第十八話: マリー5000%(物理)
砂塵が吹き荒れる『東京』の街。ほんの少し前までは人々が行き交い、営みの笑い声で賑わっていた景色。
それが今では、瓦礫と土砂が降り積もり、薄黄色の寒々しい世界に変わってしまっていた。
とん、たん、たん。
イアリスを背負ったマリーが、その世界を軽やかに飛ぶ。変身した方が速いが、体力と魔力温存の為に、その姿は小さいままであった。
……その光景は、けっこう異様であった。
なにせ、頭一つ分以上大きい美女にしがみ付かれた華奢な少女が、バッタのようにぴょんぴょんと地を蹴って宙を駆けているのである。
本人たちは至って真面目である分だけある種の可笑しさが、余計に際立って見えた。
そうしている間にも、びゅう、と吹き荒ぶ風が、徐々に濃くなってきている。
先行している『マリー』から送られてきた情報を元に、マリーは屋根を蹴って方向転換を行う。その視線は、未だ渦巻く砂塵の先へと注がれていた。
「もうすぐ、また砂塵の向こうに飛び込むぞ……覚悟しておけよ」
そうマリーが告げれば、無言のままにイアリスは巻き付けた手足に力を込める。普段なら鎧さえ無ければ、と歯噛みしているところだが、さすがにマリーもそんな気分にはなれなかった。
「……なんと惨い」
点在する砂山、そこに見え隠れしている亡骸たち。その中にポツンと見えた、小さな塊……子供のソレを見て、イアリスはやるせなくなって顔を伏せる。チラリとそちらを見やったマリーも、無言のままに視線を逸らす。
……探究者をやっている以上、人の死を見るのは初めてではない。
手足を食い千切られて運ばれてくる者や、血だるまのまま放置された亡骸を見たこともある。目の前で、命が尽きて息を引き取る光景だってある。
実際に、過去で……ガラス越しではあったが、生きながらにして溶かされるという、悪夢よりも惨い光景だって見た。
だが、それでも、眼下に広がる光景は酷すぎた。
男も、女も、老人も、子供も、関係ない。
ほんの少し前まで繰り返されていた日常が崩れ去った、目を背けたくなる地獄……先ほどのアレで、いったいどれだけの死者が出たのだろうか。
「……死には、ある程度は慣れたつもりだったのだがな」
ポツリと零れたイアリスの声は、その胸中を表すかのように震えていた。無理も無い……心の中で、マリーは頷いた。
この亡骸たちの中にはもしかしたらまだ、息がある者がいるかもしれない。吹き荒ぶ砂埃の中で蹲る者の中に、まだ諦めずに助けを求めている者がいるかもしれない。
だが、助ける力がイアリスには無い。そして、マリーにも無い。
掘り出している時間は無いし、救命処置もこの混乱では……そうするぐらいなら、この災害を生み出したあの影を……砂塵の向こうに居ると思われるやつらを仕留める。
それが今、マリーが、イアリスが、死した彼ら彼女らにしてやれる、手向けであった。
「あんまり、背負い込むなよ」
「……分かっているさ」
「分かっていたら、そんな泣きそうな声は出さねえんじゃ?」
「泣いてない」
「そうだな、泣いてないな……だから、耳元で騒ぐなって」
思わず、マリーは苦笑して……不意に、マリーは顔を伏せた。
「……泣けるお前が少し、羨ましいぜ」
「――えっ?」
「いや、何でもない。ただの独り言だ」
顔を上げた時には、もう笑顔を浮かべていた。
「ところで、本当にいいのか?」
「何がだ?」
真顔で尋ねるイアリスに、マリーははっきりと答えた。
「このまま突っ込んでも、だよ。今ならまだ引き返せるぞ。お前にも友達はいるんだろ? そいつらの元へ向かっても、俺は責めないぞ」
だから、逃げた方が良い……という言葉が言外に滲む忠告。対してイアリスは深々とため息を吐くと、おもむろにマリーの頬を……軽く抓った。
「マーティたちを馬鹿にするな。あいつらは私以上にしっかりしている……それに、もう逃げるのは嫌だ。これ以上逃げたら、私は耐え切れなくなる。そうなるぐらいなら、私は戦う道を選ぶ方が楽だ」
「ひゃへも、ひへははんへ、ひははいほ」
「私の心が、逃げたと私を攻め立てるのだ。例えそれが後悔になろうとも、私の目的が……私が目指した先が閉ざされる結果になろうとも、な」
そう言うと、イアリスは静かに頬から指を外す。「難儀な性格だな、お前も」マリーも、それならばと己を納得させた。
「そうかい、そうかい……お前も大概命知らずな馬鹿野郎だ」
「野郎、じゃない。女らしさはとおの昔に捨てたが、女を捨てたつもりはない」
思わず、マリーは笑い声をあげた。
「ははは、そうか、それは悪かったよ……それじゃあ、飛び込むぜ!」
その言葉を聞いて、イアリスが慌ててしがみ付く腕に力を入れた直後……マリーたちは、『巨獣』が居るであろう砂塵の壁へと飛び込んだ。
――途端、マリーたちを襲ったのは、視界全てが薄黄色の砂塵世界。さすがに最初の時よりは弱まってきているが、それでもかなり視界が悪いことには変わりなかった。
しかし、偶然か、はたまた故意か。
どちらなのかは分からないが、建物への被害は、先ほどマリーたちが居た場所と比べてだいぶ軽いように見える。
渦巻く砂埃自体はマリーたちが居た所の比ではないが、それでもその勢いは最初に比べて弱い。ガラスは割れ、看板なども留め具が外れて地面を転がっているが、建物の大半は原形を留めていた。
その中で……よくよく目を凝らせば、その奥で蠢く影が見え隠れしていた。
それは、幸運としか言いようがない奇跡によって生き長らえた、『東京』の住人たち。彼ら彼女らは運良く丈夫な建物の中に逃げ隠れることに成功し、砂嵐が過ぎ去るのを静かに耐え忍んでいた。
そんな――人たちの頭上を、マリーとイアリスは通り過ぎながら……ちくちくと、肌にぶつかる砂粒にマリーは舌打ちをする。
『マリーたち』から伝わってくる気配を感じ取る限り、目的地までそう遠くは無い。『気銃』による反響音も、次第に大きくなってきている……戦いは、もうすぐ傍まで迫って来ていた。
このまま飛べば、ほんの十数秒程度で着くだろう……だが、この体勢のまま戦闘に突入するわけにもいかない。
そう判断したマリーは、軽やかな足取りで屋根から地面へと降り立つ。「すまない、足を引っ張ってしまった」次いで、マリーの背から降りたイアリスは辺りを見回し……不思議そうに首を傾げた。
「ところで、さっきからずっと聞こえいる、この音は何だろうか?」
「ああ、これか。これは、おそらく『気銃』の音だろうな」
「『気銃』? 『気銃』って、はて……?」
どこかで聞いたような覚えが……聞き覚えがあるのか、そう言って何度も首を傾げるイアリスを他所に、マリーは魔力コントロールを行う。
一拍遅れて、マリーの身体が光を放つ。と、同時に立ち籠る濃霧がマリーの身体を覆い隠す。もこもこもこ、と、その濃霧が膨れ上がったかと思ったら、中から突き出された細腕が濃霧を薙ぎ払い……麗しき美女となったマリーが姿を見せた。
さて、と。びゅう、と叩きつけられる突風に銀白色の髪を靡かせながら、マリーは『マリー』から送られてくる情報を改めて確認する。
「――あ、『気銃』って、『軍』が使っている武器じゃないか」そして、ようやく思い出したイアリスを他所に、マリーはさっさと歩き出した。
……視界が悪いのは、今も変わらない。
吹き付ける風は砂塵を孕んで容赦がなく、時には目の前すら分からなくなるほどに酷い。兵士たちが苦戦を強いられているのも、おそらくこの環境の悪さが一因となっているのだろう。
そんな中、マリーの足取りは全く緩むことなく、怯むことなく、進み続ける。突風など物ともせず、砂塵の壁など物ともせず、『マリー』から送られる信号を頼りに前へ進む。
後ろから慌てて追いかけて来るイアリスの気配を確認しながら、マリーは注意を緩めない。待機している『マリー』からの情報から考えて、流れ弾が来ない方向から接近することにしたが……万が一もあるだろう。
……目的地へ近づくにつれて、徐々に喧騒音……否、戦闘音がはっきりと聞こえる様になってくる。それに合わせて、イアリスも無言のままに『アルテミス』を鞘から抜き放つ――と。
ふわりと、覆い隠された砂塵の向こうから黒い影が飛び込んできた。
反射的に切り飛ばそうとしたイアリスを片手で制したマリーは、その影へと手を伸ばし……とすん、と受け止めたその身体を、そっとその場に横たわらせた。
……それは、既に息絶えた兵士であった。一目で致命傷だと分かる深手の傷が胸に残されており、顔は恐怖で歪んでいた。
これが飛んできたということは、もう目の前まで来ているのだろう。
“手筈通り、そっちに引き寄せる……外すなよ”
“誰に物を言っているんだ? 俺はお前の本体様だぞ”
『マリー』に指示を送りながら、おもむろに見開かれた亡骸の目を閉じてやる。そしてマリーは、ビッグ・ポケットから取り出したナックルサックを嵌めた。
「来るぞ、イアリス」
「作戦は?」
「俺が動きを止める。その瞬間、やつの首を一つ落としてやれ」
「了解した。『妖精』の剣技を、お前に見せてやろう」
そう言うと、イアリスは気を練りながら砂塵の向こうへと姿を消した。
それを確認したマリーは、『マリー』から送られてくる情報……まっすぐ、こっちに『巨獣』が近づいてくるのを確認した。
それに合わせてマリーは大きく息を吸って……吐いた。
途端、マリーの身体が一回り以上大きくなった。はた目からはっきりと視認できる程に筋肉が隆起し、びくびくと四肢が蠕動を起こした。
おお……ポツリと零れた溜息は、イアリスか、あるいはマリーか。
徐々に大きくなってくる戦闘音が、兵士たちの怒声と悲鳴が、五月蠅いと思える程にマリーたちへと接近し――。
ぐるぅぅるぁぁあああ!!!
爆発したかの如く砂塵が晴れた瞬間、弾丸のようにマリーの真上を、『マリー』が通り過ぎて行く――その、刹那。
ほぼ同時に姿を見せた鋼色の『巨獣』の足が、不運にもそこに居たマリーをなぎ倒さんと振り下ろされた――だが。
「ふんっ!」
渾身の力を込めて放たれた、斜め上への左フック。どごん、と響いたそれは、肉と肉がぶつかった音ではない。周囲の砂塵が晴れる程の衝撃は、形容しがたい破裂音と共に、『巨獣』の足を粉砕した。
意識の不意を突かれた痛みと衝撃に、『巨獣』は呻くことも出来なかったのだろう。踏み固められた地面を削りながら横滑りをし、『巨獣』の体勢が、がくん、と崩れた。
――見開かれた『巨獣』の目がマリーを捉える。
本能的に、それが敵であることを悟った『巨獣』の眼光に殺意が灯る。刃のように鋭い牙から唾液が飛び散り、『巨獣』はマリーへと一つの首を伸ば――。
「はっ!」
――すよりも速く放たれた、流星の如き一撃。それは空気の壁を突き破って『巨獣』の顎に突き刺さり、ずどん、と鈍い音を立てて『巨獣』の巨体が浮いて、たたらを踏んだ。
ごぉあああ!!
だが、それだけだった。三つの内の中央を破壊されたのに、『巨獣』の眼光は微塵も弱まらない。それどころか、受けたダメージを糧にさらに闘志を燃やし、残った四つの血走った瞳がマリーを捉える。
――右首の、噛み締めた牙の隙間から、ごぉ、と炎が零れる。その勢いは凄まじい熱気となって辺りを照らし、ばちばちと砂塵を焦がす。
――左首の、噛み締めた牙の隙間から、ぷしゃり、と黒い液体が零れる。滴り落ちたソレは異様な臭いを立ち昇らせて、地面に穴を開けた。
どちらも、受ければ重傷必至の攻撃。
これまで兵士たちへ思うがまま浴びせかけていたソレを、『巨獣』は今回も放とうと狙いを定め――しゃん、と白刃が煌めいたと同時に、左首が音もなくズレて、落ちた。
ギョッ、と見開かれた右首の両眼が、『妖精』の如き軽やかさで宙を舞う女を捉える。長い金髪を靡かせるその姿……白刃の主は、イアリスであった。
――絶大の切れ味を誇る魔法剣『アルテミス』と、それを支える優れた剣技。
力と技が絡み合い合わさることで生まれたその一閃は、傍目から見れば『巨獣の頸は柔らかいのでは?』と錯覚してしまうぐらいにあっけなく、『巨獣』の首を落としたのであった。
そして、追撃はまだ終わっていなかった。
新たな敵の出現に、『巨獣』が一瞬ばかり注意をそちらへ向けてしまった、その瞬間。懐へと近接していたマリーの全身が蠕動し。
「おらぁ!!」
ずどん、と重苦しい打突音が響き渡り、その衝撃は、『巨獣』の胴体を陥没させる。ごはっ、と鮮血が辺りを真っ赤に染めた。
――ごぁああ!!
「――って!?」
だが、しかし。『巨獣』の闘争心は、マリーの想像の上を行った。
切り落とされた断面や破壊された首から夥しい量の鮮血を吹き出していながら、信じられないぐらいの俊敏さでもって地を蹴って、宙を跳ぶ。
そして、放たれた灼熱のブレスを、「――っぶねぇ!」マリーは寸でのところで横っ飛び。転がりながら直撃を避けたマリーは、そのまま勢いを利用して立ちあがる。見れば、イアリスも同様に避けたようであった。
――ごおおお?
負傷した足ではバランスを保てないのか、着地した『巨獣』はたたらを踏んで建物にもたれ掛る。はあ、はあ、はあ、血生臭さを伴う異臭が辺りに漂うのを見て、マリーは追撃しようと踏込み――足を止めた。
「くっ!」
それは、痛みすら覚える程の強い突風であった。
前触れも無く吹き荒れたそれの前に、マリーはもちろん、イアリスも足を止めざるを得なかった。
「――またこの風か! いいかげんにしろっての!」
舞い上がった砂塵の前に、さすがのマリーも迷いを見せる――それが、悪手であった。
瞬く間に『巨獣』は砂塵の中に隠れてしまい、その姿が見えなくなったのだ。慌てて空拳の連打をそこへ叩き込む……が、遅かった。
「……逃げたか」
反響する破壊音と共に晴れたそこを見て、マリーは舌打ちをした。あれ程のダメージを受けていたのに、この俊敏性……なんという生命力だ……と。
「――動くな!」
その声は、場違いな程に辺りに響いた。
驚いて振り返ったマリーが最初に認識したのは、『気銃』の砲身。そして、至る所を負傷した兵士たちの、怯え交じりの視線であった。
「お前は誰だ! ここで何をしている!?」
「おいおい、そう怯えるな。手が震えているぞ」
「ふざけるな! いいから質問に答えろ!」
そう怒鳴りながら、その兵士は突きつけるように『気銃』の銃口をマリーへ向ける。視線を動かせば、少し離れたところでイアリスも同様に兵士たちに囲まれているのが見えた。
「いきなり何をする! それが加勢した私たちに対する『軍』の礼なのか!」
そういきり立つイアリスに、マリーは内心同意する。
――はて……何故、俺たちは敵意を向けられるのだろうか。
“それはな、そいつら、お前たちが戦っているのを見ていないからだ”
……はあ?
少し離れたところで待機をしていた『マリー』からの思念に、マリーは思わず目を瞬かせる。
続いて伝わって来た思念に従って顔を上げれば、兵士たちのさらに向こう……今しがたの突風で露わになった屋根の上に、『マリー』の姿があった。
“この視界の悪さだ、無理も無いさ。さっき俺がワンコの気を逸らした時も、そいつらは何が起こったのか分かっていなさそうだったからな”
“何だそりゃ。だからといって、武器を向ける相手を間違えるなよ”
『マリー』の話しに、マリーは思わず……と言った調子でため息を吐いた。
それが逆に兵士たちの逆鱗に触れたのか、「――答えんか!」兵士の一人が放った弾丸が、マリーの足元に穴を開けた。
それは、明確な脅しであり、命令であった。「動くな! イアリス!」激昂しかけるイアリスを制したマリーは、次いで、たった今『気銃』を撃った兵士へと視線を向けた。
「――この馬鹿者! お前、何をしている!」
と、同時に、また砂塵の向こうから新たな兵士たちが姿を見せた。だが、今度の兵士は目の前の兵士と違っていた。
身なりも年齢も階級も上のようで、今しがたマリーに銃口を突きつけていた兵士が、驚愕に背筋を伸ばした。
「た、隊長!? 生きておられたのですか!?」
瞬間、隊長と呼ばれたその兵士の顔色が、一気に赤く染まった。
「馬鹿者! その人は、あのマリー・アレクサンドリアで、そちらの方はあの『妖精』だ! 無暗に喧嘩を売るな!」
「えっ、こ、この人があの……!」
(驚くところなのか、そこ……)
――『驚愕』
その二文字を顔中に張り付かせた兵士たちの姿に、マリーの頬も引き攣る。
前にも似たような反応をされたことがあるが、いったい己の評価は世間的にどうなっているのだろうか……そう、マリーは尋ねたくなった。
(さ、さすがに今それを尋ねるわけにもいかんだろうが……)
とっても、気になる。けれども、今はこんな状況だ。なので、あえてマリーは尋ねるのを止めた。
「おそらく、彼女があの化け物を引き付けてくれたのだ! さっさと陣形を組み、周囲に警戒網を張るのだ!」
「りょ、了解致しました! あ、あの、失礼致しました!」
隊長の怒声に、ようやく頭が冷えたのだろう。
慌てて隊長と、そしてマリーへ敬礼を取った兵士たちが、一斉にマリーたちから離れて周囲に散っていく。
駆け寄って来るイアリスの憮然とした顔……こいつはやはり隠し事が下手だなあ、とマリーは思ったが、口に出すようなことはしなかった。
「――不快な思いをさせて申し訳ない。あの者たちはまだ学校を卒業したばかりの新兵でして……経験が不足しておるのです」
それらに目を瞬かせながら見回していたマリーは、その言葉に振り返る。隊長と呼ばれたその男とその連れは、こんな状況にも関わらずマリーとイアリスに敬礼をして見せた。
年齢的に言えば、40前後……と言ったところだろうか。
相応の軍務経験を積んだであろうその顔には、先ほどの兵士たちには無い気迫と落ち着きが見られた。イアリスも、そんな隊長の対応に「あ、いや、こちらこそ……」怒りを引っ込めたようだった。
「確認させてもらいますが、御二人も奴らを?」
「まあ、そんなところだ。あいにく、あと一歩のところで逃がしたがな。死んでいなければ、また突っ込んでくるかもな」
「それでも、十分です。我らでは致命傷はおろか、傷を負わせることすら手こずっている有様でしたから」
「それが分かっているなら、下手に攻撃してやつを刺激するのは止めときな。やるだけ無駄だし、命を捨てるだけだぞ」
「ごもっとも……ですが、我らは『国』を、民を守る為の『軍』です。絶望的な相手であっても、そこで怖気づいて逃げるわけにはいきません」
「……そうかい。でも、死ぬのなら俺の見ていない所でやれよな」
「意を汲んでいただき、感謝」
見た目だけなら自分の半分ぐらいしか生きていないであろうマリーとイアリスに、この低姿勢。
エリート集団である『軍』の隊長を務める器量を持っている。「それでは、これにて」そう言い残して、隊長たちも周囲の警戒に戻って行った。
(……出来る限り、死なないで欲しいんだけどな)
とりあえず、懸念事項の一つが消えたことに安堵する。次いで、マリーは辺りを見回し、『巨獣』の気配を探る。
先ほどの突風がキッカケとなったのか、だいぶ視界も良好になってきており、多少の距離なら兵士たちの位置を判別できるようになっていた。
……だが、それでも完全に晴れたわけではない。
未だ砂塵に隠された部分は多く、現に兵士たちも、『マリー』ですら、『巨獣』の存在を確認出来ていない。
イアリスも鼻息荒く辺りを警戒しているが、それで見つかるならさっきのアレで仕留めることが出来ただろう。
……。
……。
…………緊張感を孕んだ沈黙が、訪れる。『マリー』もまだ、『巨獣』を見付けられていない。時間だけが、無情にも過ぎてゆく。
負傷した兵士はもちろんのこと、怪我を負った住人たちは大勢いる。こうして『巨獣』に構っている間にも、その者たちの命は潰えるかもしれない。
緊張一辺倒だった兵士たちの中に、焦燥感が滲み始める。それは瞬く間に兵士たちの間を伝わり、不可視の重圧となって注意を散漫にさせる。
もしかしたら、既に息絶えたのかもしれない。
もしかしたら、今も息を潜めているだけなのかもしれない。
二つの相反する考え……ぴゅう、と吹いた風に、何度兵士たちが恐怖に振り返ったことだろう。徐々に差し込み始めた日差しの中で、誰も彼もが注意深く警戒網を広げていた――のだが。
――それは、一瞬の出来事であった。
マリーも、けして気を緩めたつもりはなかった。だが、それ以上に……『巨獣』の動きは速く、後先を考えない玉砕的な攻撃であったからこその、不意打ちであった。
“――後ろだ!”
それに気付けたのは、唯一高い位置から全体を見下ろしていた『マリー』だけ。ほんの僅かな砂塵の揺らぎ……それを視界の端に収めた瞬間に飛び出して来たのは、まぎれも無い幸運であった。
おそらくは、『気銃』の弾丸をも弾く体毛を逆立てているのだろう。
まるでハリネズミのような姿になった『巨獣』は吠えることもせず、ただ殺意の光をその目に灯らせてマリーへと突進してきたのだった。
それを、マリーは全力の空拳でもって迎え撃った。「――っぬん!」一撃で分厚いレンガを貫く不可視の弾丸が、容赦なく『巨獣』へと叩き込まれ――それは、刹那の力比べであった。
マリーが放つ空拳は確かに絶大なる破壊力を持ち、あらゆる外敵を粉砕する。おそらく、いや、確実に、その破壊力は『気銃』をも上回っていただろう。
しかし、それは『巨獣』も条件は同じ。
そう、『気銃』ではびくともしない固い毛皮で覆われたその巨体は、マリーの空拳を持ってしても押し留めることが出来なかった……のだが。
「――っ!!」
放たれた空拳は、一発ではない。言うなれば『マシンガン』の如く放たれた空拳は、まるで真横に振った豪雨のように『巨獣』へと降り注ぐ。
凄まじい爆音と、打突音。腹の底まで響くその音に伴って、巨体を押し留める。
そして、その爪があと数十センチというところで……『巨獣』の身体が完全に静止した直後、「おらぁ!」駄目押しにと放たれた渾身の空拳によって、『巨獣』は宙を舞った。
「あっ」
驚愕に零れた、誰かの声。兵士たちが『気銃』を構える間もなかった。その一瞬の間に戦いは終わっていた。
兵士たちがそれに気づいたときにはもう、空拳によって屋根の上に押し上げられた『巨獣』は、亡骸となって鮮血を滴り落していた。
「――っぶねぇ、ぎりぎり押し勝てたぜ」
刹那の攻防は、マリーに軍配が上がった。ほんの僅かな運の差……『マリー』があの瞬間に気づかなければ、横たわっていたのはマリーであっただろう。それぐらいの、瀬戸際の差であった。
――ぽふん、とマリーの身体から煙が湧く。その身体は元の少女然(少年)とした姿に戻っており、兵士たちの視線がそのマリーと、亡骸を交互に行き来した。
「……やった」
しばしの沈黙の後。ぽかん、と大口を開けて静まり返っていた兵士たちの誰かが、ポツリと零した。
「やった……やったぞ……」
「やっと、仇を……」
「死んだ……仕留めたんだ……」
ポツリ、ポツリとその事実が、兵士たちの頭に沁み渡っていく。伝染するかのように広がっていくその波は、瞬く間に兵士たちに活力をもたらし――。
「やった、やったぞぉぉおお!!!」
――歓喜の声が上がったのは、もう間もなくのことであった。
……
……
…………
――そして、時は今へと帰ってくる。
イアリスの静止も耳に入らずに飛び出したマリーは、脳裏に響いたサララの声に向かって、飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ。変身を解いてしまった己に舌打ちしながら、それでも飛んだ。
後先など、マリーは考えなかった。置いてきたイアリスのことも、館のことも、『東京』の惨状も、今のマリーの頭にはなかった。
――行かなければならない。その言葉だけが、マリーの脳裏を埋め尽くす。
ただ、あいつが……サララが、助けを呼んでいる。妄想のようなソレはまるで大木のようにマリーの中に根付き、ただひたすらマリーの身体を、心を、突き動かし――。
「――そこか!?」
その目が、彼方に見えるサララを捉えた。と、同時に、マリーはサララの様子がただ事ではないことにも気づいた。屋根の上で、一人槍を振り回しているようだが……いや、違う!
(何かが……何かが、あそこに居るんだ! サララ以外の、何かが!)
遠目からでも、マリーにははっきりと分かった。
あれは、ただ槍を振っているのではない。
マリーの目には映らない何か……目に見えない何かが、あそこにいる。そう、マリーは推測した。
それは、もはや妄想にも似た直感でしかなかった。だが、言葉では説明できない確信が存在していた。
「――はっ!」
だから、マリーの行動は早かった。
空を舞いながら魔力コントロールを行ったマリーの周囲から、まるで空気から溶け出したかのように次々と『マリー』が姿を見せ始める。
その数は瞬く間に両手の指を超え、両足分も超え、あっという間に50を超える『マリー』たちが、この世界に具現化される。
……それは、はっきり異様としか言いようがない光景であった。
なにせ、同じ顔が50以上。8人の時ですら目を引くぐらいの異様さだったのに、それが50以上だ。
いくらその50が美少女(男であるのだが)だとしても、50を超える同じ顔が殺到する……おお、なんと気持ちの悪いことか。
「――目に見えない相手なら」
そして、その気持ち悪い集団の本体でもあるマリーが、次に何をしたのかと言えば……答えは単純であった。
「避ける暇を与えず、物量で押し潰せばいいんだよ!」
マリーの号令に、『マリー』たちが一斉に飛ぶ。それはまるで餌を求めたイナゴのような光景。一人一人はマリーよりも劣るものの、人ひとりを肉塊に変えるだけの力を持った美少女(棒付き)が……サララの居る屋根の上へと降り注いだのであった。
「死ねぇぇええええええ!!!!」
「ぶっ殺せぇぇぇえええ!!!」
「原形すら残さんぞぉぉぉおおお!!!」
それは青天の霹靂の如き不意打ち。サララも、『目に映らないそいつ』も、マリーと『マリー』たちの怒声が晴れた青空に響き渡ったところで初めて、マリーたちの存在に気づいた。
「――っあ」
気づいたときにはもう、遅かった。驚愕を顔一面に張り付かせたサララをしり目に、突貫してきた『マリー』たちの豪雨を受けた『そいつ』は、堪らず悲鳴をあげた。
――キョァアアア!?
聞く者の背筋を震わせる不快音が、『東京』の空に木霊する。これが普通の相手であったならば、そのあまりの不快感に思わず手を止めていたところなのだが――。
「うるせぇぇえええんだよ!!!」「てめぇ、いきなりデカい声出すんじゃねえよ!!!」「抵抗するんなら死ね! 抵抗しなくても死ねぇ!」「悪あがきするんじゃねえぞこの野郎!!!」「このまま骨まで砕けてくたばりやがれええ!」
――『そいつ』にとって不運なのは、その相手がよりにもよってマリーであったこと。
そして、その相手が一人ではなく50を超えており、その全員が考えるよりも先に手を出した方が楽と考える脳筋的な性格であったことだった。
しかも、恐ろしい事に、この50人は一人一人が思念という名の回線みたいなもので繋がっている。
『そいつ』が精一杯身をよじって屋根から転がり落ちただけでなく、地面をのたくって逃げようとしたところで、その動きは悲しいまでに全員に筒抜けであった。
『マリー』一人だけでも持て余すのに、それが50人も殺到しているのである。まともに一度捕まったら最後、もう『そいつ』は『マリー』から逃れることは不可能であった。
……そう、たとえ『そいつ』の身体や体液が透明で、影も映らず気配が分からないうえに、それを得意にしているとしても、だ。
直接触れればしっかりとした弾力があるし、その身体に傷を付ければ体液が噴き出す。痛みは覚えるし、押さえ付ければ抵抗してのた打ち回りもする……『そいつ』の焦りが、これでもかと『マリー』たちに伝わって来た。
――キョァ、キョア!?
何処からともなく響く、不快音。それは、不思議な光景であった。
同じ顔をした50人以上の美少女が、わらわらと何も無い空間に集まって手足を振り回している。はた目から見れば、ふざけているようにしか見えなかっただろう。
もしかしたら『そいつ』は、自分の身に何が起こったのか、何をされているのか、最後まではっきりとは理解出来なかったのかもしれない。
実際、傍で戦っていたサララですら、あまりに突然の展開に動きを止めていたぐらいだ。
数の力でもって押さえ込まれた『そいつ』は、全方位から叩き込まれる『マリー』の攻撃を前に、徐々にその動きを止めていく。響いていた不快音も徐々に小さくなっていき……聞こえなくなって、幾しばらく。
「よっしゃあ、お前ら撤収!」
わらわらと集っていた『マリー』たちは、マリーの命令にわらわらと離れ……その中心地で、『そいつ』は完全に息絶えていた。全く視認することは出来なかったが、息絶えているのは拳を通じて分かっていた。
べったりと『マリー』たちに張り付いている何かから推測する限り、もはや『そいつ』は原型どころか肉塊以下の何かに変わり果てているのを確認するまでもなかった……まあ、確認する方法など分からないのだが。
「いやあ、すっきりしたぜ!」
にこやかな笑みと共にその姿を消していく『マリー』たちを見ていたサララは……我に返った瞬間、悲鳴をあげて『マリー』たちへ手を伸ばし――。
「サララ」
――名前を呼ばれて、たたらを踏んだ。
「サララ」
再度名前を呼ばれて、サララは弾けるように振り返り――。
「よお、サララ。大変なことになったな」
――マリーの、サララが大好きなマリーの笑みが、そこにあった。
「マリアたちの方は、分身を送らせているから大丈夫だ。ああ、そうだ、この場に居るのはお前だけか?」
何度も夢見て、何度も願って、何度もその幻を追いかけ続け……もう一度だけでもと想い続けた笑顔が、そこにあった。
「他の奴らはどうしている? もしかして、自由行動中か? ナタリアの調子はどう――って、おい?」
するりと零れ落ちた『グングニル』が、からん、と屋根の上を転がる……でも、どうでもいい。「どうした、怪我しているのか?」心配げに駆け寄って来るマリー……でも、今だけはどうでもいい。
こみ上げてくる、何か。サララ自身でも理解しきれない何かが、思考の全てを覆い尽くす。立ち止まったマリーが、憎らしい。
「――お、おい、泣いているのか?」
驚いたマリーの声、でも、そうじゃない。頬を伝うそれは炎のように熱く、唇に触れた粘液はしょっぱくて気持ち悪い。
「……え、あ、あの?」
気づけばサララは、くしゃくしゃになった顔をそのままにしてマリーの前に立っていた。両手を高く上げたサララは、困惑気味に首を傾げるマリーを見やると。
「マリーの、ばか」
そう言って、両手を振り下ろした。「ちょ、ちょっとサララさん?」けれどもその力は弱く、「マリーの、ばか」ぽかぽかと、「マリーの、ばか」まるで子供の駄々の「マリーの、ばか」ように頼りなく繰り「ばか、ばか、ばか」返された。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。
ばか、ばか、ばか、ばか、ばか、ばか、ばか、ばか、ばか、ばか、ばか……延々と、繰り返す。
その奇妙な行動に、「――なあ、いったいどうしたんだよ!?」思わず振り下ろされたその手を取った……次の瞬間。
「マリーの……マリーの……うええええぇぇぇぇんん」
決壊したダムの如く、サララが泣き出した……それも、ただ泣いたわけではない。
母親を求めて泣きわめく幼子のように、サララは咽び泣いた。涙と鼻水を垂らしながら、わき目も振らず号泣し始めた。
「ちょ――え、ええ、あの、さ、サララ? サララさん? どうしたの? ねえ? ほんとどうしたのさ?」
始めて見る、サララの号泣(涙自体は見たことはあったが)する姿に、ひぃぃ、とマリーは喉が引き攣った悲鳴を零す。
「あ、け、怪我か? 擦り傷とかあるものな? それが痛いんだな?」
顔中に冷や汗を浮かべながら、精一杯宥めようとする……が。
「ばかぁ~、マリーの、ばかぁ、ばかぁ、ばかぁ~~」
サララにとって、むしろその優しさが逆効果だった。
視界は涙で滲み、困りに困り切ったマリーの声が耳に届くたび、暗く淀んでいた心が澄み渡る。
それが、例えようもなく嬉しいのに、例えようもなく苛立つのは、何故だろう。
手で抑えた傍から涙が零れ、拭っても拭っても次から次へと滴り落ちて行く。いつの間にか、サララの両手は涙でべたべたに濡れていた。
「あ、ああ、あああ、ごめん、ほんと御免なさい! 何だか分からんけど、俺が悪かった! な、な? だからお願い、泣き止んでください!」
「うぇぇえええ、ふぇええええ、わるぐないよ、まりーは、わるぐない……ふええええ、マリーのばかぁ、ばかぁ、ばかぁ~~~」
「はい、そうです! 俺は悪くありません! 俺は馬鹿です! 悪くないけど俺は馬鹿です! だからあの、どうかお願い、泣き止んでください!」
「ぐずっ、ぐすっ、ふえええ、うえええ、マリーは、マリーは、馬鹿じゃない、悪いのは、わたし、わたしぃ……うえええぇぇぇん、御免なさい、困らせて御免なさい、ごめんなさい~~~」
「いいえ、いいえ! はい! 私は馬鹿じゃありません、悪いのはサララですね! でも、俺は全然困ってないから! まーったく、これっぽっちも困ってないから! ね、ね、ね、いい子だから、ね? 落ち着こうねえ……!!」
「ごめんなざい、ごめんなざい、わだじ、わるいごでず、わるいごになりまじだ、ごめんなざい~~マリーはわるぐないのぉ~~」
「い、いやいやいやいやいや、悪くないよ! サララは悪くないからね、少しも微塵も悪くないから、ね、ね、ね、ほーら、落ち着こう、ほーら背中ぽんぽんだぞ~、サララの好きなぎゅ~もしてやるから、な、な?」
――支離滅裂。
もはや、サララ自身何を言っているのか分かっていないのだろう。そして、マリーも何を言っているのか分かっていない。
片方は噴き出した激情のままに嗚咽を零し、片方はそれに振り回されて動揺しっぱなし……何とも、不思議な光景である。
……『東京』の空に、サララの泣き声が響く。
それに比例して、マリーの困惑に満ちた悲鳴も響く。こんな状況にも関わらず二人は完全に状況を忘れ……互いのことしか頭に残っていなかった。
……。
……。
…………それから、幾しばらく。
「や、やっと……!」
ようやく追いついたイアリスが息を乱しながらも地を蹴って屋根へと上る。「おい、置いて行く……な……?」そこで見た光景に、一瞬ばかり息苦しさを忘れた。
「ふええええ、ふええええ、うえええええん」
それは何ともシュールで、何とも理解するのが困難な光景であった。
「すいません、すいません、俺が悪かったです、俺のせいです、はい」
その場に腰を下ろして女の子座りになったサララが、わき目も振らずに号泣し続けている。その前で、驚くことにマリーがひたすらサララに頭を下げ続けていた。しかも、土下座という姿勢のままで。
……何だ、これ?
あまりに意外というか、想定外な光景にイアリスは言葉を失くす……と。
ふわりと、頭上に影が差す。反射的に『アルテミス』を抜き放って振り返ったイアリスは……「誰かと思えば、貴様か」そう言って傍に降り立ったドラコを見て、「――何だ、君か」安堵のため息を零した。
「済まない、失礼なことをした」
「気にするな。剣を向けられるのは初めてではないからな」
本当に気にした素振りを見せないドラコに思わずイアリスは苦笑する。次いで、一つ頭を下げてからイアリスは剣を鞘に仕舞った。
「ところで、これはどういう状況なのだ?」
それを見届けてから、ドラコはマリーを……正確には、サララを指差した。
「私にも分からん。ここに来た時には、もうこうなっていた」
見たままをそのまま答えるイアリス。実際、それ以外に言いようがないのだから、どうしようもなかった……のだが。
「まあ、久しぶりに再会出来たのだ、無理もないか……」
「……なに?」
ポツリと零したドラコの言葉が理解出来ず、イアリスは目を瞬かせた。
「久しぶり、とはどういうことだ?」
「……? どういうことって、それはこちらの台詞だろう?」
対してドラコが不思議そうに首を傾げたのを見て、ますますイアリスの困惑は深まった。だが、「もしかして、お前たちは自分たちのことなのに気づいていなかったのか?」その次にドラコが放った一言で、ようやくイアリスは事態を理解した。
「マリーもお前も、『消息不明』というふうに言われていたのだぞ。人間たちの間では、死者として扱われるのだろう?」
「え?」
「えっ、て、お前たちが姿を消してから、どれぐらいの時間が経ったと思っているんだ。もう、館の修繕も完全に終わったところなのだぞ」
「……え?」
ぴゅう、と吹いた風が、イアリスの周りをぐるりと回って、飛んで行った。
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