3night

テペロが地下から去った後、デルタは他3人に目配せをした。自分たちはこれから寝るということになっている。不自然な話し声や無駄な音を立てれば不審に思われる。もちろん、おおっぴろげに話すつもりは毛頭ない。最大でもあと、十分以内に静かになりきる必要があるだろう。ただ、この時間は稀に見るチャンスだ。2人用ベットに転がるファイとシグマを見て、自分の横にいるゼータを見て、


「クロ」


そう一言、声をかける。勿論、声は出ていないが。ファイは読唇術で意味を汲み取り、デルタにウィンクをする。…それは余計だ。


「シロ!明日の朝ごはん何!?」

「んー、今日の残り物のアレンジくらいしか出来ないかなあ…あまり食料を持ってこれるわけじゃないし。植物系の種は持ってきたけど」

「十分!さすがシロ!自分たちの手作り野菜がやっぱり一番だよね!!」


二人とも、いつもより少し小さく声を出す。会話が無ければ電気をつけている理由がない。差し障りのない会話を二人で行う。ゼータとデルタの行動音(移動)をかき消すには十分で、なおかつ不自然ではないように。 何一つ疑われないように。

ファイ達は会話を続けながら、ゼータ達はファイ達のベットに乗り込んで、4人独自の(施設の)手話を始める。


(まさか僕達が出向く前に、迎えが来るなんて思ってなかったよ。)

だって国最南部のただのスラム街だよ?、と困惑顔を浮かべるゼータ。


(俺なんてお兄さんのこと殺す気だったのにさ、口から出てきたことが衝撃的すぎてビックリしたわ。)

あの時みたいな臓器売買じゃなくて?って、と呆れ顔をするファイ。


(ゼータもな。銃にリデスの象徴の紋章があってびっくりしてただろ。)

俺もびっくりしたけどな、とゼータを見て少し笑うシグマ。


(さすがシグマ。そうなんだよね、表情に出そうだったから、首傾げて前髪で隠すっていう浅はかな行動に出たんだけど…杞憂だったみたい。)

良かった、不審がられなくて、と。


(でも、どうするんだ?これから。シナリオ崩れすぎだろ。書き換え頑張らねぇとやばくねぇか?)

最大の問題を提示するシグマ。その発言に、デルタが答える。


(計画が5ヶ月前倒しになっただけだ。ただ、シグマの言う通りシナリオは大分違うな、いくら同時でなくとも一定期間に、4人の異端児が組織入りしてスパイかと疑われることも無い。そして、権力の持つ奴に取り入る必要性はないが…)

予想外な出来事にはメリットもデメリットも付き物だ。


(まず、準備が整っていない中の出発だったからな、本当に最低限しか持ってこれなかったぞ。)

下準備ががた崩れだと、示すシグマ。


(まあ、持ってこれたもののうち、試作品が実行できてるのが二つしかないけど、毒は僕とファイのお得意家業だから、こっちでもなんとか作るよ。)

任せて、とゼータとファイが笑う。


(そうだな。頼んだぞ。

ただ、1人でリデスのメンバーを返り討ち!?期待の不思議ダーク系クール新人!

で行こうと思ってたのだが、これは無理だな。)

残念そうな顔をするデルタ。


(デルタはそのシナリオ気に入ってたよね。組織入りは僕とデルタだけで、二人は補佐の予定だったから。多分、僕達は期待の超仲良し新人4人になるよ。ファイが、元気ハツラツ少年。元から元気なタイプだけど、そんな二十四時間バカ騒ぎってタイプでもないからね。僕は、敬語かでお淑やか。淑女のような振る舞いって、なかなか無理があるんだけど。できないわけじゃないけど…。)

だんだん本性に戻していくのも無理そうだよね。と諦めた顔のゼータ。


(シグマはThe思春期男子。デルタはしっかり者?のリーダー。ねぇ、2人ズルくない?)

抗議!と言うファイ。


(俺がゼータみたいなことしてみろ。お前確実に笑い転げるだろ。)

わざとキラキラとした目を作るデルタを見て、嫌がるファイ。


(だって、俺、車見てもあんな反応しないんだわ。へぇ〜車じゃん、で終わるよ!ゾワっとしたわゾワッと。)

腹黒系のうるさいのは純粋系のうるさいのが一番苦手なんですー!と示すファイ。


(ゼータも可愛かったな。どこからあの優しい声が出るんだ?)

いつもはこの4人で1番の腹黒さを誇るのにな、と示すデルタ。その哀れな男に悟った眼を向ける二人。


(声帯からですけれども何か?)


(…。すまない。)

ゼータの威圧感に臆するデルタ。


(何か??)

(すまない)


(殺伐隊には入れそうだけど…こんな適当に選んだ少年たちは先鋭に入れるかな。まだ僕達は殺しも知らない純粋な少年でしょ?まあ、出会い頭のことは大分なことしたけど。)

話を変えるゼータ。


(待ってゼータ。それには無理がある。シグマとデルタは純粋じゃない。どう見てもさ。)

真顔で語るファイ。


(ファイそれはどういう意味だ?)

心外だと言わんばかりの顔つきのシグマ。


(え、心に悪魔を飼ってて、精神年齢はおじさ)

(あ?)

(すみません。俺たちとっても期待の超仲良しピュアピュアホワイトな新人4人です)

茶番は終われ、とファイをはたくデルタ。


(どうにかしても、先鋭には入る。ゼータの言うように、出会い頭のことがあるからな。結構アイツ気にしている素振りがあったしな。素質がある、でいけると俺は思うのだが。手記のこともあるしな)


なんで俺だけ!!と声に出して喚くファイは無視だ。上っ面の会話ではクロは駄々っ子という話になっている。ナイスタイミングだ。


(そもそも目が離されている隙に、出来ることも多いんじゃねぇか。俺達はシナリオと違って、堂々と初めから4人でいられることだし。ま、好き勝手行動し続けられる人間はいないがな。)

提案をするシグマ。


(ちょっとずつ、天性のものと思われるだろう本当は施設で作られたこの強さを出していけば…)


(最終的にはいい立ち位置に入り込めるってわけね。)

ゼータが笑顔で示す。


(実力面は、相手から提示された課題を全て期待以上にこなす、という感じにする)


(了解!)

(分かったよ)

(おう、で、幹部との面会はどうするんだ?)

目先の話題にデルタは考える。


(…そうだな。その日は、早速テストが行われると俺は踏んでいるのだが)

どう思う?と返答を求めるデルタ


(そうだね、受け答えから身のこなしまで全部、見られそうだよ。きっと蛇みたいにじ~っくりと、ね。カエルになっちゃダメだよね、デルタ?)

(どうすればいいんだ我らがリーダー様。俺達の動きは、デルタが自由にしていいんだぜ?)

(俺達はリーダーの思いのままに動くよ。心根を読む呪いのようにね?)


(なんでそう、意地悪をするんだ)


(((楽しいから)))


(さっきも言ったように全部平均以上をしろ。そのうち一部は通常の求められる3倍を、ゼータは薬草系統の知識、ファイは巧みな会話術、シグマは武器の扱い、俺は作戦立てだけを重点的にする。ファイは…会話は無理だな、あの性格じゃ。)


(誰かさんのせいで、俺ほんとうにただのガキなんだけどさ。ガキに出来ることは習慣ついてる薬草の方がいいんじゃない?)

ファイが提案する。


(じゃあ、僕とファイはセットってことにしようか。基本ベースは似ているけど、僕はデルタ側、ファイはシグマ側の所を2倍って所でどう?)


(確かに、俺たち全員が異端児だったら、疑いがかかりそうだな。普通、ただのスラムから拾ってきた少年4人はそんな力持ってねぇからな。俺たちの情報に南施設関係者が目をつけたらバレるだろ。)

薬草特化2人、戦闘特化1人、戦術特化1人。分かるやつは分かりそうじゃねぇか?


(これは…まずいな。元のシナリオでは、超人二人で行くつもりだったが、この場合は…。)


(そうだな。ならば、ファイ。薬草だけだお前は。他は手を抜け、しっかりと。)


(特化的にバレる。それは避けたいからねー。了解。俺は、薬草だけで、ほかは普通。)


(じゃあ僕は、運動0で、頭脳はそれなりってとこかな。薬草は、やめておくよ。ハッキング…どう?)

急な提案だけどね、としかめるゼータ。


(あ、それいいな。ゼータが情報系になれば…かなり均等になるんじゃねぇか?ただ、俺たちはパソコンなんぞ知らねぇはずだからな。)

知ってても、使い方までは分かってねぇなってとこか。


(4人に足りないものってとこでさ、お兄さんが多分提案してくれる。それの便乗でどうよ。)

と示しデルタの方をむくファイ。


(ああ。そうしよう。互いが互いを補っていることを強調しろ。4人で居る重要性を示せ。これがやることだ。リデス内には確実に南のスパイがいるはずだ、外見では分からなくても能力でバレたら元も子もない。)


(そうだな)


(俺は程よいところであの手記を渡す。あと、必要と判断すれば、シナリオ通り俺とゼータ、ファイとシグマの2つに分ける。上手く話を合わせてくれ。…しくじるなよ。)

含みのある笑顔をするデルタ。


(ふふ、手を抜くのも難しい、まぁ、もちろん出来るけどね。)

(誰に言ってんの?完璧にこなしてあげる。)

(俺達にできねぇことはねぇからな。手記を渡せば俺達の実力も暗に示される。さすがリーダーだな。あと、もう7分12秒経ってるぞ)



「…」


「ほら、明日も早いから、二人ずつのベットは新鮮かもしれないけど、いい子のクロは寝れるよね?」

「うん!寝れる!おやすみ!シロ!」

(ねぇ、シグマ懐かしいね、2人で一緒に寝るの、おやすみ)

(そうだなファイ、おやすみ)


ファイがそう言った時には、4人は木製ベットに入っていた。

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翌朝


6時になった。僕は目を覚まして、起き上がって隣のデルタを見る。今日の朝ごはんはデルタに手伝ってもらおう。そう決めて、そのお腹に向かって頭突きした。デルタは呻き声を上げて起きた。お腹を押さえながら前髪の隙間から見える赤い目が僕の方を睨んでいる。


「ゼータ…普通に起こしてくれる日は来るのか?一昨日は海老反りにして、五日前は顔に向かって枕を投げつけて。綿類が貴重だったから木屑を包んでた枕だったからな、結構痛かったんだぞ!(小声)」


「え?ごめん。これからの淑女で生きていく僕の唯一の楽しみになりそうだから、本気で頑張ろうって思って。でも、僕より先に起きないのが悪いんだよ。ご飯作るから手伝ってくれない?(小声)」


(でも先にカバーレンズ付けないと。)

(お前はそのお化けの前髪を治せ。顔が前髪だぞ)


悪びれる様子のないゼータはいつも通りである。

隣のベットではファイとシグマが寝ている。昼間はあんなに喧嘩しているのに寝ていると本当に仲がいい兄弟みたいだ。デルタは紫のカバーレンズをつけ、ゼータは薄緑のカバーレンズをつける。この卑しい赤を隠すために。

シグマのところに薄緑のカバーレンズをおき、ファイの所に青のカバーレンズを置く。

地下室から1階に上がって、台所につく。電気が通っているから、とても調理が楽だ。というのも、最南部スラムの時は電気は通っていなかったから、全て火起こしから始まりだった。ただ、ゼータ達が家電を当たり前のように使いこなしたことにテペロが疑問に思わなかったのは救いだった。普通、分からないはずだから、不自由なく使えることはおかしいのだから。


「朝食はさっぱりしたものがいいかな?」

「さっきパンがあったぞ。トーストにでもするか?バターは一応あるようだしな」

「いいね!」


僕達が朝食を作っていると、ファイとシグマが起きてきた。とても不機嫌そうな顔で。

朝イチから喧嘩でもしたのかと聞けば、住み慣れた家じゃないため少し寂しくなったとファイは言った。しかし、それは少々違うようだ。お腹空いた、と話すファイは手話を始めていた。


(間違えて、シグマのカバーレンズ入れた。そしたらシグマが、お前似合わねぇな青、って!!酷くない!?)


ファイ、ムキになってるなあ。それ、実は仕向けたのは僕です。


(いや、カバーレンズ見た時点で気づけよ。俺が緑のカバーレンズ付けようとしたらコイツ、「緑は俺とゼータの特権!」ってうるせぇ顔してきたんだよ。)


(ふむ、俺もシグマとお揃いの色がいいな。)

(…ほとんど同じみたいなもんだろ。俺らの眼の色どっちも赤だろうが。)

(そうだな、そう考えれば赤もいいな)


「はい、お話はここまで。今日はトースト。パンを食べるなんていつぶりかな?クロはテーブルを拭いて、アサはテペロさんを起こしてきてくれない?多分2階の角から2番目で寝てるから。」


分かった、と言い2階へ行くシグマ。

トースト!?やったあ!と、大喜びのファイ。

うーん、いつもの倍、バカっぽい。ファイがこんなバカ少年を演じるのは体力使うだろうなあ。ずっと一緒にいるけど、フォークを持って踊るとこは初めて見た。僕は敬語にして、お淑やかにしておくことを大事にすればいいけど。あ、あと目が大事。キラキラとふわふわとした目。

デルタとファイの笑い声が聞こえる。さっきまでの喧嘩はどこへやら…

1分後にテペロさんの悲鳴が上がる。

一体どんな起こし方をしたのだろうか。人間そんな声出るんだね。シグマが薄い笑顔で降りてきて、テペロさんは口が開いたままだ。何したんだろう。


「アサも大分テペロを気に入ってるじゃないか。いい事だ。」

「コイツおもしれぇな」


何か言おうとするテペロさんに、ご飯ですよ、と言って止めさせる。だって、ファイが待ちきれなさそうだからね。ワクワクとした表情を過剰に作るファイを見て、少し笑った。

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