第11話 恐れる理由とは
部隊が何をするのかを知るために結局、フェルミットもアステラの後を追った。
朽ち果てた噴水の広場、強力無比な結界を展開している《エオリエルの盾》はそれにも関わらず静謐だった。
そのすぐ傍で指揮官たるファリムの前方に整然たる隊伍が組まれている。
「皆、ご苦労だった。これより我々は本隊合流まで《エオリエルの盾》を警護する任にあたる。キラーダ隊は戻ってアルターリ確保の伝令を。残りの隊は担当の地区で監視を行ってほしい」
「分かっていると思うがこの作戦は戦争に勝利するために極めて重要なものだ。是が非でも成功させなくてはならない。しっかりとやってほしい。以上だ」
全隊員が敬礼をした後に各々の職務のために散開する。
フェルミットは困ったようにその様を眺めていた。どうやらすぐに帰投するわけではないらしい。
ファリムが一瞬こちらを見たが何も言うことはなく視線を戻した。
(これで俺がやることないと思って帰ったら、こいつら困らないのか……?)
何も言ってこないことにフェルミットはちょっとむかつかなくもなかった。といっても本当に帰るほど子供ではないつもりだ。
どうしたものかと考えているところにアステラがやってきた。
「新しい拠点が確保できたってんで、早速本隊を呼び寄せるみたいだな」
散開する兵士たちを眺めながらアステラが言い、フェルミットが尋ねる。
「お前はここにいていいのか?」
「俺は一番強いんだぜ? 最も重要な《エオリエルの盾》の直衛が担当だ。お前こそどうなんだよ?」
「俺は……特に指示がない」
「だろうな。ファリムはお前のこと嫌ってるから、死んでも何かを頼んだりしないんじゃないか?」
フェルミットはむ、と顔を顰める。そこまで嫌われることをした覚えはない。
「前々から思ってたんだが、軍人はどうしてあんなに俺のことを嫌ってるんだ?」
質問にアステラは呆れたような苦笑を浮かべた。
「そりゃあお前、戦場の主役だからだろ?」
「お前みたいに目立ちたい人間ならそれでも分かるが、誰もがそうってわけじゃないんだろ?」
アステラのように主役でありたいと思ってる軍人が自分のことを気に入らないというのは(主役でありたいというのは分からないが)まだ分かる。だが軍人の中には恐れながら戦っている人間もいるはずだ、というのがフェルミットの考えだった。そういう人間にとってならば、強力な戦力である『勇者』は歓迎こそすれども、嫌う理由にはならないのではないだろうか。
しかしアステラは首を横に振った。
「よく分からねえ奴が戦場の主役になってるのは誰だって気に入らねえもんさ。目立ちたい奴はもちろんのこと、死にたくなくて戦ってる奴だってな」
かつては最も高い戦果をあげ今でも部下を持ち仲間から慕われる兵士が言葉を続ける。
「そのよく分からねえ奴が自分のことも守ってくれるって、どうして言い切れるんだ?」
その問いかけにフェルミットは答えることができなかった。
「だから部下の命を抱えていて、しかも本来なら一番戦場を支配するはずの指揮官ってのはお前のことが嫌いなんだよ。軍人としての矜持もあるしな」
「そういうことか……」
初めてフェルミットは納得することができた。知られていないのが問題だったようだ。
「実際、話してみるとお前が普通なんだって俺は思ったしな。他の奴もそう思うんじゃないか?」
「そうか……ありがとう、助かる」
「いいって。その代わり、約束は忘れるなよ?」
近寄ってきた部下にアステラが片手を挙げる。
「とりあえず、監視業務してる奴らの手伝いでもしてやれよ」
「ああ、そうしてみる」
早速、監視班のどれかに向かおうと歩き出そうとしたところでフェルミットが立ち止まる。何かの気配がしたような気がした。
怪訝な表情を浮かべているフェルミットにアステラが訝しむ。
「どうした?」
「……いや、何でもない」
感じた気配はすぐに消えた。何かと間違えるなんて、柄にもなく緊張でもしているのかもしれない。
「そうか、ならいいんだけどよ」
アステラがその場を立ち去り、フェルミットも歩き始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます