【KAC1】満月のスポットライトを浴びて

筆屋 敬介

ミスリードは謝らない


 満月が、黒い森をその光で柔らかく照らし出していた。

 時刻は真夜中の1時。

 満月は星空のてっぺんから少し過ぎたところだ。


 普段はまっくらな森の中に、ざわざわと賑やかな一画があった。

 森の真ん中にある大きな大きな樹。

 その真ん中あたりの木の枝に2つの影が現れた。




「はい! まいどー! ふくろうです!!」

「どうもー! みみずくです!!」


 大きな枝の両端から2羽がちょこちょこと横走りでスライドイン。

 真ん中に並んで停まった。

 もっさりした姿の『ふくろう』と『みみずく』がバサッと軽く羽ばたく。


 周囲の木々にとまった鳥たちが一斉に黄色い歓声を上げる。

「きゃああああああ! ふくろうさまああああ!!」

「みみずくーーーー! かっこいーーーー!!」


「いやー、まあ、なんですね、みみずくくん。今夜もよぅけのお客さんに来てもろてねえ」

「せやねーふくろうくん。こんなに喜んでもろてうれしいけど、賑やかすぎてね。ボク、耳、思わずふさいでしまいますわ」

「いや、君の頭の上についてる耳みたいなん、それ、羽角やん! 普通の羽やん! 耳ちゃうやん!!」

 ふくろうが隣のみみずくに、裏拳のごとく羽でベシッッとツッコミを入れる。

 ドッと周囲から、笑い囀りこえが起きる。


「キミ、痛いがな! そんなんしたら、ボクの首折れてしもたやろ! ほら見てみぃ」

 グリっと顔だけ真後ろを向くみみずく。

「君の首が回るのん、僕ら、できて当たり前やん! 僕、お客さんにひどヤツや、思われるやろ!」

 同じくグリっと顔だけ真後ろを向くふくろう。


「――って、みみずくくん、二羽ふたりとも、後ろ向いたら、漫才できへんやろ!」

 ひとりボケツッコミをしたふくろうが、今度はみみずくの後頭部めがけて、羽でどつく。

「ふくろうくん! 後ろ向いてる時に頭どついたらアカン! そこ、今、顔やから!」

 周りの鳥たちおきゃくさんが大笑いする。


「こんなん言うて、どついてますけども! 僕ら、なんやかんや言うても仲良しの似たもの同士って言われてますねん」

「ボクの顔どついたんは、スルーかい! まあええわ! そうですねん。そっくりですやろ」

「でも、僕ら似てるようで違うんですわ。なにより、僕の方が賢い!」

 ふくろうが、丸っこい体でふんぞり返る。

「なんでや! 頭のデキはおんなじくらいやろ! ボクとどこがちゃうねん!」

 みみずくも、丸っこい体でふんぞり返る。


「なに言うてんねん、みみずくくん! 君が賢いって証明できるんか?」

「キミこそ、頭がエエって証拠はあるんかいな!」

「あるわ!」

「なんやて!?」

「僕、こういう時の切り札ありますねん! 『フクロウは智恵の象徴や~って、言われてんねんぞ! アテナっちゅう神さんに色々アドバイスしとったんや。みみずくと違うて、かしこいねんで!』 これでどないや!」


「あほか! みみずくも同じフクロウ科やろ! 頭に羽角ついてるだけの違いやろが!!」

 みみずくが頭突きでツッコミを入れる。

 樹の周りの鳥たちおきゃくさんは、羽を叩いて大笑い。


 ふくろうが後頭部をどつく。

「羽角ついてるフクロウもおるわ!」

 みみずくが後頭部をどつき返す。

「羽角ついてないミミズクもおるわ!!」

「なんやねん、君!」

「なんやねん、キミ!」

「ちょい待ち、ヤホーで調べるわ」

「ヤホーってなんやねん!」

「智恵のフクロウの切り札や!」

 ふくろうが羽の内側からスマートフォンを取り出す。

 

「えーと……『フクロウとミミズクの違いは、ちゃんと決まっていない』」


「なんやねんそれ! この漫才の切り札オチ、全部キミふくろうくんに持っていかれてしもた! もうやっとられんわ!」


「「ありがとうございましたー」」

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