おパンツとフクロウと世界平和

秋田健次郎

世界平和への道

「この中におパンツを盗んだものがいる! 」


まさに体育会系という風貌の男の声でその日の朝礼が始まった。


「ちょっと……先生そんなに大きな声で」


隣に少し俯き加減で立っているのはクラスで1番かわいい田中さんだ。


「今ならまだ間に合う、心当たりのあるものは名乗り出てくれ! 」


私は周りを見渡し誰も名乗りをあげる様子がないのを確認するとなぜこのようなことになったのかを考えた。


そもそも、今私がいる場は勉強合宿の朝礼であり、しかも参加は任意であるため基本的には真面目な人が多い。


合理的な判断から考えてもとてもおパンツを盗んで人生を棒にふるような人たちではない。


そもそも、おパンツにそこまでの魅力があるのだろうか。


「誰も名乗らないなら私の推理で犯人を特定してやろう! 」


私がくだらない考察をしていると先生はもっとくだらないことを言い始めた。


「俺が犯人を特定した最大の決め手はこれだ! 」


先生はそう言いながら木彫りのフクロウを取り出した。


「今日の朝、ロビーにあったこのフクロウが棚から落ちていた。これがどういうことか分かるか? 」


私たち全員が先生に冷たい視線を送っていた。


「いいか! フクロウはな英語でオーダブリュエル、オウルと言うんだ! 」


「先生、発音はアウルの方が適切です。」


学年で一番成績のいい下田がすかさずツッコミを入れた。


「この際発音なんてどうでもいいんだ! いいか大事なのはアルファベットなんだよ。」


「このオーダブリュエルは犯人の頭文字を取っている。」


集まっている生徒のうちの幾人かの表情が強張った。


「まずはオー、これは参加者で唯一、奥本お前だけだ。」


「おい、ちょっと待ってくれよ。」


奥本は反論しつつも明らかに動揺した様子を見せている。


「次にダブリュ、これは鷲崎、お前だ。」


「はっ……」


鷲崎はハッとした表情で「はっ……」と言った。


「最後にエル、これは木ノ崎える、お前だ。」


突然呼ばれた予想外の人物に一同は騒然とする。


木ノ崎さんはクラスで2、3番目にかわいい女子だ。


「ちょっと待ってよ。頭文字って言ったじゃない! 私だけ普通に名前っておかしいでしょ! 」


「だってお前、エルからだったら「ちっちゃい“あ”」とかになるんだぞ! そんな名前のやつ見たことあるか? 」


「いや、ないけど……」


木ノ崎さんはその気迫溢れるマジレスに押し負けてしまった。


「その程度の証拠で俺たちを犯人扱いするのか?」


最初に疑いをかけられた奥本が口を開いた。


「他にも証拠はあるぞ。まずフクロウとは鳥だ。その鳥が落とされた。つまり飛ぶ鳥を落とす勢いで成績が伸びている奥本、鷲崎、える。お前たちはこの条件にぴったり当てはまる。」


「そんな……でもだったら一体誰がそのフクロウを落としたんですか! 」


このこじつけレベルの推理とそれに対して一切反論しない奥本たちに対するツッコミはなかった。


なぜならこの先生のめちゃくちゃな推理が当たってそうな流れで進んでいたからである。


「このフクロウを落としたのは……君だ。」


そう言いながら先生は静かに田中さんを指差した。


「田中、お前実は犯人が誰か分かっていたんだろ?」


「……はい。」


田中さんはたしかにそう答えた。


私は内心「は? 」とも思ったが口には出さなかった。


「奥本は田中のことが好きだった。鷲崎はおパンツを集めていた。えるは同じ女子であるため女子更衣室に入ることができた。そして、田中も奥本のことが好きだった。4人の利害が一致したんだ。」


「奥本くん! 私と付き合ってください! 」


普段は物静かな田中さんが大きな声でそう言った。


理解不能な利害の一致について言及するものは誰もいなかった。


「はい! お願いします。」


奥本は田中さんの元へ駆け寄ると笑顔で手を取った。


鷲崎はポケットから田中さんのおパンツを取り出しそれを掲げながら


「ありがとう! 」


と今日一番の声量で叫んだ。


その様子を見ながらえると先生が温かい拍手を送り次第にその拍手は茶番を見せられた私たち無関係な生徒たちへ広がっていき、やがて世界中に広がっていった。


国連が世界平和の実現を宣言する頃には皆が互いに拍手を送り合う社会になっており、全てのきっかけはたった一つの木彫りのフクロウだったことはきっと私以外覚えていないのだろう。



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おパンツとフクロウと世界平和 秋田健次郎 @akitakenzirou

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