4night


一週間後


「お前ら準備出来たか?行くぞ」


そう言って俺が車を出す。これから行くのは組織の本部。アイツらを引き取って1週間。それなりにこっちの生活も慣れたようだ。緊張しているのか、幹部のことを聞いてくる。


「テペロさん、幹部さんってどんな人ですか?怖いくて変人?支配者?それとも…嗜好が残忍?」


「俺なんかミスしたら殺されちゃう?こわー!」


なんでそういう思考回路になるのか。まあ、確かに俺を見た時に臓器売買の人だと思ったようだから頷けるが、もっと、楽観的思考があってもいいと思うぞ。


「幹部は、怖いというかすごい面白い人だぞ。俺をスカウトした人でもある。仲間を殺すほど落ちぶれたやつじゃねぇよ。まあ、裏切り者は別だったが。」


「ふむ。ところで、」


テペロもなかなか面白いやつだぞ。と呟くデルタ。そう言うお前もなかなか面白いやつだと俺は思う。


「ちなみに俺のことを、銃の扱いとか身のこなしが上手い、と言って殺伐隊に入れた張本人だ。」


懐かしい記憶だ。あの時、不審者の幹部を殺すつもりで、食ってかかったからな。


「観察眼と未来視ができる人なんですね。」


凄いな~と感嘆するゼータ。俺にとっては、お前のその謎の落ち着きが凄いな。


「そうだな、ところでお前ら得意分野あるのか?こういう組織系でな」


「俺は、薬草よく知ってるよ!」

「僕は…器用ってくらいかなあ…」


「おい、俺に銃身向けたやつが何を言ってる?」


俺は忘れてないぞ、シロのあの感情掴めない顔で、俺を殺そうとしていたことを。


「あっ…。あれは、火事場の馬鹿力です。」


まぁ、普通の時のシロを見る限り、箱入り娘だな。


「俺は頭がいい」


「俺は、この中じゃ、身体能力は高い方だ。」


クロが薬草か、きちんと錠剤がないからこそ、スラムで培われる知識だな。俺は知らないが。だが、


「前から気になっていたが、ヨルの頭がいいってなんなんだ?」


「数値化すればIQは210だ。」


ほお、飛んだ茶化しじゃないか。人間のIQが200を超えるはずがない、それも210とは。


「…それは凄いな?」


「だろう?俺は頭だけはいいからな。ほか全部は3人に劣るのだがな!」


とりあえずの頷きに、自慢げのデルタ。そして謎の自虐をはじめた。それはそれは嬉しそうに、


「ちぇっ、俺と15しか変わらないくせに!」

「結構大きよそれは、と言っても僕は20違うけどね。」

「俺は50だぞシロ。160しかない。ただの普通だ。」


高度な話だ。ん、待て。待てよ?

「お前ら、なんでIQなんて言葉知ってんだ?図る所もねぇだろスラムには」


「本に書いてあったよ?」


ヨルの荷物を漁り、何かを探し出すクロ。


「この前、臓器売買のために来たおじさん達が持っていた本とか、手記に書いてあったよ。」


「見るか?なんか、エレメントって書いてあってぞ。元素が好きなやつなのか?俺も好きだ。」


そっちじゃない、こっちだ、と言ってクロのカバンから何かを取り出すヨル。エレメントと聞こえたのは俺の空耳か。


「待て今なんて言った?」

「元素が好きだ」

「ちげぇその前だ」

「エレメントのこと?元素じゃん。」


エレメントという組織を知らないクロ達にとっての何気ないものでも、実際にはかなりの功績だぞ。


「…組織本部に着いたらそれ見せろ。」

「いいけど~。なんでお兄さんそんなに怒っちゃってるの。俺達なんかしちゃった?」

「…ご、ごめんなさい?」


つい興奮してしまったか、クロシロが落ち込んでいる。


「いや、逆だ。すごいぞお前ら。昨日言ってたもう二つのうちの、一つの組織がエレメントで、それは…サイン的にエレメントのトップの方のやつらのものだな 。」


手記の表紙の右端の銀の刺繍。これは、明らかに下っ端の奴らのものじゃない。


「え?お兄さん、顔と心が一致し無さすぎでしょ!めっちゃしかめっ面。」

「ねぇ、元素の副幹部って、水素かな、酸素かな?やっぱりケイ素?カリホルニウムとか??」

「俺はリチウムが好きだぞ。炎色反応で発生する紅色は美しい。あの灰色から生み出されるとは思いがたい赤だからな。」


こいつらの今までの謎の防犯知識量はエレメントの手記からだったらしい。あと、元からの才能だろう。


「お前ら、いつその臓器売買の奴らが来たんだ」


今この4人が生き残っているということは、エレメント側は死んでいる、ということで確定だ。きっとエレメント側では失踪という形になっているはず、そいつらの名前はどれだけ下っ端でも、リデスに知れ渡っているからな。幹部に会う前に特定しておこう。


「1年前の夏場に3人来た。」

「いや、あの時はシロの覚醒がやばかったな」

「だってクロが」

「えっ!俺のせいは酷くない!?」

「まさかシロがあんな本性を持っていたとはな。」


やれやれと言わんばかりのヨルの声。ただ、1年前に3人というクロの言葉に、俺は動揺して何も返せない。確かにエレメントから1年前に3人失踪した。ただ、それはエレメント副幹部とその片腕と新人。いえば、手強い手練2人と優秀な新人1人。

は今からちょうど一年前は、その3人しかいない。


「何があったんだ去年」


訓練された3人と、言い方は悪いが素人4人だぞ?いくら才能があるからって。


「どうってことねぇことだぞ…?まず、俺とヨルがシロに頼まれて畑に野菜取りに行ってたんだ。そうしたら遠くから3人の大人が歩いてくるのが見えた、ちょっと前に伝染病が流行って絶滅した場所に来るような奴らじゃなかったからな、とりあえず引き返した」


「そしてだな、家に戻ればなんという事だ。シロしかいない。クロは近くの川へ水を組みに行っていたのだ!ああ、大変大変。」


「おい!俺の不幸を喜ぶなよ!水組んでたら知らない足音がしてびっくりしたんだからな!え、誰っ?て。とりあえず、木の上に上がって、そいつが銃持ってたから、ビックリして殺しちゃった…っていう」


ゴメンね、銀髪のお兄さん…と落ち込むクロ。


「は?」


文脈が、おかしい。バカ笑いして、しょんぼりするガキの口から出てきたとは思えない。


「あー!お兄さんまで馬鹿にする!一応反省してるんだよ!俺だってなんか、もうちょっと話とかさ聞いてから殺めるべきだったのに。びっくりして。」


いやいや、そういう問題じゃねぇよ。多分クロの方へ向かったのは副幹部の片腕のカズだな。そもそも副幹部の片腕とも謳われるやつがそんな簡単に殺される…?


「だから俺達のいた家に来たのは2人。1人差し出せば、ほか2人は命だけは助けてやるって巫山戯たこと言いやがってたな。」


いや、何でだよって話だろ。とアサが言う。


「そもそも1人差し出す理由も僕たちにはないから、大喧嘩しちゃったよね。」


あれは疲れちゃったよ、とため息をつくシロ。


「俺達はクロみたいに間抜けじゃねぇから、どちらか1人気絶させるっていう風にしようとしたぞ。話は聞かないといけねぇからな。」

「…うぬぬぬ」


アサがクロをみて笑っている。確かに、敵襲が来れば、1人は拘束して拷問にかける。ただ、その思考回路を当たり前のように14、5のやつがやったのか。俺の知らないうちにスラムは凄くなっているようだな。

思考を放棄したい。


「そしてだな、ここからが俺達の中の本番。血だらけのクロが、銀髪の男を引きずりながら帰ってきてだな。しょんぼりしながらな。それを見た俺の前にいた男が、カズ!!って絶叫してだな、クロに飛び掛ったんだ。あまりの素早さにアサも動けなかったな。大人は凄いな。」


そいつは、副幹部だな。あいつはカズをそれはそれは大事に育ててたからな。俺にとっては興味関心はねぇが。あと、感嘆してるがクロの命危ないぞ?それ。


「クロがやばいと思ったらシロの覚醒

『ねぇ、(ファイに)何しようとしてるの?』」


あれは凄かったな。持ってた小瓶を一直線で、首元に投げて、瓶が割れて液体がかかったと思えば、クロが火をつけて蹴り出すんだぜ。何事だよ、と笑うアサ。

そうか、何を言ってるのか俺は理解ができない。


「しばらくしたら外から爆発音、とりあえずシロのことだから、カッとなって殺したと思ってな。とりあえず、家に残ってるやつをそのまま気絶させたわけだ。」


どうだ、大したことないだろ?そう含みのある笑顔で尋ねてくるヨル。

どこをどう聞いてそう思うと思ったのか。


「それ、同じ話を幹部にもしてくれ。」


その一言だけ行って、運転に集中する。異次元すぎて話にならないとは、このことか。

火の周りを良くするといえばアルコール類?だが、こいつらがそんなもの持っているか…?

何をしたんだ…って深く考えれば車が事故りそうだからヤメダ、ヤメ。ああ、レンガの街並みが綺麗だな。

アイツらの話は飲み込めてないが、とりあえず車を走らせる。


「あの、テペロさん、 1個いいですか?」


「おお、なんだ?」


トイレか?


「なんか、車って揺れて、なんか、頭がぐるぐるしてるんですけど、どうしたらいいですか?」


…おお、それは大変まずい。シロの顔は青白くなっている。正真正銘、車酔いだ。


「後、、10分くらいで着くから、我慢してくれ、そいつはどうにもならねぇやつだ」


すまない、シロ。俺は運転が荒い…。

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リデス本部


「おい、着いたぞ。降りろ。」


そうテペロが言う。言われた通り降りて、本部がデカーッ!って叫ぶファイをはたく。お前本当にいつもの倍はうぜぇし、こんなガキではねぇ。

本部は4階建ての鉄鋼造り。まあ、よくある会社だな。住居はレンガ造りが多かったが、都市部に来れば摩天楼だった。いつの間に発達してたんだ。

デルタは車酔いした設定のゼータを介抱してる。何かをするつもりなんだろう。確かに、俺たちには時間がないからな、最後の本当の自由を掴むためには、今を早く終わらせねぇとな。


「なあ、リーダー、俺達は元気だぞ。だからシロに集中してやってくれ、手記の話も俺がするから」

だから、デルタとゼータは好きに動け。と暗喩して伝える。


「お前らが元気なら良かった。俺はシロを治す。なんせ、俺はリーダーだからな!クロを頼んだぞ。」


それは嫌だ、と言ってファイの方へ行く。街やべーー!と叫ぶファイをはたく。お前はガキか。演技上オーバーリアクションみたいにしてるだろうがな。そんなにはしゃいで疲れても知らねぇぞ。確かに施設では、こんな色とりどりな家屋なんぞ見る機会は無いからな。


「この前も連れてってもらっただろうが。静かにアイツについて行け」


そう一言言えば、へーいと言って大人しくなるファイ。偶に素に戻る時の高低差がコイツは凄いな。基本元から騒がしやつだが。施設では「静」が掟だったからな。騒がしいの定義が違うよな。

ドアを開け、受付でテペロが何かを入力する。すると鍵が出てきた。高セキュリティ?だな。

テペロについて行けば、行き止まりの壁。


「謎解きタイム。俺は、これから何をするでしょうか。クロ。」


そう問いかけるテペロ。絶対分からないと思ってんだろうな。クロが目をパッチリ開いてる。出来ないだろうってバカにされていることちょっと怒ってるな。


「鍵、貸して。」


そう言って壁のランプに鍵をはめ込む。

キーボードが出てくる。

おい、調子乗ってパスワードは入れるなよ。


「お兄さん交代。これくらい分かるもん。壁の奥にあると見せかけてるんでしょ?でも、さっき見た外観的に本当にここで行き止まり。じゃあ、どこにあるの?地下!」

 

まあな、明らかな事だったな。


「…。そんな、分かりやすいか?これ。」


なんとも言えない表情をするとテペロ。助けを求めて俺に話しかけてきたのか。


「俺でも簡単に分かる。地下以外ないだろ。ワープとかしない限り。」


「そうか。…着いてこい。」


そのまま、キーボードに入力して、エレベーターが出現して、下の階へ行く。そのまま幹部室、という場所まで導かれた。


「…大層でかい組織で部屋だな。つぅーか、ここら辺の街は急に栄えてんな。何でだ?国がぶっ壊れたんじゃなかったのか?」


戦争したんだったらこんな復興早いわけじゃねぇだろ?と問いかける。戦争してないことは知ってる。


「ああ、この国は今な、リデスとエレメントの2つの国に分かれてるみたいなもんだ、ただ、正式な国でも統制者でもない。だがな、この街の人にとってはここが街でリデスのドンが王様でエレメントを倒したいと思ってる仲間だ。」


「ねぇねぇ!お兄さん、前の王様はどうなったの?」


茶々いれが上手いなお前。まあ、問い掛けと答えは違ったがな。


「それは昔な、エレメントとリデスのドンが仲良かった時にな、元王族一家とその従者を殲滅したって言う話だ。戦争ではねぇ。反逆だ。俺もよく知らねぇんだ。すまねぇな。ただ、王族一家が反逆されるようなことをしていたかって言われればそうじゃないらしい。ドンの口が上手くて周りが騙されて、っていう逸話を俺は聞いたぞ。実際、王族一家とドン達に何があったのか、これは誰も知らねぇ。その話は、俺はあんまり好きじゃないんだ。」


へぇ、そうなんだね。ありがとう!お兄さんはあんまり関係ないみたいだね。こちらを向いてそう言うファイ。ああ、そりゃあ関係ねぇわ。


「8年前って聞いたぞ。」


こいつその時まだ、スラムだ。俺がそう言えば、確かにそうだね、まだ13歳か!と、ファイが笑う。


「エレメントの手記に書いてなかったのか?」


「いーや!なんか、リデスの期待の新人さんが、王族一家の従者一家を惨殺したってあったくらい!エレメントも新人を育てなければならぬっ!ってね、」


いや、お前それ笑顔で言うことじゃねぇぞ。

多分その新人、今の幹部だな。新人時代から偉業なしとげてるのか。そりゃあ最年少で幹部になるわけだ。ど、言われる。今の両組織の人材は最高峰か。


「話はこれくらいだ。そろそろ幹部が来る。楽に、普通にしてていからな。」


「おう」

「分かった!」


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