第九話: 食わねば死ぬ、それは人も亜人も変わりなく




 向かいの酒屋とは言っても、その広さは今しがたマリーたちが利用していた店よりも、倍近い広さがあった。客層は幅広く、営業時間も長いこともあって、賑わいは向かいの酒屋の方に軍配が上がる。



 ――とはいっても、単純にそちらが格上かという話ではない。



 マリーたちが利用していた酒場は、言うなればのんびりと飲むのを目的とした店。向かいは大勢が集まって賑やかに飲むのを目的とした店。料理の味は好みでしかないので、要はそれぐらいの違いでしかなかった。


 何時もであれば、漂う酒の匂いと熱気と大勢の赤ら顔で騒がしい店内。テーブルに立ち並んだ酒の瓶と、空になった皿が所狭しに乗せられているテーブルの数々。その中を、忙しそうに動き回る店員たち。


 どこの酒場でも見られそうな、極々ありふれた光景。しかし、今のそこは、まるで猛獣が暴れ回ったかのような悲惨な状態になっていた。


 規則的に並べられたテーブルのいくつかはなぎ倒され、床には大量の酒瓶の破片が散らばっている。壊れた座席の傍には、様々な色合いの酒が床一面に広がっていて、店内には酒と食べ物の匂いが充満していた。



「……ふむ、これはまた、酷い有様じゃのう。せっかくの酒が、台無しではないか」



 店の外に居た野次馬を蹴散らして店内に飛び込んできたイシュタリアは、開口一番に、そう呟く。店内にいまだ残っていた数名の客が、場違いな人物の登場にギョッと目を見開いた。


 けれども、その中の一人……いや、三人が、イシュタリアの姿を見て、あっと声をあげた。そちらに視線を向けたイシュタリアも、あっ、と声をあげた。


 そこにいたのは、カチュの実栽培の際に協力してくれた男たち。トミー、クリスト、龍成の三人であった。



「――おお、奇遇じゃな。お主らもここで飲んでおったのか?」



 イシュタリアの問い掛けを切っ掛けに、いち早く復帰を果たしたのは、チームのまとめ役というか、交渉役に近い役柄を担っている龍成であった。



「お、おお、マジで奇遇だな……って、そうじゃない。なんでお前がここに……ていうか、お前がここにいるってことは……」



 そこまで言い終えた段階で、入口の方から、どよめきが上がった。思わず龍成たちがそちらに目をやれば、少女を背負った美しい少女……というか、サララを背負ったマリーの姿があった。



「ま、マリー!?」



 あの日のトラウマが刺激されたのか。驚愕に目を見開いた龍成たちに、マリーがチラリと視線を向ける。途端、フッと大きく目が見開かれた。



「お、おお、何時ぞやのあんたらか。こいつはまた奇遇だな。お前らも、仕事に困ってこっちに?」

「あ、ああ。いつもよりも増大期が続いているせいで、ちょっと商人の護衛だ……今日の夕方に到着したばかりだよ」



 増大期の間は別の仕事に就くという探究者は、特別珍しい話ではない。


 護衛任務は危険が伴う反面、なかなかに美味しい仕事だ。その為、腕に覚えのある探究者が護衛任務に就くという話は、けっこう多いのである。



「……って、ちょっと待て。もしかして、町のやつらが言っていた、可愛いくせに化け物みたいに強い狩猟者って、もしかして……」



 懐疑の視線が、イシュタリアに集まる。にっこりと、輝くような笑顔を見せたイシュタリアは、可愛らしく小首を傾げた。



「あ、私達は化け物じゃないんで、人違いです」



 えっ、とマリーがイシュタリアを見やった。



「いや、それはどう考えても俺たちっていうか、何でお前急に話し方かえ――っごぉ!?」



 最後までマリーに言わせない、イシュタリアの問答無用パンチ。サララを背負っていたせいで避けるのが遅れたマリーは、まともに突き刺さった腹部の衝撃に顔色を悪くした。


 それでもサララを庇って膝をつかない辺り、さすがである。気力で何とか気絶しないようにしているマリーに、イシュタリアはわざとらしく「大変じゃなあ」声を掛ける。



「おやおや、マリー……お主も酒が回ってきているようじゃな。無理はいかんぞ、無理はのう……」



 その発言に、一部始終を見ていた人たち全員が、思わず後ずさる。



「お、お前……」

「こんな可愛らしい私たちを、よりにもよって化け物とは……酷い話だとは思わぬか? んん、思わぬか?」

「お、思います!」



 思わず、龍成たちは声を揃えた。にっこりと、イシュタリアは笑みを浮かべた。



「そうじゃろう。私たちは可愛い狩猟者なのじゃ。断じて可愛くない化け物じゃないのじゃ」



 今しがたの暴挙がなかったかのように、イシュタリアは笑顔でマリーの肩に手を置いた。反対側の肩には、すっかり夢の世界に旅立ってしまったサララの寝顔があった。


 普段のキリッとしたすまし顔からは考えられない、あどけなくも可愛らしい寝顔である。そっと、真っ赤に染まった頬の熱を確かめたイシュタリアは、颯爽と身をひるがえした。



「お嬢ちゃんもすっかり眠っているようじゃな。それじゃあ、さっさと目的を済ませるとするかのう……それで、亜人はどこにいるのかのう?」



 グルリと店内を見回したイシュタリアは、首を傾げた。散らばっている食器の破片やらテーブルの残骸やらは目に留まるが、肝心の亜人の姿が見当たらなかった。



「ああ、亜人だったら、店の奥にある倉庫部屋に立てこもっているよ」



 イシュタリアの疑問に答えたのは、龍成の後ろから様子をうかがっていたトミーであった。トミーはおもむろに屈むと、イシュタリアに目線を合わせた。



「この店の出入り口はここしかないからね。僕たちはここで亜人が出てくるのを待ち伏せしているんだ。既に何人か返り討ちにあっているみたいだし、僕たちも多少はお酒が入っているから、不意打ちされると対応できないしね」

「なぜ、こんな場所に亜人がおるのじゃ? どこからか迷い込んできおったのか?」



 それがねえ、とトミーは首を傾げた。



「詳しくは知らないけど、どうもどっかの商人がたまたま捕まえてきたやつらしくて、それを商売仲間に披露していたらしくて……」

「それが逃げ出して、捕まえようとしたやつらと亜人が暴れ回って、今の状況になった……ということじゃな?」



 うん、とトミーたちは頷いた。



「ついでに言えば、その騒動で酔っ払っていた誰かが喧嘩を始めちゃって、ようやく収拾がついてきたと思ったら、肝心の亜人は店の奥で立てこもっているっていうのが今の状況かな」

「ふむ……その、連れてきた商人の姿が見えぬが、どこにいったのじゃ?」

「それなら逃げちゃったよ。勝手に付いて来て暴れ出した亜人が悪いだけで、俺は関係ないってさ」



 ……なるほどのう。とイシュタリアも頷いた。



 つまり、この騒ぎは何も亜人だけが原因で起こったわけではない。酔っ払い同士の喧嘩という、つまらないイレギュラーが混じったことで大事になった……というだけの話であった。


 ……しかし、だ。


 それはそれとして、問題となるのは……イシュタリアは腕を胸の前で組んだ。



「お前たちの中で、誰か亜人の姿をその目で確認したモノはおるか?」



 店内に居る全員へ問いかける。一人、また一人首を横に振る中で、一人の男が「少しだけなら……」と、おずおずと手を上げた。少しばかり目じりに皺が出ている、初老の男であった。



 姿を確認したイシュタリアは、ジロリと男を見やった。



「何か、特徴を覚えてはおらぬか?」



 男は、困ったように眉をしかめた。



「特徴って、例えば……?」

「人と違う部分であれば、何でもよい。腕が四本あるとか、耳が尖っているとか、目が三つあるとか、覚えている限りのことを話すのじゃ」



 その言葉に、男は考え込むように腕を組んだ。



「違いって言っても……そうだな、身体の形は人間みたいだけど、手足に鱗みたいなのがいっぱいついていたような気がする……」

「鱗?」

「ああ。後は、頭にも角みてえなのが生えていたのと、尻尾があった……ような気がする。俺も酒を飲んでいたから、あんまり確かなことは言えねえけど……」

「尻尾とは、猫や犬のようなやつか?」

「いや、違うよ」



 男は首を横に振った。



「なんていうか、大きなトカゲの尻尾って感じかな。鱗が先端まで生えていて……後はそうだな、凄く痩せ細っていたな」



 ――痩せ細っていた。


 その単語に、イシュタリアの目じりがピクリと動いた。その事に気づいた者は誰もおらず、全員がイシュタリアの質問に首を傾げている。


 けれどもイシュタリアは、構わず幾つかの質問を男へ投げかけた。


 男も記憶を頼りに、それら一つ一つを律儀に答えていく……そんな二人の後ろで、ようやく痛みが治まったマリーは、ほう、とため息を吐いた。



「……なあ、マリーくん」



 掛けられた声に、マリーは振り返る。そこには、酒でいくらか頬を赤らめたクリストが立っていた。



「ナタリアちゃんは、いないのかい?」

「ナタリアなら、向かいの酒場だ。初めての酒がお気に召したみたいで、今頃は気持ちよく夢の中を遊び回っているだろうな」



 確か、こいつはナタリアのことをずいぶんと気に入っていたっけかな。そんなことを思い出しながら答えると、クリストは安堵したかのように息を吐いた。


 何を安心したのかと気になって尋ねてみる。すると、クリストは「いや、だってさあ」と困ったように頬を掻いた。



「酒に酔ってフラフラしているところなんて、不甲斐ない所見せたくないだろ?」



 よく見れば、クリストの足はわずかではあるが、震えている。自然を装って傍のテーブルに体重を預けているが、おそらくソレがなかったら、みっともなく倒れていたかもしれない。



「……別に、見せたところであいつは気にせんと思うぞ」

「こっちが気にするんだってば。やっぱり、かっこいいお兄さんでいたいし、そう見られたいっていう気持ちがねえ……」



 その発言に、プフッと龍成とトミーが吹き出した。



「あの子から見たら、俺たちなんてもうオジサンの域だろ。なあ、トミー?」

「そうだね。というか、クリストは前にあの子にオジサンって言われて、凄いデレデレした顔してたじゃん」

「――っ、あ、あの時とはまた話が別だ!」



 酒とは別の理由で顔を真っ赤にするクリストを見て、マリーは苦笑した。クリストの気持ちが理解出来なくもないことに、(俺も中身はお前らとそう変わらないんだよなあ)と何とも言えない気持ちになった。


 チラリと、視線をイシュタリアに向ける。すると、ちょうど話が終わったところなのだろう。振り返ったイシュタリアと目が合った。



 ……無言のままに、店の奥を指差される。



 同じく無言のままに頷いたマリーは、何だか殴り合いに発展しそうになっている龍成たちに声を掛けた。背負ったサララの顔を見せると、理解した龍成たちは二つ返事で了承してくれた。


 幸いにも、先ほどとは違ってサララは深く寝入っている。さすがに倉庫のような閉鎖された空間に入るとなると、サララを背負ったままでは危険が残る。


 なので、マリーはサララを預けることにした。さすがに見も知らぬ誰かに預ける気にはならないが、龍成たちは顔馴染だ。ひとまずは安心だろう。



「それじゃあ、頼むぞ」



 スルリと、サララの身体が背中から剥がれる。さすがに、三人がかりにもなれば、女の子一人ぐらいは簡単に持ちあがる。



「あいよ。まあ、頑張ってくれよ」



 離れて行く温もりと柔らかさに名残惜しさを覚えつつも、マリーは龍成たちに手を振ると、待っているイシュタリアへと駆けだした。










 ……そして、やってきた倉庫の前。


 おそらく、締められた扉を無理やり開けたのだろう。ノブの根元部分が引き千切られるようにして外れていて、ロックを引っ掛ける部分が壊れていた。



「ふむ……餓死寸前とはいえ、大した力じゃな」



 注意深く壊れた部位を見やったイシュタリアは、ポツリとそう呟いた。


 ……餓死?


 その言葉に興味を引かれたマリーであったが、尋ねるようなことはしなかった。どうせ、いずれ分かることだろうからだ。


 ノブが有ったところの空洞を掴み、引っ張る。扉そのものが微妙に傾いていたのか、きぃ、と嫌な音を立てて扉が開いた。廊下から差し込んだ光が、倉庫部屋の中をわずかに照らしていた。


 気配を探りながら、イシュタリアは後ろ手で照明のスイッチを入れる……しかし、照明は付かなかった。二度、三度、スイッチを動かしていることを確認する……やはり、点かない。


 壊されているのか、それとも放置されているからなのかは分からないが、どうやら照明は役に立たないようだ。それが分かったイシュタリアは、静かに掌を掲げた。



「……光よ、私を照らすのじゃ」



 その言葉と共に、ホワッと光球がイシュタリアの頭上に生まれる。温かい光が、室内を照らす……露わになった室内の惨状に、後ろから様子を伺っていたマリーは息を呑んだ。


 倉庫部屋の中は、どこにでもありそうな普通の部屋である。規則的に立ち並んだ棚には、備品と思われるモノがいくつも並べられていた。使用されていないテーブルや掃除道具が部屋の隅で置かれているのが見える。


 しかし、マリーが驚いたのはそこではない。マリーの視線を惹きつけたのは、床の至る所に転がった……備蓄されていた食べ物の残骸であった。


 じゃがいも、玉ねぎ、にんじん、ジャム、小麦粉、飲料水、その他諸々の残骸を、マリーは一つ一つ手に取っていく。しゃがんで、小麦粉と水が混ざり合って汚れた床に指を這わせる……べっとりと、指先が汚れた。


 ネズミに齧られた……にしては、転がっている全ての食材の損傷が激しく、規則的だ。それに加えて、よく見れば齧られた部分がわずかに濡れている……おそらく、亜人の唾液だろうか。



「これって、亜人がやったのか?」



 切り口というか、噛み口と見るべきか。どう見ても齧られたとしか思えない断面を見て、マリーはイシュタリアを見上げた。



「ネズミでなければ、そうじゃろうな」

「なんでわざわざこんなことを……」

「腹が減っているからに決まっておろう」



 ズバッと、イシュタリアは言い切った。



「空腹も極限に達すれば、もはや飢餓じゃ。食べられそうなものなら、それが何であろうと口に放り込まずにはいられんのじゃろう」



 そう言うと、イシュタリアは歩き出した。慌てて、マリーもその後を追う。倉庫に使っているとあって、部屋の中はそれなりに広い……が、それでも部屋は部屋だ。


 目的の亜人は、すぐに見つかった。場所は、入口からは死角となっている、部屋の隅。


 積まれた道具と棚によって出来た空間に……蹲っている亜人の姿が有った。情報通り、足には鱗が生えていて、丸出しになった臀部からは野太いトカゲの尻尾がべたりと生えている。



 ……こちらに背中を向ける様にして蹲っているので、顔は見えない。



 背中全体を覆い隠すようにして縮こまっている翼は確かに亜人の証だが、『人間の形』というだけあって、頭には人間の女性と同じような長い髪が伸びていた。


 ナイフのように尖った耳と四本の立派な角がなければ、後ろ姿は人間に見えなくもない。時折ポロリと明かりの中に零れ落ちる食べ物の残骸と、ハフハフと聞こえてくる息遣いを考えると……食事をしているようであった。



(これが……亜人、なのか?)



 初めて亜人の姿をその目で確認したマリーは……言葉が出なかった。それは、亜人の存在に恐怖を覚えたわけでもなければ、未知との遭遇に興奮を覚えたわけでもない。


 ただただ、眼下の亜人が哀れでならなかったのだ。


 次の瞬間、振り返った亜人に襲い掛かられる可能性があるにも関わらず……マリーは、目の前の亜人を不憫に思った。そういうモノの味方は嫌いだが、そう思わずにはいられなかった。


 食糧とはいえ、ここに置いてあるものは、基本的には何の調理もされていない物ばかりだ。じゃがいもは乾いた泥がこびり付いているし、玉ねぎだって皮と泥が付いている。


 水で洗ったにしても、美味しいとは言えない状態だ。イシュタリアの言葉を信じるのであれば、それでも食べずにはいられないぐらいに……目の前の亜人は飢えていたということになる。


 まるで、路地裏に住む孤児たちみたいだと、マリーは思った。



(……こいつ……)



 後ろに居るマリーたちの存在には、気が付いているはずだ。


 明かりが亜人の背中を照らしているし、なにより足音はしっかり響いていた。いくら夢中になっているとしても、外敵の存在には神経を尖らせているはずである。


 それでも食事を続けているということは、単純にマリーたちを敵と思っていないか、もしくは……空腹のあまり、食べるのを止められないか……そのどちらかだ。


 ……さて、どうするべきか。


 亜人の情報などほとんど持ち合わせていないマリーでは、判断が付かない。そう思ってマリーがイシュタリアを見やると、イシュタリアは……何とも言えない表情で、ふう、とため息を吐いていた。



「そこの竜人ドラゴニア。少し食べるのを中断して、こっちを向くのじゃ」


 ――竜人(ドラゴニア)。



 それが、亜人の正体であり、名前なのだろうか。内心で首を傾げるマリーを他所に、イシュタリアの一言で、亜人はピタリと動きを止めた。


 それを見て、イシュタリアは傍に有った木箱に腰を下ろした。



「別に、取って食ったりはせぬ。私の記憶の中では、お主たちはとおの昔に絶滅したとあるからのう。かつては至る所で見かけることが出来たご友人の顔を、こうして見に来たわけじゃ」



 ……へえ、昔はけっこういたのか。実際の当時を知るイシュタリアの口から発せられた事実に、マリーは目を瞬かせる。


 ゴトン、と、齧られたジャガイモが明かりの中を転がった。亜人の手元から零れ落ちたものだった。



「……ゆう、じん……だと?」



 亜人が喋った。それも、人の言葉を。女性に見えなくもないと思っていた亜人の口から零れた声色は、若々しい女性のソレと同じであった。



「貴様ら人間が……我らを友人と呼ぶのか……!」



 ギリギリと、軋む音が聞こえた。それが食いしばった歯ぎしりの音であることにマリーが思い至った時、亜人は既に振り返っていた。露わになった亜人の顔に……マリーは息を呑んだ。


 頬骨がくっきりと浮かんだ女性の顔。初見での印象は、まさしくそれであった。鱗と耳と角が無かったら勘違いしてしまうぐらい……亜人の顔は、人間とよく似ていた。



「人間どもが……我らを友人とほざくのか! 貴様ら人間が!」



 骸骨が睨んでいる。窪んだ頬のせいだろうが、そう錯覚してしまうぐらいの迫力が、亜人にはあった。



「その人間の食糧を漁っているお主は、はて、なんであろうのう。ネズミか、はたまたネコか……あるいは、そこらを這っているトカゲかな?」

「――き、貴様……死にたいよう……だな……う、くぅ……」



 ピクピクとこめかみを痙攣させた亜人が、ゆっくりと立ち上がる……が、すぐに力尽きたように膝をつくと、腹部を押さえて蹲った。


 ぎゅるるるる……部屋中に轟いたかと思える程の、腹の音。その出所は、考えるまでもない。


 とはいえ、あまりの大合唱にマリーはしばし目を瞬かせる。その隣で、イシュタリアははっきりと苦笑の表情を浮かべた。







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