切り札はフクロウ
杜侍音
切り札はフクロウ
「恋愛応援マスィーン──ラブフクロウ。……何だこれ。胡散臭っ。てかマスィーンって何だよ」
就寝前に決まってするネットサーフィン。
あるショッピングサイトに辿り着いた時、あなたにオススメの欄にこんな商品が載っていた。
このフクロウの形をした機械が、購入者の恋愛を手助けしてくれるという。
……にわかに信じがたい。
しかし、何を思ったのか。気付いた時には購入ボタンを押していた。
唐突だが、俺には好きな人がいる。辛い会社勤めでも毎日休まず行けるのは、直属の上司である朝賀先輩のおかげだ。
密かに恋を寄せていたが、この度二人きりで食事に行く約束をこじ付けることに成功したのだ。
ただ思うだけでは終わりたくない。
だから少しでも可能性があるならば、それにすがりたい。
不細工なフクロウだが、ちょっとばかりこいつの力に賭けてみよう。
それに2290円で安いしな。
フクロウはデートの前日に届いた。
「見た目は本物のフクロウみたいだ。フワフワだなぁ」
フクロウは触ったことはないから分からないが、このフクロウマスィーンはクッションのようにフワフワで柔らかい。
すると、フクロウは突然開眼した。
「うお、起動した!」
しばらく見つめ合う俺とフクロウ。
「な、何だ……」
『……クルックー』
「鳴き声鳩なんかい」
そして鳴いた後は、フクロウは飛び上がった。
機械的なものとは感じさせない。本物の鳥が羽ばたいたみたいだ。
フクロウは俺のことをご主人として認証したのか、頭上を旋回している。
その辺を少し歩いてみると、ピッタリと後から付いてくる。
「これでいいのか……。すげぇ悪目立ちしてるんだけどな……」
『クルックー』
◇ ◇ ◇
そして、デート当日。
「ごめん、待たせたね」
「い、いえ全然待ってないです……!」
『クルックー』
「ちょ、うるさっ……!」
「ん? どうかしたか?」
「あ、いえ、大丈夫ですよ……ははは」
どうやら俺以外の人間には、フクロウの姿は見えていないみたいだ。
「いや、本当に大丈夫なのか……?」
「えぇ、もちろんですよ!」
「ずっと片脚立ちだけど……」
「ははは、え?」
自分の足下を見てみると、先輩の言うように確かに片脚立ちをしている。
いや、なんで⁉︎
「いや、あぁ、こっちの方が疲れないので、ほら筋肉片方しか使ってないから……!」
「はぁ……」
先輩驚いているよ。そりゃそうだよな、これってこのフクロウのせい……ってピンク色⁉︎
──フラミンゴモード──
片脚立ちをすることで体力向上に繋がる。気になる相手を発達した下半身でアピール出来る。追加効果で脚が細く見える
「で、どこで食べるの?」
「あ、こっちです!」
フクロウの変なモードが働いたようだが、とにかく効果は発揮することはしっかり分かった。
次はいい感じにしてくれよ……!
◇ ◇ ◇
集合場所の駅から少し歩いた場所。
食事に行くと決まってから、ネットの評価を便りに見つけた店である。
味も雰囲気も抜群だ。
ここで俺は先輩に告白する!
それが今回の目標である。
「でもその店混んでるぅぅ!」
カップル共が群れてやがる。店に近付くことすら出来ないぐらいに人が集まっていた。
「はは、ツイてないね。近くに私がよく行く店があるんだ。それで良ければそっちに行ってみないか?」
「あ、はい……!」
と、連れられ来たのは個室居酒屋。
しっかりしてる人だから、こんな大衆向けの店に行くとは思わなかった。先輩でもこんな場所に来るんだなぁ。
店員に個室に案内されて、早速飲み物から注文を始める。
「生ビール」
「生ビール」
同じのを注文する。
「何食べる?」
「何食べる?」
「まずは枝豆と……」
「まずは枝豆と……」
「これも美味しそうだな」
「これも美味しそうだな」
「真似してるのか?」
「真似して──あ、いや違います!」
これももしかしてフクロウのせいか⁉︎
フクロウを見てみると何か緑色になっていた。
──オウムモード──
オウム返しする
◇ ◇ ◇
食事を一通り終え、お酒も進んでいく。
「むぅ……ねむい……」
先輩は意外とお酒に弱いのか!
酔うと眠くなっちゃう体質のようだな。
「む……」
「先輩、大丈夫ですか──」
『コケコッコー!』
「うぉ⁉︎」
「……ん? あれ、急に目が覚めてきた」
おぉい! 先輩の意識ハッキリしちゃったじゃねぇか!
いや、あわよくば持ち帰りとかは考えてないけどさ……。
フクロウを見てみると、案の定、白い体に鶏冠が生えていた。
──ニワトリモード──
眠そうな相手を起こす。
◇ ◇ ◇
「さて、結構長居もしたようだし、そろそろ帰るか」
「あ、せ、先輩!」
「ん? 何だ?」
今日の目的を果たさねば……!
伝えなきゃ、俺の気持ちを。
しばらく節制して生まれたお金で買ったネックレス。これをプレゼントして告白しよう。
そのために鞄に入れていたはずのネックレス……がない。
「あれ⁉︎」
「どうした?」
「いや、その……」
(嘘だろ、失くしたのか⁉︎ しっかり用意したはずなのによ!)
と、上から何か光り物が落ちてきた。
それは俺が購入したネックレスだった。
見上げると、そこには真っ黒な姿のフクロウが。
『クルックー』
(フクロウ……! お前が見つけてくれたのか! でも箱ないな。もしくは取ってた訳ではないよな……?)
──カラスモード──
光り物を見つけて持って帰る
「先輩……先輩のことが大好きです! 箱がどっか行っちゃって裸で渡すことになりますが、このネックレスが俺の気持ちの一つです。俺と付き合ってくれませんか!」
「え、うそ……」
先輩は驚嘆としていた。
「私なんかでいいの?」
「もちろんです。俺はペンギンみたいに子育てもちゃんと参加しますし」
「ペンギン?」
「クジャクみたいな煌びやかな生活を送れるように、これから仕事も頑張ります!」
「クジャク?」
「ダチョウくらいどんなに熱いことも、キツイことも耐えてみせます」
「ダチョウ? それ倶楽部の方じゃ……」
何故か頭の中で鳥達が邪魔をして、上手く自分のアピールが伝わらない。
先輩は俺のことを一体どう思っているのだろうか。知りたい……! 先輩の気持ちを知りたい……!
その時、恋愛応援マスィーン──ラブフクロウは覚醒した!
男の素直に知りたい気持ちがマスィーンの本当の力を引き出したのだ。
奥義──フクロウモード──
起動
フクロウの非常に高い視力と、死角がない程回る首。ここに機械の力が加わることによって見たいものを全て見ることが出来る。
「それじゃあ返事なんだけど……」
「……はい」
緊張感がこの空気を支配する。
「いい──」
ビシャッ‼︎
と、音と共に先輩の服が破散した。下着姿へと早変わりしたのだ。
「は……?」
俺は目の前の景色に思わず固まる。先輩も何が起きたのか理解出来ずに、同じく固まる。
そして、シャッター音が鳴る。
フクロウの方を見ると、フクロウもまたこちらを見つめていた。
(いや、見たかったのは下着姿じゃなくて気持ちの方だよぉぉぉお‼︎ しかも物理的に服を破ったの⁉︎)
フクロウにこの思いを伝えたいが、当然伝わらない。
「いや、先輩これはあの……!」
「変態だな! 君はっ‼︎」
「べふっ⁉︎」
先輩に思い切りビンタされて、俺は壁際に倒れ込んだ。
先輩は俺の上着を奪うと、火が出そうなくらい真っ赤な顔して店を出て行った。
──フクロウモード──
相手の服を破散させる。マスィーンはステルスモード付き
◇ ◇ ◇
「駄目だ……確実に嫌われた……」
ある種いい思いはしたが、ここまでだ。
次の仕事に行くのが億劫である。
「クソ、何だよこのマスィーン! 全然使えねぇじゃねぇか!」
俺は不満をこのマスィーンにぶつけた。
マスィーンと口にするのもなんか腹立つ。
しかしフクロウは全く動じず、ただ俺を見ていた。
「……何だよ」
『…………クルックー』
「うるせぇ!」
切り札はフクロウ 杜侍音 @nekousagi
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