もしも世界にダンジョンが出現したら

宮川 千

第1話

書きたくなったので、ダンジョンの話書きました。1万字超えてるけど、一先ずこれで終わりです。


ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー


大げさなファンファーレが鳴り響く中、番組の司会者が話し出す。


「皆さん、当番組はいよいよ20周年記念を今夜むかえました。思えば32年前、突如全世界にダンジョンと言うまるでゲームの様な不可思議な出来事が発生した事を忘れていないと思います。

訳もわからず沢山の方々が犠牲になった悪夢の出来事でもありました。

ですが、ダンジョンとは最悪な出来事だけではなく、人類に沢山の恩恵を与えてくれる物でもあります。ダンジョンがどの様な物であり、国民の皆様当番組が、どのように始まったかはお分かりかと思います。今夜、都内にある東京ダンジョンを生中継してお伝えするとともに、過去を振り返りつつ、冒険者の方々がどのように活動しているかお伝えしたいと思います」


生中継に切り替わり、東京ダンジョンと呼ばれている。元代々木公園跡地にポッカリと空いた大穴が映し出される。

東京ダンジョンの上空に、ドローンを飛ばして撮影しているようだ。

夜にも関わらず、公園跡地には煌々と明かりが灯っている。


撮影クルーだけでなく、警備をする警察官と自衛官に、ダンジョンを出入りする冒険者の姿が見える。


ダンジョンが全世界に発生してから、もう32年の年月が過ぎていた。

あの日突如起きた世界規模の大地震は、謎の大穴の発生から始まった。


公式で確認されただけで全世界に、ダンジョンは148カ所も発見された。

日本には34カ所、北と南のアメリカ大陸で46カ所、ユーラシア大陸は23カ所、アフリカ大陸18カ所、オーストラリア大陸で27カ所、南極大陸のみ発見されていない。

分厚い氷の下に発生したとしても、大穴の発生が確認出来ていない為か、南極大陸のみダンジョンの存在は不明だった。


「人が潜らないダンジョンが、どれだけ危険か幼稚園児でさえ現在は知っています。ですが、当時は誰も知らなかった。大穴を塞いでも、内部から発生したモンスターによる破壊、塞いだことによるダンジョンからのモンスターの流出。それを解明したのは、当時の無謀な若者達の行動でした」


司会が、当時どれだけの若者が犠牲になり、ダンジョンからの流出したモンスターによる犠牲者の数を伝える。

当時から比べると、人口は半分以下まで下がっているが、僅かずつ回復しているとも伝える。


テレビで伝えてくるダンジョン発生からの歴史は、人類を間引く為とも一部の宗教家が言い出したりと、発生当時の混乱を伝えつつ番組は東京ダンジョンの内部を映す。


どこのダンジョンもそうなのだが、ダンジョンの1階層はセーフティゾーンらしく、モンスターは発生しない。

不用意にダンジョンを塞ぎさえしなければ、1階層だけならモンスターは出てこない。

そのせいだろうか、ダンジョンの1階層は一般に解放され見学者も多い。


番組のカメラが、2階層に入ると番組と契約しているらしい冒険者が、モンスターのホーンラビットとレッドラビットを相手にしている。

外見は、どちらもウサギなのだが角の生えたウサギと毛皮が赤黒いとこから赤ウサギとも言われ、2階層に沢山居るウサギで角あるウサギが攻撃し、倒した獲物の血を吸う血吸いウサギだ。


肉は生臭く食べれず、毛皮も利用出来る質でないせいか、魔石と角くらいしか価値がない。

カメラに見せつけるように、冒険者が剣で斬りつけると角ウサギと赤ウサギは倒される。

胸から魔石だけ取り出すと、放置するだけだ。ダンジョン内は、死体を放置すると時間経過で消えてしまう。


東京ダンジョンは、2階層は角ウサギと赤ウサギだけだが3階層に降りるとゴブリンが増える。

下に降りる毎に、ダンジョンのモンスターは種類を増やす。


「これが、角ウサギと赤ウサギから取れた魔石ですね」


冒険者から借りて、手の平にのせてカメラに近づける。

この魔石の大きさは2センチほどと小さいが、買取に出すと1個だいたい300円で買取してくれる。

モンスターの体内には、必ず魔石と呼ばれる石が心臓にある位置にあり、それを冒険者ギルドの取引所に持ち込み売買が行われていると現場リポーターが伝えている。


次に番組はダンジョンから切り替わり、取引所の中を映し出していた。

壁にかかったモニターには、東京ダンジョンで手に入る物の一覧が表示され、買取価格は毎日変わる。


リポーターが1番端にある受付に向かい、この取引所の広告塔と言われる年齢不詳の受付嬢を紹介している。

宗方菫(ムナカタ スミレ)と呼ばれるその女性は、元高位ランクの冒険者で、今はこの取引所で働いている。

度々この番組に出るようになってから、アイドル並の人気を誇っていた。


本人はアイドルになるつもりはなく、この手の番組限定に冒険者の一助になればと冒険者向け番組のみ出演し、ダンジョンに関わる仕事の広告塔になっていた。


「宗方さーん。本日もお綺麗ですね。どうしたらそんなにお若いんでしょうか?」


スタジオから司会が、当たり前の様に聞いてくる。


「こんばんは。知っているかと思いますが、ダンジョンに長くいるほど、若返るからです」


ダンジョン発生から数年後に、都市伝説のように言われ、この番組で検証するまで誰もがただの噂と思っていた。


「ダンジョン内の魔素が原因ではないかと、そう言われてますが、現在の人類では原因の解明が出来ません。ただ長くダンジョンに入る者ほど肉体が活性化するのか、本人が最も活動しやすい年齢まで若返るようですね」


この番組の放送が始まった頃から、宗方菫の外見がまったく変化していない。

むしろ若返っている。

このことからも、若く綺麗でいたいと願う女性にもダンジョンは人気でもあった。


「女性に、こう言うのは失礼なのですが、宗方さんの許可を事前に取っておりますので言いますが、宗方さんの現在の年齢がなんと68歳!」


孫がいるお婆ちゃんなのだが、20代前半の女性にしか見えない。

ダンジョン発生時に30代後半だったが、その頃よりも若返ったと言う。


番組では、ダンジョンに入る副次作用の若返りから番組独自に検証と研究を行った結果の発表をしながらも、見ている者を飽きさせない内容構成にしている。

3時間特集と言う枠で、基本的なことから実際に起きた事をドキメンタリーのドラマ仕立てでいるせいか、この番組の人気が高いのだ。


「現在ダンジョンでは、3階層に降りてゴブリンを相手にしてるようですが、中継は後回しにしましてある方を、本日特別ゲストとしてお呼び致しております」


この番組内の特集に、

『冒険者のスキルや魔法を検証しょう』と言う、ダンジョンに向かう冒険者が手にしたスキルや魔法がどの様なもので、一般の方に分かりやすく理解してもらう特集で、毎回かなりの好評を現在も受けている。

その特集の中で、あるスキルを使用したことで一躍脚光を浴びてしまう出来事がおきた。


司会者が合図をすると、スポットライトが客席に当たり、最前列に座っていた6人の若者達を照らす。


「宗方さんの旦那さんのチーム『三日月』でーす。平均年齢70代の筈ですが、どうみても20代の若者にしか見えません!」


彼らが紹介されると、スタジオ内にどよめきが起こる。

何故彼らが、こうも騒がれるかは19年前に番組の特集で、スキルの検証で訪れた刑務所での出来事が関係している。

殺人をした犯罪者を、スキルで検証すると言った人権無視だとも、一部で騒がれたが殺人者の経歴のある青年をスキルを使い事件の現場を見た事で、当時の番組の生中継で全国に冤罪だと暴露してしまったからだ。


そうなると、真実の確認の為あらゆる者が捜査に協力した。

後に胸糞悪い事実に、青年を捕まえた刑事が犯罪を犯した者の身内から大金を貰い、事件の隠蔽に当時の捕まっていた青年のアリバイ偽造と、次々と悪事が発覚した。

罪を犯しのうのうと生きていた男の方は、別件でも殺人を犯しており、金で全てを隠蔽させていた事実が分かり、現在も刑務所で服役している。


その出来事から、チーム『三日月』は日本だけでなく世界でも有名になってしまっていた。

冤罪だと暴いたスキル名は神眼と言い、全世界でも数名しか発見されていない特殊なスキルだった。

下位スキルには、鑑定眼と言うアイテムのみ鑑定出来るスキルで、こちらは100人に1人の割合でいる。


過去の事件解決を、これまたドラマ仕立てで放送し、当時の三日月のメンバーを苦笑させていたが彼らがスタジオに居るのは、神眼で事件の検証して欲しいと、ある海外で起きた未解決事件で現地まで行き解決した結果を放送するからだった。


19年前の冤罪の解決から、彼らの元に全世界から未解決になっている事件を解決して欲しいと、番組に依頼が殺到した。


彼らが求めたのは、行く先付近にあるダンジョンに入る許可だった。

公式で全世界のダンジョンに、現在もっとも多く入っているチームと言えば三日月と言われるほど全世界に拠点を持ち、数多のセレブなスポンサーを獲得しているとも言われている。


チーム創立のメンバーが、たった6人しか居なかった当時から見れば、現在1つの拠点毎に抱える冒険者から裏方スタッフまで入れると数千人とも言われている。


スタジオでの紹介後、流れる映像をよそに怠そうなそぶりを見せているのは、創立からいるメンバーの1人である岩城英徳(イワシロ ヒデノリ)だった。

ダンジョン発生時は、30代後半の普通のサラリーマンをしていたのだが、勤めていた会社はダンジョンから流出したモンスターにより崩壊し、無職になった。

新しく仕事を探すにも、ダンジョンのせいで見つからず、仕方なく冒険者を始めた経歴の持ち主だった。


「怠そうだが、大丈夫なのか?」


声をかけたのは、宗方隆で冒険者ギルドの受付嬢菫の旦那でもあり、チーム三日月のリーダーだ。


「いつもの、スキルの過剰使用によるMP枯渇気味が原因で怠いだけだ」


ダンジョンの発生から、自分のステータスと言う物が確認されHPとMPの増減により、体調の変化が今では重要になっていた。

HPが0になると死ぬが、MPが0からマイナスになろうが死ぬ事はない。


魔力ポーションと言う、ダンジョンの宝箱から発見された魔力回復アイテムを飲めば直ぐ回復するのだが、極力飲みたくないのだ。

味が余りにも不味い。

そして飲み過ぎによる副作用もあってか、出来るだけ飲みたくない。


そう神眼スキルを持つ英徳は、普段からスキル使用の多さで常に魔力不足状態になっていた。

全世界から来て欲しいと、数多の依頼は来るのだが魔力不足を理由に断ることも多く、傲慢だと初見で誤解されやすい。


番組のプロデューサーにも、英徳の体質や魔力ポーションを飲んだ後の副作用を伝えているお陰か生中継で神眼スキルを使ってくれと、言われることはなかった。


「英徳、これ舐めとけ」


魔力ポーションの代わりと、渡されたのはダンジョンの魔力回復草を使い飴にした物だ。魔力ポーションと違って副作用なく使えるお陰か、怠さがかなりおさまった。


「助かる」


この飴の開発は、副作用なく摂取出来る魔力回復はないものかと、飴を渡して来た世良祐志(セラ ユウジ)が開発した物で、魔力ポーションが使えない時の保険として持つ冒険者も多い。


ダンジョンの恩恵はあるが、ダンジョン産のポーションや薬の摂取は、過剰になるほど副作用が起きることは、現在では知られている。


スタジオの画面では、未解決事件がどのように起こり、チーム三日月が解決して行くかを流している。

未解決事件が風化していようとも、神眼スキルの前では時間を巻き戻すように、過去その場に居た者が現れては消えて行く映像が流れているのだが、これらは作り物の映像ではない。

実際起きた出来事を、巻き戻し見せているのだ。


事件当日と思われる映像が、流れ出す。

学校帰りの少女が後ろから走って来る普通車に轢かれ車から出て来た男が確認しているが、動かなくなった少女を車に乗せ走り去っていく。

後に残ったのは、忘れられた少女のカバンと脱げた片方の靴だった。


画面では、その映像を見ていた両親が気絶し、その場にいるスタッフに介抱されている。

事件が解決するならと、撮影の了解はしたものの行方不明になった当時の娘の姿を見て驚愕で気を失ってしまったようだ。


何度、こう見ても何も出来ないのが歯がゆいと考えてしまう。

自分のスキルで、過去を見せる事は出来るが起きてしまった事をなくす事は出来ない。

ただ見える映像から、被害者を見つけ出すだけだ。


場が切り替わり、画面に警察と協力してくれる現地の冒険者が映し出されている。

神眼スキルから分かった男は、事件現場から5キロほど離れた牧場主だった。


証拠の当時の車は、既に処分がされている。

だが、牧場でまた神眼スキルを使用する事で、処分した筈の車の映像と、動かなくなった少女を車から運び出し納屋に運び込む姿が映る。


言いがかりだと、警察にくってかかる男は過去自分が仕出かした事件をみて驚愕し震えだし、その場に蹲り、俺は悪くない!とブツブツと呟き警官が声をかけようが、反応しなくなっている。


少女を運び込んだ、当時の納屋は取り壊し今は材木置き場になっている。

その場所に、怪力スキルを使える現地の冒険者が、楽々と材木を移動させていた。


重機を使わず軽々運ぶその姿は、見ている者を驚愕させていた。


再び神眼スキルの発動により、床に置かれた少女の横に、大穴を掘り出し埋めていく映像を映し出す。

現地の地魔法を使える冒険者が、少女を埋めたとされる場所を魔法で掘り起こしている。


画面に、白い骨が映し出され即警察の介入の映像と、行方不明の少女発見のテロップが流されている。


学校帰りに行方不明になった少女は、やっと家に帰れたが無言の帰宅になってしまった。


画面では、現地警察が神眼スキルの凄さをインタビューに応じて話しているが、神眼スキルを使用した英徳が用意された車の後ろ座席で横になっている姿も映し出されていた。


神眼スキルは、確かに凄いスキルだが長く使いすぎると体調を崩す事、有益なスキルであっても使う者の健康を害することもあり、気軽に使えるスキルではない為、頻繁に使いすぎると倒れることも説明している。


事件を解決して欲しい。

そう願う被害者家族の気持ちも分かるが、使う側の状態を理解して欲しい事を告げ解決して欲しい事件の募集テロップが流れ画面は、生中継のダンジョンを映し出す。


「大変残念な結果となってしまいましたが、チーム三日月は、可能な限り事件解決の協力を惜しまないそうです。ただ、映像を見てお気付きかと思いますが気軽に使えるスキルではありません。その辺も考慮して欲しいとの事です。次は生中継のダンジョンに戻りたいと思います」


現地にいるリポーターに、声を掛けるとマイクを持ったリポーターが現れる。


ダンジョンを進んでいる冒険者が、倒したモンスターから宝箱をドロップした事をリポーターが告げる。


ダンジョン内で見つかる宝箱には、大まかに2種類あって設置型とモンスターを倒してドロップする物があると説明するリポーターは、ドロップした宝箱をその場で開けて中に何があるかと話している。


倒したモンスターはゴブリンで、低い階層で手に入れた宝箱には罠がない。

素人が開けても大丈夫だと、冒険者がリポーターに開けても良いと告げている。


カメラが手の平に乗る、小さな宝箱に接近する。

リポーターが、モンスターからドロップする宝箱はモンスターの種類に寄ってドロップ率が違うと話しており、開けられ宝箱には小瓶が入っていた。


鑑定眼スキル持ちが、冒険者の中に居たので鑑定した結果は初級ポーションだった。

ゴブリンの宝箱では、アタリらしい。

取引所の今日の買取価格では、1本3780円となっている。


取引所の買取価格は、

初級ポーションが3000円〜5000円

中級ポーションが40000円〜90000円

上級ポーションが時価


初級魔力ポーションが30万円〜

中級魔力ポーションが50万円〜

上級魔力ポーションが時価


初級万能薬が50万円〜

中級万能薬が100万円〜

上級万能薬が時価


普通のポーションより魔力ポーションと万能薬の方が、買取価格が高い。

そして、取引所で売るよりも時間はかかるが、オークションを利用するとこれ以上の価格になる。


生中継ダンジョンでは、またゴブリンと遭遇したようで邪魔にならない位置からカメラ撮影をしている。


「そういえばポーションですが、ここでどう言った時に副作用が起こるのか説明したいと思います」


スタジオの司会者が、冒険者だけでなく一般で使う事もあるかもしれないと、そう思っている者全てに覚えて損はないと話しながら説明する。

スタジオの画面の隅にダンジョン内を映しつつ、過去映像でポーションを使用した時にどうなるか、ややグロイ箇所にモザイクがされたが、傷口にかけると、そこから傷が消え綺麗に治る映像が画面に流れる。


「ポーションは、飲んで良し、傷にかけて良しとされてますが、飲む場合は頻繁に飲んではいけません」


画面に流れたのは、海外の繁華街で起きた不良グループによる抗争の映像で、ネットから拡散したポーションを過剰に摂取した若者が、重症の後遺症を発症し下半身麻痺を起こす映像だった。


肉体に起こる、麻痺、毒と言った状態は万能薬を飲むことで完治するのだが、ダンジョン産の薬やポーションの過剰摂取で起こった副作用では治らないとこの映像をキッカケに全世界に知られるようになった。


動画に登場した若者は、現在も車椅子で生活している。

ただポーションによる副作用解明の為と、ある研究機関と契約して薬の被験者になっている。


ポーションと薬の過剰摂取による副作用は、種類毎に違うと研究が進んでいる。

初級とつく物なら、摂取後2時間を過ぎないと次を使用してはいけない。

中級で半日、上級になると3日は間を挟まないと副作用が起こる。


起こる副作用は、個人ごとに違う。

一般的な副作用は、倦怠感、腹痛、頭痛、吐き気、めまいと軽い症状から、痛みを伴うものと多岐に渡り統一性がまったくないのだ。


32年前と比べると、副作用の症状は軽くなったと言う者がいることから、人類が未知の薬とポーションの耐性がつくようになってきているのでは?そう言う者も居たが、本当なのかまだ分からない。


ダンジョン発生から、まだたったの32年しか過ぎていないからだ。


司会者の説明を聞きながら、ゴブリンと戦っていた冒険者の1人が、怪我を負うが仲間の1人が治癒魔法を使用したようだ。


「今、ダンジョンで治癒魔法が行われましたね。忘れてはいけません。当たり前のことですが、ポーションを使用するより治癒魔法で治す方が確実です」


治癒魔法は、3人に1人が持っている魔法のせいか、今ではダンジョンに入るチームに最低で1人からチーム全員所持しているのは珍しくもなかった。

ただ、MP配分を上手くやらないと攻撃で使う分と直ぐにMPが減っていく。

MP0でも死ぬことはないが、倦怠感が凄まじく用心深い者は半分になった辺りでダンジョンから戻るようしている。

ダンジョンの未知の宝欲しさに向かうだけでは、命がいくつあっても足りない。

ダンジョン内での死亡率、行方不明になる者はそれだけ多い。


司会者が、冒険者御用達の病院を紹介している。

東京ダンジョンの場合、取引所の隣にあるのだが、一般人も使えるが優先順位が冒険者になるその病院は、日本ならダンジョンがある場所付近に必ずあると誰もが知っている。


録画なのか、病院の医師の指示で治癒魔法を使うスタッフの姿があった。

治癒魔法を使える者に限り、現在の日本では医療行為を認めている。

専用の許可証があり、患者やその家族にそれを提示してから治癒魔法を行う。


今の医療で、治癒魔法で治せないとされるのは、ダンジョンの薬とポーションが原因な事と、人の内部に出来る腫瘍と言った身体を切って開けないと確認が出来ない物に、小さ過ぎて目に見えない物になる。


腫瘍だと、手術中に医師が切除して治療魔法を使える者が指示されながら治療を行うと、治せる事も分かってきた。

それどころか、最近は医師自体が治癒魔法を使えるようになっている。


目に見えない小さな物は、ウイルスなどだが、こちらは製薬メーカーが頑張っているようだ。

薬で治す事は、まだまだ多い。


当初、製薬メーカーは大打撃を受けると思われていたが、行動力があるメーカーほどダンジョン内での採取品から、ハゲを治す薬を開発したことで、有名にもなった。


いくらダンジョンに入るほど、若返ると言われても冒険者でない一般人では若返る速度が遅い。

部分的にハッキリと分かるハゲ治しの薬は、摂取さえしていれば効果が必ずあった。


さりげなく、番組にその製薬メーカーの製品を映しているのはスポンサーだからだろう。


ダンジョンが出来て、あらゆる治療に有効な事が出来る可能性は、まだまだあると締めくくる司会者だった。


「さて、今回チーム三日月に来て頂いたのは、謎が多く何をしているか分からないと、そう言った皆様の疑問に答える為です。最初の彼らは、普通の冒険者のチームでした。ダンジョンで手にした特殊なスキルや、魔法を使う者だけにしか過ぎません」


日本での彼らの広告塔とする、やや広大な山奥にある施設を画面に映す。その施設の隣でも、やはりダンジョンの大穴があるのだろう。巨大な壁が見えた。


「ここは長野県にある施設ですが、アッ!本当ですか!失礼しました。なんとここは、東京から転移ポータル使えばすぐ誰もが行けるそうです」


スタジオの観客が、大声で驚いている。

ダンジョンの発生から32年。

転移出来るような物は、ダンジョンの階層と罠以外で、今まで発見されていなかった。

事実なら世紀の大発見である。


「何故、今になって発表をしたのか?ですが日本国内全てのダンジョンの近くに、この転移ポータルの設置完了したからのようです」


スタジオ画面に、転移ポータルと言われる巨大な2つの魔道具を映す。

どう見ても、ただの門が普通に2つ並んでいるようにしか見えない。


「転移ポータル自体は、既に12年ほど前に開発したそうですが、使う素材を国内ダンジョンから集めるのに12年の歳月がかかったようですね。発表しなかったのは、自分のMPを片道だけで500も使用する為、12年前だと使える者は一部の冒険者しかいない為、時期を見て発表としたそうです」


現在の冒険者の、平均MPは1500超えだ。

ダンジョン発生時は、100〜300が平均だった。


画面に転移ポータルの、使い方の説明映像が流れ出す。アニメにして、案内役を可愛らしい妖精が説明していた。


「アレ、必要かよ?」


チーム三日月の1人、筧 俊二(カケイ シュンジ)がボヤく。


「可愛らしいキャラで、良いじゃないですかね?」


どこに問題が?と、オタク気質な嘉内 誠(カナイ マコト)が返事を返す。


転移ポータル仕様に、自分のMPだけでなく代わりに魔石のMPも使えると、説明があった事で取引所の魔石買取が高騰しだしたと、画面隅にあったダンジョン内映像が、取引所の映像に変わる。


最弱の魔石が今まで300円くらいだったのが、一気に5000円に値上がりした。

最弱の魔石にあるMPは、大体10前後だ。

買取が安かった魔石が、どれもが値上がりし出し、500MPが必ずある魔石は時価表示になっている。


画面では、魔石をどのように使うかの説明にきりかわり、必要MPになるまで魔石を投入すると移動出来るようにするシステムのようだ。

使われて無色になった空魔石は、サイズ別に安く売り買い取った者が魔力を込めていけばまた使用可能と伝えている。

ダンジョンに入らない期間に、自分のMPを込めておけば転移ポータル使用時に自分のMPが減ることなく案内役の妖精が伝えている。


「普段からチーム三日月の関係者は、使用してるとのことですが、今夜からマスコミ関係者を御招待するとの事で、日本と世界各国の主要なマスコミの方がこれから転移ポータル使用して貰い、施設の説明会をするそうです」


1社につき2名との事だった。


別室に居たマスコミ関係者が、2人ずつ列になって並んでいる。第一陣の枠を手に入れたマスコミ関係者の誰もが嬉しそうに笑っている。

取引所に居た宗方菫が、番組レポーターを連れて姿を見せる。


「さて、ここから俺が説明した方が、司会者も楽だろう。ジンとでも呼んでくれ」


スタジオの座席から立ち上がったのは、チーム三日月の転移ポータル開発の指揮を取った陣内 重(ジンナイ シゲ)で、スタジオに居る観客から知りたいことの質問を受けると、伝える。


「打ち合わせと違うんですが、良いんですか!」


司会者が、番組プロデューサーを巻き込んでいる。


「失礼しました。了解取れたので陣内さんに、質問ある方挙手お願いします」


女性が挙手し、司会者が指名する。


「あの転移ポータルは、便利だとおもうのですが、盗まれたらどうするんですか?」


「君は?」


「永井です」


「わかった。永井さんの質問に答えよう。転移ポータルは、日本内のダンジョン近くに必ずあるが、盗もうとしようが無理だ。詳しいことはマスコミが後日知らせるが、日本にある転移ポータルを、他国に持ち運ぶ前に壊れる」


復元しても、機能することはない。


別の観客が挙手する。


「山口と言います。軍事利用される可能性が高いと思うんですが、どう考えてますか?」


「この転移ポータルは、まずダンジョンの側でしか使えない。もし他国が、戦争目的とした兵の移動に使うとしても、日本国内なら問題はないと考えているが、これを作った理由はダンジョンからのモンスター流出時の現地の一般人の避難の為と、対処出来る自衛官や冒険者の移動迅速とするのが目的だ」


どんな物でも、使う者次第では良くも悪くもなる。


「転移ポータルだが、作りたいと言う国があるなら協力はしても良いと考えては居るが、ダンジョンの側でしか機能しないし、作りたいなら作りたいダンジョンの165階層より下にいるドラゴン系の魔物の魔石を最低2つ用意しないと作れない。そこまで協力する理由は、こちらにないので、軍事利用はそう簡単に行かないだろうと考えている」


こう発表できる体制に持って行くのに、12年もかかったのだ。

東京ダンジョンの公式攻略が、54階層なのに対しチーム三日月は、165階層より下を攻略していると話している。


「165階層!ダンジョンはどれだけあるんですか?」


司会者が、ありえないと叫んでいる。


「現実的に、分からない。ダンジョンは塞がない事、適度に人が中に入りモンスターを倒すことを繰り返していればモンスター流出の危険は低いと考えてはいるが、ダンジョン発生時から成長し、階層を増やしているのでは?そう内の研究班が話しているが、分からないとしか言えない」


何故、ダンジョンが発生したかは地球人類には誰も分からない。


スタジオの画面では、宗方菫が見本を見せるように、魔石を筒に通し空いた扉の先に消えて行った。

後に続くリポーターも、同じ動作をおそるおそるやって消えて行く。

そうして、招待するマスコミも全員消えて行く姿を映し出す。


画面がまた切り替わり、チーム三日月の長野県にある施設が映る。

現地にいたリポーターが、転移ポータルから出て来る者に歓声をあげている。


「ありえません!さっきまで居た場所と空気が全く違います」


外は暗く分かりにくいが、ダンジョンを囲う巨大な壁が見え、都内の夜空とこの長野県の夜空がまったく違うと話す。


「夜の空って、こんなに暗かったんですね」


都内の、今夜の天気は曇りだった。

街灯やビルの灯りが多い都内は、夜でも雲に反射してかなり明るい。


「無事着いたようです。凄いですが、残念な事にそろそろ番組は終わりです。物凄く、残念ですが、三日月の皆さん次回も放送して構わないですか?大丈夫ですよね?」


司会者が、テンション高く聞いている。


「OK出ました。皆さん次回も楽しみにして下さいね〜」


かなり中途半端な終わらせ方になってしまったが、次回に続くのテロップが流れ番組は終了した。




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