なぜか泣いている。そういうことが、ときどき……
「ねぇよ」
マブラヴは名作って、はっきりわかんだね。
目を擦っても水気なんて全くない。あまりにも快眠過ぎてダンスでも踊りたい気分だぜHAHAHA。
と、一人暮らしの俺の部屋に、寂しい謎アメリカンジョーク。
朝起こしてくれる妹なんていない。じりじりじり、と、騒がしい目覚まし時計を止め、俺こと、石田伸一はベッドから起き上がる。
1LDK、6帖という、まぁ一人暮らしには十分の家を見渡し、代わり映えのなさに何故か笑みが零れた。
小さな窓のカーテンを開けると陽の光が一気に差し込み、今日がとてもいい天気だとわかる。
窓から見える大きな桜の木も、不思議と嬉しそうに見えた。
気持ちのいい朝だ。
朝食の用意をしようとキッチンに向かう。すると、充電器に挿しっぱなしだった携帯がピロリン、と、何とも軽薄な音を立てた。
「雅也か」
相手の名前は氷川雅也。一応俺の幼馴染……ま、腐れ縁だけど。
「9時31分の電車、先頭車両集合。遅刻は許さねぇぞ……か。別に、俺は遅刻したことないだろ」
ちなみに小学校、中学校、高校、そして大学まで一緒……なんか、ここまで来たらあらぬ疑いをかけられそうだが大丈夫、俺はノンケだ。
でもまぁ雅也は家も近いし、去年もほぼ毎日一緒に大学まで行っていた。俺たちを見る女の子の目がちょっとキラキラしていたのは気のせいだと信じたい。いや、だからほんとそういうんじゃないから勘違いしないでよねっ。
「でも、もう大学かぁ……」
長い長い、ってかこんなに長くてもやることねぇよ、と思っていた春休みは意外とあっさり終わってしまい、仕方なく俺は新学期オリエンテーションとやらに出るため、大学へ強制送還させられるのだ。
あれだけ毎日のように暇暇連呼しておきながら、終わるとこんなに絶望感が湧き上がるのはなぜだろう。これ、夏休みもそうだったな。
インスタントコーヒーと、トースターに入れておいたパンの香ばしい匂いが部屋に広がる。
時計はまだ、8時40分を指していた。なら、そんなに急がなくてもいいだろう。
俺はゆっくりとパンをかじりつつ、テレビをつけた。
『
『楽しみですねぇ……個人としては初のドーム公演、どんなお気持ちで挑まれますか?』
『ここまでこれたのは今まで応援してくれたファンの皆様のおかげだと思いますので、そのご恩にしっかりと応えられるよう、全力で歌いたいと思います!』
『立派なコメントありがとうございます!では、最後に挨拶してくれるかな?』
『は、はーい!じゃあいっきまっすよ〜?』
『おお!』
『みんなー!今日も頑張ってねー!♡』
『ぐっはー!!』
『こりゃ全国のサラリーマンみんな1日頑張れちゃうわ!』
『それでは次のコーナーです。今朝、動物園でパンダの赤ちゃんが……』
意味わからん。ってかうまく隠そうとしてたけど明らかに嫌そうな顔してたな。めちゃくちゃ可愛いけど、アイドルって大変だ。
まぁ、顔面だけで大金稼げるんだから、多少嫌なことやらされてもいいってもんだろ(ハナホジ)。
俺は大して興味ないけど、雅也は確か高二くらいの時にどハマりしてたなぁ。その中に一人に山橋麗奈なんて子もいた気がするけど、ドーム公演とは結構有名になったらしいな。
俺は使い終えた食器をシンクに置き、時計を見る。約束の時間にはまだ早いけど、もう出発してしまおうか。たまにはゆっくり歩くのもいいだろう。
思い立ったら行動。その他諸々の支度をして、すぐに外に出た。
***
「あ、おはようございます」
「おはよう。あれ、今日早くない?」
「ああ、ちょっと昨日からその……重い日で……」
「ぶっ!!」
「うわ、汚いなぁ……」
このJK、朝っぱらから男子大学生に下ネタぱなしてくるんですけど!?流行りなのか?今のJKはそれが流行りなのか!?くそ、羨ましいぜ俺も女子に下ネタ言われる高校生活を送りたかった!(錯乱)
「ひ、樋口さん?女の子がね、男の子にそんなこと言っちゃダメだよ?」
「何ですか朝っぱらから説教ですか?別に男も女も関係ないと思いますけど」
「男の子に男の子の日はないよ!?」
全く最近の女子高生、進みすぎィ!
「ん?重い日って……あ!!」
樋口さんは何かに気づいたようで、顔を赤らめるとこちらを睨みつけてきた。
「変態!違いますよ!仕事です!仕事の作業量が重いんです!」
「え?あ、そういう?」
言い方ってあるだろ……これで怒られるの理不尽じゃないか?
まぁでもこのあふれんばかりの処○感……もとい、純粋無垢な清楚さこそ、現代の大和撫子に求められる資質だと僕は常々思っておりましてね。ええ、はい。
「なにニヤニヤしてるんですか?気持ち悪い……」
「に、ニヤニヤしてねぇし!意味わかんねぇし!は!?」
「なんでキレるんですか……」
この、俺のことを白い目で見ながら、ちょっと引き気味に後ろを歩く大和撫子の鏡(皮肉)のような少女は樋口美香。
住所はほぼ俺とおんなじで、違うのは最後の番号が俺の場合202で、彼女は302というくらい。つまり、同じアパートの真上の階に住んでいるということだ。
「美香ちゃんも今日から高校三年生だっけ?」
「そうですね。来年から先輩と同じ大学です!」
「推薦、取れそうなんだ」
「余裕です!」
笑顔でVサインをしてみせる彼女。
みずみずしさしか感じない17歳。正真正銘の現役女子高生。学年は、明日から三年生。
肩甲骨のあたりまで伸ばしたまっすぐな黒髪を、右側にシュシュで纏め、流している。
あと、可愛い。(重要)
とにかく、顔はものすごく可愛い。そこらへんのアイドルなんか目じゃないくらい。いや、生でアイドルなんか見た事ないけど可愛いってことだけは確かだ。可愛い。(納得)
そうそう忘れてた。顔以外にも可愛らしいところがもう一つ。
「どこ見てるんですか先輩」
「(見て)ないです」
「ああっ!ないって言った!気にしてたからめちゃくちゃショックな上に犯罪級にセクハラです!!」
「いや、別に誰もおっぱいのことだなんて言ってないだろ?」
「今言ったじゃんか!!」
胸が無……可愛らしいサイズなんだな、これが。
アイドル繋ぎでいうと千○サイズ。あーるーこおー!(無印20話は神なんだって)
「あ、なきそなきそ」
「なんで!?」
「うんうん、可愛いからそれでいいんだよ」
「なに納得してるんですかか可愛いって言えば赤面してあなたのことを好きになるとでも思ってるんですかリアル女をなめないでくださいラノベヒロインじゃないんですからそんな簡単に落ちないので出直してくださいいくら私が可愛いからって」
なんとも自意識過剰な少女であり、処女である。
「え、まさかこの作品、意味もなく無条件に俺のことを好きになってくれる便利チョロイン枠いないの?はー、クソラノベ乙〜」
「そういうキャラの背景も深掘りしないあったまわるい作品が量産されるからラノベ業界は斜陽産業になっていくんですよねぇ」
「はぁーくそくそくそ。もう俺主人公やーめた!」
「じゃあ私が主人公やりますね。先輩が主人公だとひどい結末が待ってそうです。プロローグみたいに誰かが泣きを見るんですよ」
「やめて!メタを最初に使ったの俺だけどもうやめて!」
なんでこんな会話をしなきゃいけないんだ。俺の望みは単に部活作って美少女入れ込んで全員俺のことが好きな世界でハーレムを作り出すだけだったのに(強欲)。
まぁそもそもこうして朝っぱらから美少女JKと一緒に駅まで歩いていること自体リアルじゃありえねぇよっていうツッコミは聞かない。聞かない(強い意志)。
では、そもそもなぜこんな俺みたいな脳内会話大好き陰気なクソ大学生(わら)と、キラキラの女子高生が仲良くなったのか説明したい。
それは去年の秋の事だった…………(感慨)
***
大学生になってから半年以上経ち、授業をサボることを覚えてしまった俺が、真昼間だというのに我が家へたどり着いた時だった。
階段を上がり二階へ行こうとすると、俺のいた高校とおなじ制服を着た少女が、大きなダンボールを両手にフラフラと目の前を歩いていたのだ。
危なっかしかった。何が一番危なっかしかったって、目の前でひらひらと揺れるスカートの中に見えるピンクの布が俺のパトスを……
「ねぇ、持とうか?」
「ひぃっ……ひぃっ……ふぅっ!!」
「それ出産のやつじゃない?」
「うるさいなぁどうだっていいでしょ……ってあれ、石田先輩?」
「ん、先輩?ああ、まぁ確かに先輩だな。俺のこと知ってるのか?」
「あ、えっといえ、なんていうか……」
「とにかく持つよ。重いだろ?」
「そんな、申し訳ないです!」
「いいんだよ、素直に甘えとけって(キリ)」
「あ、ありがとうございます……」
***
そんな感じで、俺のアパートの、ちょうど上の階に引っ越してきた子を助けてあげた。
それが、樋口美香と俺が、最初に会話した瞬間だった。ここ、多分伏線な。
けどその後付き合ったり突き合ったり(願望)することもなく、ただ普通のご近所さんとして、たまに料理を分けてくれたり醤油を分けてもらったりした。あれ、俺何も還元してない……。
彼女のいう通り、あるラノベみたいに落ちなかったし、そこからとてつもなく仲が良くなったりしたわけではない。
ただ、こんな風に会えば一緒に駅まで歩くくらいには仲良くなれた。ありがたいことだ。
「今思い返せば、俺の大学生時代、最高の煌めきなのかもしれない」
「その気持ち悪いニヤケはやめてください。もう駅ですよ?」
「お、おう……」
それにしてもこの女子高生、毒舌である。
「それじゃあ、また」
「ああ。気をつけて」
改札を抜けホームに立つと、樋口さんは俺から離れて後部車両の方に行ってしまった。
いつものことだ。こんな大学生と一緒に電車に乗っているところなんか友達に見られたら恥ずかしいよね。……あれ、自分で言っててちょっと傷ついたぞ。
とまぁ、新学期の朝は、なんかこんな感じでいい感じに微妙に始まったのだった。
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