5night


「話はこれくらいだ。そろそろ幹部が来る。楽に、普通にしてていからな。」


お兄さんの言葉に返事をしたとき、後ろの扉が開き一人、室内に入ってきた。


「ミッド、ちゃんと連れて帰ったぜ。紹介する。」


お兄さんが扉の方へ向かって語りかけ、扉が開くのを待つ。中から出てきた男の人はお兄さんに一礼して、そのまま退席。んー、誰?

わけもなく男性の後ろ姿を眺める。そんなに強くなさそうだけど、所作が綺麗。執事さん?


「うーわっ。まさかお前にこんな趣味があったんか。マジか笑うわ。そうか、ショタ派か。俺もいささかビックリやわ。」


部屋の奥から聞こえてきたひょうきん声。

今、真後ろに、リデスの幹部がいる。ただそれだけの事実に俺は心が舞い上がってしまう。


「おい、はしゃぐな。」


気持ちが出てしまったかな、シグマに注意される始末だ。大丈夫、こんな所で私情で失敗なんてしないよ。ワクワクとしたただの一少年の皮を被る。


「だってこの部屋広いんだもん!」


いかにも子供が言いそうな言葉を言い放って、ウインクすれば、シグマは笑う。それはそれは気持ち悪そうに。

さあ、自己紹介の時間だ。


「俺はアサ。15歳だ。南のスラムからそこのテペロに唆されて来た。実はあともう2人来ているんだが、1人テペロの運転で気分が悪くなったみたいでな。医療室に連れていってもらった。」


「俺はクロだよ。15歳!お兄さん、不思議な目の色してるね、左目の方は右目に比べて薄いね!灰色だ!自慢はこの目の色なんだ!お兄さん、この目の色、好き?」


俺は笑顔で問う。薄緑のこの偽物の瞳を輝かせて。


「ああ、俺はリデス幹部のミッドや。この顔でも歳は27なんだわ。あとおい、テペロ早速新人を医務室送りになんて、アホか!お前運転荒いかんな!」


それは、お兄さんに悪いところは一つもありません。運転荒くても、本当は全然大丈夫!ちょっとゲスなうちのリーダーが…。


「で、俺のこの目は昔のヘマの結果でな。いやあ、あの頃は若かった!にしても、お前ら、二人揃って珍しいやん。その髪色に瞳の色、希少価値の高いやつやん?いかしてんね?」


そりゃあそうだろう。シグマとデルタの青系統の髪色も、俺とゼータの瞳の色も、施設にはもちろんいなかったから。俺もこの瞳の色には家族以外会ったことが無い。

そして幹部が思いのほかチャラい。


「やけどな、俺は残念ながらその目の色は苦手やな。すまんが、やーな思い出があるんやわ〜寸分狂わずその色に。」


ピッと俺の顔を指さす幹部。そうだろうよ。


「あんたでも苦い思い出とかあるんだな、なんでも新人時代から難なくクリアって感じかと思ってたが。」


テペロが感嘆している。ミッド、というのは凄い立場の人なんだ、ってあっけらかんと思う。


「あ?俺の髪色、スラムに結構いたぜ。そんな珍しくないだろ。」


サラッと嘘をつくシグマ。その髪色はいわく付きだからかな。スラムの血、種族ってことにまとめたいのか、うんうん、シグマにしてはいいんじゃない?


「そうだね!青系統は何人かいたね!みんな…死んじゃったけどさ。」


「へぇ〜俺がスラムにテペロ勧誘しに行った時は結構人がいたと思ってたんやけどな、…なに、もしかして宇宙人でも来てかっさらってた感じ?」


謎の思考に戸惑うシグマを見て俺は笑いをこらえる。そして俺はシグマにつま先を踏まれている。痛い。


「…水に毒が入ってたみたいで、朝、水を汲みに行って飲んだ人からバタバタ倒れて行った。疑い無く水を飲めば俺達も死んでた。」


水に入っていた毒は即効性。俺とゼータで試行錯誤して作った試作品の効能はバッチリだった。


「原因分かってたのか。にしても、なんでお前らは助かったんだ?」


テペロが俺に問う。そりゃあ毒を入れた本人だから水を飲むはずがないし、生きてるに決まってる、なんては言えないから。


「俺達、水は川派だったからなー!毒があったのはスラム中心のでっかい井戸の中みたい。エレメント?の人に見つかったのも川って言ったじゃん!もお、俺の話聞いてたのお兄さん!?」


心外だ!っていう表面上の演技をして、それとなく「エレメント」の名前を出す。幹部さんはどう食いつくかな?

シグマが微妙な顔してる。ふふん、俺は仕事が早いんです。


「おおっと、クロくん。今なんつった?エレメントのやつを知ってんのか?」


目の色が変わったな。怖いなあもう。そんな目されたら、困るなぁ?心の何かが疼いちゃうじゃん。


「一年前にエレメント副幹部とその愛人カズと新人逃走したことあっただろ。こいつらのいるスラムに行ったらしい。んで、見事返り討ち。」


「そー!そー!人が水を汲みに行ってるのにさあ!酷くない?もー!」


そうそう、本当にびっくりしたよ。知らない足音が聞こえるし、なんか気配とかを消すのに手練た感じなのも分かったし。あと、ちょっと聞き捨てならないことが聞こえた気がしたけど、いいや。


「うるせぇクロ」


んー、ありがとう偽りの定番のツッコミ。


「アイツ、根は優しいとかいう腐った根性してたからな。いたいけな少年への油断で負けたんやろ。ハハッ、ダセェー死に方やんな」


幹部さん、結構ひどいこと言うね。

身内にだけにしか愛は注ぎませんタイプか。敵には慈悲がない感じ。んー、俺たちと一緒。


「あと二人は、別の機会に紹介する。俺の隊に入れたいんだが、いいか?」


そうお兄さんが問う。すっごい真面目な顔をして。


「いや、カズ殺るくらいなら十分すぎるんちゃうか。好きにしーや。まあ、あの濃いメンバーに馴染むのは、ちぃっと大変かもな。この可愛い子たちじゃあな。」


濃いメンバー?それって


「臓器売買?」

「快楽殺人者とかか?」

「いやなんでだよ」


鋭いツッコミ。お兄さんかなりツッコミスキル上がったね


「この子達もぶっ飛んでるから良さそうやな!ハハッいいな。次の任務から直ぐに参加させーや。クロくん、アサくん、この一匹狼をよろしくな。」


「おう」

「はーい」


俺達が裏切らない確証もないのに、当たり前のように入隊を許す。リデスにしっかり溶け込むのはもっと至難の業と思っていたけど…。

なんか絶対、裏がある。気をつけないと。


「俺、シロの様子見てくる。ミッドこいつらを頼むわ。」


「おうおう任せーや。」


本当にゼータのことをお兄さんは心配してくれてるんだな。なんか、今までそんなことなかったから逆に変な感じ。実はとっても元気ゼータはデルタと何をしてるんだろう。

あと、幹部は俺たちを見てテストを実施せずに殺伐隊への入隊許可を出した。いくらエレメントの奴を倒しててもさ、得意分野くらい調べるんじゃないの?もしかしてここ、結構ゆるい?


「テペロが行ったところで、君たちのちょっとした能力を図らせてもらおうかな。」


あ、結局やるんだ。


「なになに?」


どんなテストするの?俺楽しみ。間違えて幹部さん殺しちゃいそー!目をキラキラさせていると


「キメェ…」


とシグマに言われた。あのね、俺だって好きでこんなにハイテンションじゃないの。全てはリーダーのせいだから。


「テペロの相棒ポジションだから、死んでもらったら困るねんな。得意なことあるか?」


そっか、相棒ポジションだけど、力になる的な期待はあまりされてないのか。それは困るなあ。


「俺は、武器とか使ったことないけど、薬草系得意よ!例えば、はい。これ、あげる。」


武器は施設の時にバリバリ使ってましたけれども。古風なナイフと銃の二刀流。

まあ、そんなことは今はどうでもいい過去。とりあえず幹部には、小さな小瓶を渡す。


「中の液体、怪我しちゃってもいい皮膚にかけて見て。それ薄めてるから結構大丈夫!でも、ちょっとだけだよ?」


クサノオウの乳液を渡す。乾燥させれば怪我を治す。煎じて飲めば胃痛にもいい。すっごくいい薬草。ただ、何もしなかったら、死んじゃう毒草だけどね。


「お?これか?よーしよし。任せろ。利き手じゃないところで、ちょっと掛けてみるか。」


おー、ここら辺にかけてみるか。と腕をまくって大量にかける幹部。待って、いくら薄めてるからってそれはダメ!跡残っちゃう!


「あー!ちょっとって言ったのに!アサ!」


「あーあ。このソファのタオル借りるぜ。」


ダリィと言わんばかりのシグマ。タオルを取りに行くこと、そして、なぜわざとそんな行為に出たかを考えないといけないことが、面倒、なんだね。


「そんな慌てんなってよ。そんなえげつないことになるわけないや…あれ、爛れてきた。」


あれ、じゃない。幹部なのに危機感はどこ?家出でもしちゃった?図っているんじゃないわけ?


「おい、これでまず拭け。」


「塗り薬…あげる。お兄さんもそうだけどさ!なんで人の言ったこと聞いてくんないの!」


タオルで腕を抑えて、すげぇ!やべぇな!と騒ぐ幹部。これで俺たちより一回り上の人とは思えないけど。


「クロ、お前やばいな!すげぇな!うちの奴はこういう知識ねぇんだわ。武力系、ネットワーク系でもう十分強いと思ってたんやけどな…。新しい視点入るのもいいな!気に入った!」


気に入られまして光栄です。武力にはシグマ、ネットワーク系はゼータ、戦略系はデルタ、そして俺が薬草系ファイ。4人まとめてお買い得ですよ?


「こいつはそれしか出来ねぇけどな。」


んー、シグマ。それだけだったら俺貶されて終わってるから!なんか!なんかフォロー!


「んん、俺はちょっと、ちょっとだけ馬鹿だけど、シロは言葉が上手いよ!スラムの時にね、人さらいが目的で来た人を逆に油断させて殺しちゃったりしてる!」


懐かしいなあ。そんなこともあった。あと、ゼータがネットワークできる…っていうのは、使ったことない前提だから言えない。当分先だなあ。


「で、ヨルが頭がいいな。本当に。で、俺は、武力か?試してみてもらっていいか。対戦相手はいねぇから。」


うわあ、幹部の腕を測るんだ。いつからそんな策士になったんだよ。


「いや、遠慮しとくわ。お前さんの体格見りゃあ、逸材なのは分かる。多分、殺伐隊でもトップ層だぞ。元からあれは人が少ないけどな。」


「そうか。よかった。」


んー、上手く交わされちゃったわけか。


「あ、にしても幹部さんの目の色の変化って、もしかしてそれも薬草かな!?視力とかどうなってるの!?」


俺が、勝手にシフトチェンジするのみじゃん。

俺とゼータがとーっても知りたい話にさ。


「あーこれか!多分そうだな!聞くか?話。」


とても聞きたい話題。これから大事な逸話になるからね。


「教えてよ!ミッドさん!」

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シナリオ The rest of lives of red eyes タナカ @miyaizuki

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