合言葉はフクロウ

余記

Another Brick in the Wall

戦争で荒れた某国にて。



闇を切り裂くサーチライトの光。

唸るうなるサイレンの音。


ここしばらくうわさされている、フクロウがまた出没したようだ。


なぜフクロウと呼ばれているのか?

それは、必ず現場のどこかに、フクロウと署名しょめいされているからなのだ。



「いたか!」

「いや、こっちにはいない!」

叫び合う警備兵けいびへいの声。



「おかしいな。こっちの方から物音が聞こえたと思ったんだが。」

「おまえの気のせいじゃないか?」

袋小路ふくろこうじの先を確認しあう警備兵たちの前には、とても人が入れると思えないようなごみ箱があるだけだった。


「もう少し向こうの方だったんじゃないか?」

首をひねっていると、丁度、向こうの方が騒がしくなる。


「あっちに怪しい人影が見えたぞ!」


その声に引かれて、警備兵たちは去っていく。




誰も居なくなったはずの、袋小路


ごとり


と、音がした。


にょきっ!と、手を伸ばしてごみ箱から出てきたのは、小さな子供だ。

「へへっ!まぬけな大人たちでよかった。さて。今度は俺が逃げなくちゃな。」


フクロウの正体は、戦争で親を無くした子供たちだ。

彼らは、生きる為に、協力して食べ物や、金銭を盗み出す事を学んだ。

今日の作戦は、盗んだ荷物を運び出す運搬役うんぱんやくと、お互いに協力しあって、警備兵の気を引き続けるおとり役に分かれている。


おとり役は複数いて、捕まらない程度に警備兵を引きつけてから隠れる。

そして、見つからないうちに、他のおとり役がまた警備兵を引きつけてから隠れる。

それを繰り返すのだ。




「ただいまぁ。あぁ、おなか減った!」

夜明け近く、まだ日が昇る前に、アジトに戻ったおとり役の子供たち。

アジトといっても、ちゃんとした建物がある訳ではなく、廃墟はいきょの中の壁が残っているところ、風を防げるだけの所にみんな集まっているのだ。


「おかえり。みんな無事だったのね。」

笑顔で迎えてくれる女の子。

少し大きな彼女は、子供たちみんなのお姉さん役だ。


「へへっ!俺たちが、あんなまぬけな大人たちに捕まるはずねーだろ!」

元気に返事する小さな男の子。


「それより、今日のご飯はなに?」

「今日はね、とってきた荷物の中に、あたためるだけで食べられるハンバーグがあったから、すぐ温めてあげるね!」

「え?ハンバーグ?やった!」


廃墟の瓦礫がれきなどを積んだかまど。

その上で、空き缶でお湯を沸かしている。

ごそごそと、荷物の山の中からいくつかのパックを取り出すと、お湯の中に入れて温めはじめた。

他の所から取り出した、パンをさっくり割って挟めばちょっとしたハンバーガーの出来上がりだ。


「うん!おいしい!お姉ちゃん、いいお嫁さんになれるよ!」

「ナマ言ってるんじゃないの!」

ごちん。

ってー!」



「おにいちゃんたち、おはよー」

さわがしくしていた為か、ハンバーグの匂いにつられてか、目をこすりながら、他の子供たちが起きてきた。

もう、夜明けなのだ。


朝日が差し込む中、遅い夜食のつもりで食べていた子たちと、朝ごはんを囲む。

そんな、和気藹々わきあいあいとした雰囲気ふんいきの中



「ねぇ、おにいちゃん。なんで、ボクたちはフクロウってよんでるの?」

ひときわ小さな子供が、さきほどの小さな子供に話していた。


すると、さっきまで笑顔でハンバーガーをぱくついていたその子は、真面目まじめな顔になって話し始めたのだ。



「以前、詳しい人に聞いたんだけど、この国とは違って、他の豊かな国では、子供達は大事に育てられているらしいんだ。

ここの国、俺たちのいる国と違って、小さい子、弱い子供たちから先に死んでいくような事は無いんだって。」

手についた、ハンバーグのソースをぺろり、となめとりながら話し続ける。


「なぜ、彼らが弱くても生きていけるかというとね、法律に守られているから、という事なんだ。

弱くても、子供でも、人が人らしく生きていけるように、法律が決まっているんだよ。」

聞いていた子供たちは、急にむずかしい話になってしまった事に、とまどうようにごくり、とツバを飲み込んだ。


「でも、この国では、法律は金持ちを守る為のものだ。

俺たち、子供や弱いもの、貧乏人が法律によって守られた事なんてあったか?

だから、法律なんかクソ喰らえなんだ!

その時に、そんな意味の言葉を、豊かな国ではどう言うのか?という事を聞いたんだよ。」


Fuck Law


かたわらに落ちていた木の枝を手に取り、そんな言葉を地面に書いた。


そして、その言葉の読みと思われる事をつぶやいた。


フクロウ


すると、子供たちみんな、つられたようにつぶやく


フクロウ


残りの子供たちもみんな、合わせてフクロウ、と唱和しょうわした。



そんな雰囲気になってしまった為、ちょっと英語できるお姉さんは言い出せなかったのだ。


「それ、発音ちがうよ!」

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合言葉はフクロウ 余記 @yookee

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