呻れ、フクローキック!
あぷちろ
ばんぐみをみるときは、てきせつな人間関係を守りましょう
~壮大なイントロ1分~
―特徴的な和太鼓の音―、―清廉なフクロウの鳴き声―。
♪『ヤツはどこからともなくあらわれて~~』
♪『ボクたちの願いかなえるんだ~~』
♪『
♪『あくじ働く敵たおす~~』
♪『アレは、鳥?』
♪『アレは、ニンゲン?』
♪『アレは! ヤツは!』
「猛禽マンだ!! って曲なんだけどしらない?」
ガタリと自身の座っている車いすが後ろに倒れそうな勢いで白髪丸眼鏡の男性は電気式の暖炉近くで読書をしている陰鬱そうな少年に問いかけた。
「ぜんぜん知らない」
少年はそっけなくそれでいて心のこもった返答をする。
「うわー、まじかー。ジェネレーションギャップだわー。僕が子供のころはみんな知ってたくらい有名だったのになあ」
「それってマエルカ伯父さんが幾つくらいの時?」
「そうだなあ、9歳か10歳くらいの時だから……都合、35年くらい前かな」
マエルカと呼ばれた男性は暫く考えるようなそぶりをして、答える。
「俺の年齢、言ってみて」
「15、だっけ? あってるかいトーリ」
「うん。合ってる。だから、俺生まれてない」
トーリと呼ばれた少年の言葉に、マエルカは膝を叩いて笑う。
「ははっ、そうだな、ははっ! すっかり忘れてたよ」
部屋の角に鎮座した白黒テレビからは連続殺人事件や、銀行立てこもりのニュースが流れている。
「それは自分の歳? それとも俺の歳?」
「うーん、両方だな!」
「それ、威張る事じゃない」
マエルカはトーリに冷静に返され、やってしまったとばかりに額を指先で撫でた。
「失敬、失敬。それで、トーリは今何の本を読んでいるんだい?」
マエルカはきぃきぃと啼く車椅子をトーリの近くへと移動させる。
「学校の宿題で、読書感想文をかかないといけないんだ」
そう言って、トーリはマエルカに本の表紙を掲げ見せた。タイトルは『健忘障害ってなんだろう』だ。
「いつの時代も読書感想文があるってのは不変なんだねえ」
「マエルカ伯父さんのときはどんな本読んでたの」
「僕は猛禽マンみたいなヒーローになりたかったからなあ。空手教本の感想文をだしたな!」
「先生、よくそれで許してくれたね?」
「いいや、こっぴどく叱られたさ。しょうがないからフクロウの生態とかいう本の感想文書いたんだ」
「だめじゃん、それ」
トーリは苦笑しながら本の頁を捲った。
二人の穏やかな時間を切り裂くかのように綸、綸、と固定電話のベルが部屋に鳴り響く。
その音が鳴りやむと、マエルカは感情を失くした
「トーリ、」
マエルカは低く呻るような声で少年の名を呼び、車椅子からゆっくりと立ち上がった。
「うん。留守は守るから、いってらっしゃい」
「頼んだ」
床を掴む、マエルカの両足にあったのは猛禽のような4本の爪。
彼が一歩、また一歩と踏み出すたびに彼の身体から純白の羽毛が伸び、翼を形作る。
格子窓がひとりでに開け放たれ凍てついた風が室内へ流れ込む。
トーリはマエルカの姿を瞳へと映す。
純白の羽毛に鋭利な四本爪の両足、黒く常闇のごとき双眸に銀色の嘴。ニンゲンの姿を捨て、白銀のフクロウとなったマエルカは首を180度回転させ、トーリを一瞥すると開け放たれた窓から外へと飛び出した。
トーリは夜の帳の向こうへと話しかけた。
「がんばってね、父さん」
静穏の戻った室内には白黒テレビから事件解決を知らせるニュースだけが流れていた。
~荘厳なBメロ30秒~
―悲痛なフルート・ソロ―
♪『ボクらの切り札猛禽マン、白き翼をはためかせ』
♪『わるいやつらを一掃だ!』
♪『失うものはおおくとも』
♪『みんなの笑顔をまもるため』
♪『きょうもひっさつ、フクローキック!』
おわり
呻れ、フクローキック! あぷちろ @aputiro
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