第十七話 神様にとってもソロは優しくないようです


 絶体絶命。

 逃げるため筋肉も一切動かない。


「・・・っ!」


 白仙は動揺し、焦っていた。

 まさか不運というスキルがここまで危険であり、死を覚悟しなくてはならないほどだったことに。

 目の前の大蛇が丸のみしようと口を大きく開ける。

 その大きさは白仙の背の高さなどどうてことないほどに大きかった。

 勢いよく開けた口が近づく。


「ぎりぎりセーフ。ですかね?」


 大蛇の口と白仙の間に突然割り込み、丸のみを防いでいたのは紛れもなく青髪のミユウであった。


「ブレイブ!」


 そのすぐ奥で度々聞いた勇ましさのある声が響き渡ると、赤い炎を纏った大剣を大蛇の胴体に振り払うアルギの姿があった。


「・・・・・・」


 白仙は呆気に取られていた。

 死を覚悟し、全身の力を抜いていた自身に対し救いの光を差し込ませた二人の出現。

 それは白仙にとってこの世界に来てから初めての良いことだった。


「何してるんですか、せっかく来たんですから手は貸してもらいますよ?」


 アルギの振り払った剣によって大蛇がノックバックしたことを確認したミユウが振り返って手を差し伸べる。

 月明かりがスポットライトのようにミユウの姿とその後ろで大剣を担ぎなおすアルギを照らし出し、不運を打ち消すような光を出していた。


「す、すまぬ」

「そこは感謝の言葉じゃないのか? それよりもこいつを片付けるぞ」

「ね? さっさと仕留めてしまおう」


 差し伸ばされたミユウの手を取って白仙は立ち上がり、紫雲と青雲を持ち直す。

 不運を打ち消す存在。それがこの二人であった。


「スイッチ方式で行くぞ。俺が飛ばしたらミユウで装甲をはがして、白仙。お前が斬れ」

「し、しかしわての刀だと・・・」

「装甲だけだったんじゃない? あいつは身に透明な装甲を持っているから、装甲を破っても皮膚に与えるダメージが薄いっていう性質があるんだ」

「話は終わりだ。行くぞ!」


 アルギが勢いよく走りだし、再度剣に炎を纏わせて大きく振りかぶる。


「ブレイブ! からのクイック!」


 大きく振りかぶっていた大剣が大蛇の顔面を直撃し後ろへ後退する。

 その瞬間にミユウが一気に距離を詰め、アルギの剣とは打って変わり長剣で顔下の胴体に空中斬りを決める。


「白仙さん!」

「分かっておる! 回転斬り!」


 神速で距離を詰め、勢いを殺さずにジャンプ。

 飛ぶときに軸足を捻り、体をねじる。

 スキル回転斬りを発動させ、遠心力を加えた紫雲と青雲による連続攻撃。


「三回転の六連撃じゃっ!」


 三回転を終えると同時に大蛇の胴体を蹴りだし、バク中を一回転。


「どうじゃ?」


 立膝で体を屈め、着地した白仙が顔を大蛇の方へ向ける。

 回転斬りしているときには気付かなかったが、切った際に出た血がかなりかかっていたようで、汗のように額から流れ落ちた大蛇の血が目に入り、痛みが伝わる。

 しかし、そんなことはどうでもよかった。軽く拭い、再度血を吹きかけた主の方を見る。


「大丈夫か? ジャイアントディフェンダースネークは死ぬと硬直するんだ。完全に死んでいる」


 張っていた気がぷつんと切れ、こらえていた立膝にも限界に達し、体が倒れる。


「あやつは?木の所にいた瀕死のやつは」

「大丈夫だよ。フェルムが運んでくれているよ」

「ほうか・・・。待て。もう一人はどこじゃ? 彼ともう一人おるはず・・・」

「まだいるのか?!」

「ここにいるよ? 無傷でね」


 突然の謎の声。

 正確には謎ではなく、行方不明であった兵士の声。

 しかし、その声は誰が聞いても安全とは言えなかった。


「なぜ。無傷なんだ?」

「ははは。アルギさんは面白いことをおっしゃる」


 バシュ。


「「は?」」


 アルギとミユウが驚愕の声を出す。

 彼らの目の前で起こった一秒にも満たない瞬間の一コマ。


「なぜ・・・! そなたがおる!」


 紫雲を振り払い、兵士の首を刎ねた白仙が怒りの気持ちをあらわにしながら声を上げる。

 アルギとミユウからすれば突然、味方兵士が殺されたという状況でしか捉えられていなかった。

 しかし、その捉え方も次の瞬間覆される。


「お前か! はっはっはっ! 懐かしい! この世界にはまだ滞在する理由ができたわ! 面白そうだな。次は仕留めきれよ? ばぁーか」

「言葉を発するな」


 刎ねられた首。絶命したはずの口が動き、言葉を発している。

 その様子にはアルギもミユウもそろって絶句していた。

 極めつけはその刎ねられ、転がった頭には白仙の刀が釘のように突き刺さっているのである。

 最後に罵言を残して場は静かになる。


「・・・・・・・。まずいことになった。桃がおらんくてはあやつは止められんのに・・・」

「お、おい白仙。大丈夫か?」


 顔を覗き込んだアルギが見た白仙の表情は焦りに満ち溢れていた。




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その狐は神様でレベル700の冒険者 東風西風 旱 @Cochinarai_Hideri

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